〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 セフィロス
 

 

 

「おはよう、俺の可愛いウサギさん。昨夜はセフィロスの部屋へお泊まりだったのかい?」

 ノーテンキな三文詩はジェネシス以外の何者でもない。ヤツはノックもそこそこに俺の部屋の扉を開けたのだ。

「ジェネシス……!」

 じりじりと後退していたヴィンセントは、よろけるようにジェネシスにしがみついた。

「め、女神……?」

 さすがのジェネシスも、きょとんとした面持ちで、大きくなったヴィンセントを凝視した。

「あ、あの、ジェネシス。き、来てくれて……よかった」

「……ああ、いつもの君だ。ああ、そうか。よかった、元に戻ったんだね」

「え、あ……そ、その、もう身体は大丈夫……なのだが」

「違うよ、そうじゃなくて。もっと大変な状態だっただろう。セフィロス、彼には……」

 ジェネシスはヴィンセントを抱き支えたまま、オレに訊ねてきた。

「……オレさまがご丁寧に説明するわけないだろ。ただひたすら面倒を被っただけなのによ」

「ふふふ、そういえば、あのおチビちゃんは、たいそうおまえに懐いていたものね。セフィロスって、案外小動物に好かれるよねェ」

「ケッ、知ったことか。後はおまえらに任せる。さっさとそいつを連れて出て行け」

 手振りを交えて、シッシッと追い払う。

 すると、さきほどまではビクビクしながら、オレと距離をとっていたくせに、今度は不安げにこちらを振り返るのだ。大人になっても、チビガキでも、ヴィンセントはやたらとオレの手を煩わせる。

「セフィロス、女神が不安なんだってさ。もうとっくに朝の九時も回るのだから、おまえも着替えて居間に来てくれよ」

「ふん、居候のくせにエラソーに」

「その居候に起こされているようでは情けないよ、セフィロス」

 ヴィンセントとは正反対に、弁の立つジェネシスだ。

 オレはすぐに行ってやると、ふたりを追い払い、だるい身体を引き摺ってバスルームに足を運んだのであった。

 

 

 

 

 

 

「……こ、子供…… わ、私の……?」

「いや、おまえ、『おまえのガキ』じゃねー。『おまえがガキ』だったんだ」

 オレの言葉に、ヴィンセントが惚けたようなツラをさらす。

「そう、ぴちぴちの十代だったんだよ。それも、今度十三才になるっていってたから、ローティーンだね」

「……なんか、おまえがいうとエロイなイロケムシ」

「失敬だね、セフィロス。オレはチビちゃんのことをすごく気に入ってたの! もちろん、こうして大人のヴィンセントが帰ってきたのはうれしいけど、少しばかり寂しい気持ちもあるんだよ」

 ヤズーのアホたれは、そう言いながらしみじみと茶を啜った。

「……私が子供だった……」

「そう。みんな、大歓迎の雰囲気だったんだけどさァ。兄さんだけは落ち込んじゃって。いつものヴィンセントのこと、ずっと気にしていたみたいだよ」

「あ、あの、クラウドは……?」

 たった今、思い出したように、ヴィンセントが口走った。

「いやだなぁ。この時間は仕事でしょ。一刻も早く知らせてやりたかったから、メールだけは送っておいたけど」

「そ、そうか…… そう、だな。どうも曜日の感覚が……」

 ヴィンセントは心許なげにカレンダーを眺めると、側に放り出してあった、新聞紙を見つめた。日付を確認しているのだろう。その後で大きくため息を吐く。

「……一週間も経っていたなんて」

「そうだよ。どうもあなたの感覚だと、翌日みたいな気分のようだけど、実際時間は経っているんだ」

 頷き返すヤズーを見上げ、そのまま目線をジェネシスに寄越す。

「おやおや、女神。そんな怯えたような表情をしないでくれたまえ。君はなにひとつ不安になる必要なんてないんだよ。薬の効果も切れたのだし、明日からはまたあたりまえの日常が続くんだ」

 さすがといおうかなんというか。

 ヴィンセントを女神と呼んで、はばかりもせず崇拝するだけのことはある。ジェネシスは、どういう言い方をすれば、この気弱な姫さんを安心させられるのかわかっているようだった。