〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 セフィロス
 

 

 

 

 ふところに抱いた暖かみは、いつまでもそこに留まっていて、最初は小さかったものが、明け方に向かってだんだん大きくなっていくような気がした。

 色気のない話だが、まるで大きな電気あんかを抱え込んでいるような心持ちで、目覚めるのが億劫になるほど心地よかったのだ。

 

 オレがようやく微睡みから目覚めたのは、そのぬくもりが腕の中からすり抜けてしまってからだった。

 

「む……」

 身体を起こすのは面倒で、横になったまま眠たい眼を薄く開いた。カーテンの引かれた薄暗い室内が、ぼんやりと見えてくる。

 そして、すぐ近くに人の気配を感じた。

「あ、あの、あの、すまない、セフィロス」

 オタオタと意味不明の手振りを添えて、言葉にならない単語を並べる人物。

「ええとッ……その……これは……いや、私は決してそんなつもりでは」

「……ああ、おまえか」

 見慣れた黒髪の男に、オレは奇妙な安堵を感じた。

 くせのある長い髪、濃いワイン色の瞳に、雪のような白い肌。上背のあるわりに、気の毒なくらい細い身体……

 懐かしいヴィンセント……大人のヴィンセントだ。

 一度はもたげた上半身を、オレはもう一度ベッドに沈めた。

 まだ眠気が去っていなかったし、ヤツの姿を見て脱力したのだ。

「セ、セフィロス…… あの……これは…… 昨夜、居間で君に会ったところまでは覚えているのだが……」

 オレが何も言わないことに困惑して、ヴィンセントがオドオドと言葉を重ねる。

「そんなところまで遡るのか……」

 思わずオレはそうつぶやいた。

「え、な、なに……?」

「いや、なんでもない」

 つまり、行為に及んだ記憶も、この男の頭からは綺麗に抜け落ちているのだ。だからこそ、たった今、素っ裸で目覚めたことが不思議でならないのだろう。

 ……それはある意味、幸いとも言える。 

 あの軽率な行動を、無かったことにできるのならば、オレにとっても好都合だ。

 わずかな時間にそこまで考え、オレはふぅと息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント。おまえ、身体はなんともないのか?」

「か、身体? ええと……あ、ああ、もう大丈夫のようだ。薬の効果は残っていない。気分も落ち着いている」

 ヴィンセントは嬉しそうに、ズレた返事をよこした。

「ああ、まぁ、そいつもそうだが…… 違和感というか……」

 単語を選んで、チビ・ヴィンセントの話を説明しようと考えたが、やめた。

 オレとしたことが、何も懇切丁寧な解説者の役割を演じなくともよいだろう。我が家には話したがりが大勢いる。

 これだけ煩わされたのだから、面倒な仕事はモノ好き共に任せよう。

 そう割り切った途端、生来の悪戯心がむくむくと頭をもたげてきた。

「何ともないのなら、それでかまわん。……ところで、どうしておまえがここに居る?」

「あ、あの…… そ、それが私にも…… さきほども言ったが、居間で君を見つけたことしか……」

 今にも泣き出しそうな面持ちで、必死に説明しようとするヴィンセント。それに覆い被せるように、オレは訊ねた。

「居間で会っただけのおまえが、どうしてすっ裸で、オレのベッドにもぐりこんでいる?」

「そ、そんな言い方は……私にも何が何だか」

「オレ様の寝込みを襲いにでも来やがったのか? それなら大歓迎だ」

「セ、セフィロス……からかわないでくれたまえ」

 そういいながら、シーツをかき抱き、何度も周囲を眺める。

「どうした?」

「す、すまない。なにか着るものを…… どうしてこんな姿になっているのかわからないが、このままでは身動きもとれない」

 眉をハの字に下げて、ヴィンセントが言った。ここでつまらぬ行動を取っても、泣かれるだけだろう。ヤツの涙腺は、この時点ですでにスタンバイOKなのだ。

「ほら」

 オレのローブを放り投げてやると、ヴィンセントは飛びつくように受け取り、大急ぎで羽織った。

「き、君もなにか着た方が……」

「オレはいつも寝るときゃ裸だ」

「あ、ああ、そう……か、だが……」

「なぁ、それよりいいシチュエーションじゃねーか。おまえのほうから、準備万端でオレのベッドにもぐりこんでいるなんてよ」

 ずいと身を乗り出して、細い肩を引き寄せる。オレのローブはブカブカで、ノッポのかかしに布きれを引っかけたようになっていた。

「え……あ、あの…… 違うんだ、私はそんなつもりでは……」

「違う? どう違うんだ? 居間で会ったオレを口説いて、ここまでやってきたんじゃないのか?」

「セ、セフィロス……そんな……私を困らせないでくれ。そんなこと……できるはずがないのは、君が一番よく知っているだろう?」 

 それが最後の砦というように、オレのローブを胸元でしっかりと重ね合わせ、ヤツはじりじりと後退した。

 タイミング良く、扉が開かれたのはちょうど悪ふざけの真っ最中で、ヴィンセントは入ってきた人間に救い出されることになった。