End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
Interval 〜04〜
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「ごめんね、ごめんね、ヴィンセント…… ようやっと落ち着いたトコロだったのに……俺……こんな姿になっちゃって……」

「ハァァ? 貴様、何様だ! もう一ぺん言ってみろ、クソガキ! 『こんな身体』とはどんな身体だ!」

「決まってんだろ、こんな身体だよ、『こんな』!」

「バカ者め! オレのほうこそいい迷惑だ、チビチョコボの身体なんざ……ああ、鬱陶しいッ!」

「チビって言うなッ! なんでオレがエロエロセフィロスの身体にならなきゃいけないんだよ! この姿じゃヴィンセント嫌がられちゃうよ!」

「……ク、クラウド……そんな……私は……」

「せっかくヴィンセントの体調が元に戻ったってのに……これからふたりっきりで、目一杯、一緒に過ごそうって考えてたのに〜〜っ!」

 わぁっとばかりにクラウドは泣き伏した。……あ、いや、『セフィロス』の姿をしたクラウドが、だ。

 私のふところで、大きなセフィロスが背を丸めて泣いている様は、ある種の感慨を呼び起こすほどに不思議な情景だ。

 ……可愛らしく見えてしまう……などと言おう物なら、私もクラウドもただではすまないだろう。なんとか気を取り直してもらおうと、震える背中を撫でる。

 

「よせ、クソガキ! オレの姿でビービー泣くな、バカヤロウ!! おい、ヴィンセント! 貴様も貴様だ! そいつを甘やかすなッ!」

「だ、だが……」

「おまえがそうやって、なだめすかすからベソベソ泣くガキになるんだろッ! ボケナスがッ!」

 ……中身はセフィロスだとわかっているものの、『クラウド』の姿でそうして罵倒されると、怖いとは感じないのだが少しばかり悲しくなってしまう。

 クラウドだけは、人より劣った私をバカにしたりはしなかったし、欠点よりも長所を見ようとしてくれるのだ。

 

 私の様子をいち早く察知したヤズーが、すぐさま割って入ってくれた。

 

「セフィロスも不安だから物言いがキツクなるんでしょうよ。この前はヴィンセントと入れ替わりになっちゃったものねぇ」

「……ケッ!」

「前回はどうやったら元に戻ったんだっけ、ヴィンセント」

「あ、ちょっ……よしてよ、ヤズー! その話はもういいじゃん!」

 『セフィロス』の姿をしたクラウドが慌てて取りなした。彼はその話には触れて欲しくない様子であった。

 話によると、クラウドは私の姿をしたセフィロスの部屋に夜這いを仕掛けたらしいのだ。もちろん好ましい行動ではないが、泣いて謝罪されると恐縮してしまう。

 正直、私自身はそれほど不快に思ったわけではなかったからだ。もっとも当事者のセフィロスとしては、不愉快きわまりなかったのであろうが。

 

「……確か頭に強い衝撃を受けたと聞いたが……」

「そうそう、このクソガキが花瓶を『ヴィンセント』の頭にたたき落としてくれたんだったよなァ」

 ややこしい話だが、実際に「たたき落とされた」のは、私の姿をしたセフィロスであった。

「そう。それじゃ、今度は兄さんの頭でも殴ってみる?」

 さわやかに言ってのけるが、ヤズーが口にすると本気なのか冗談なのか判断に迷うところだ。

「おい、イロケムシ。おまえのいう『兄さん』は、今のオレのことではなかろうな」

 『クラウド』の姿をしたセフィロスが、苦々しげにつぶやいた。

「えー、まぁ、どっちでも。『セフィロス』の身体を殴ってもいいならそうするけどさ」

「ま、待ってくれヤズー……そ、そんな可哀想なことは……」

 私は慌てて取りなしたが、それは杞憂だったらしい。クスクスといたずらっぽい笑みを浮かべ、やや困ったような口調で彼は言った。

「まさかァ、さすがに冗談だよ、ヴィンセント。あなたの大切な人たちにそんなひどいことできるわけないでしょ?」

「フン、おまえがそう言っても説得力はないと思うがな」

「……ああ……でも殴ってもらって元に戻るなら……俺、それでもいいよ」

 しょんぼりとした様子でクラウドが言った。だが、姿はセフィロスだ。いつも堂々としていて自信たっぷりの彼がそんな様を見せると、もうどうしていいかわからないほどに動揺してしまう。

「ごめんね……ヴィンセント……ホント、もう……最低」

「最低なのはオレのほうだ! 勝手なことを言うなクソガキ!」

 猛々しく怒鳴りつける『クラウド』。それに言い返しもせず、『セフィロス』は悄然と肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 ……この一ケ月、クラウドは非常に紳士的に振る舞ってくれた。私の怪我は彼が思っている程度よりよほど軽かったにもかかわらず、大事をとって休養するように言われている。

 家事だけはいつもどおりこなすつもりであったのに、先を読んでヤズーが動いてしまうし、今日の大掃除だってこのとおりの特別扱いなのだ。

 口にするのも面はゆいのだが、夜も自重しているようで、自室で大人しくしているのだ。

 

「クラウド……そんな顔をしないでくれ……」

 項垂れた肩をそっと後ろから抱きしめてやる。

 『セフィロス』のほうが当然、肩幅が大きいので、抱きしめるとは言っても手を置くくらいのことしかできないわけであるが。

「……な? 不安なのはわかるが、おまえはきちんとここにいるのだし、セフィロスだって同じだ。どこかに……行ってしまったわけではないのだから……」

 おのれのしでかした失敗を引き合いに出し、私は彼に微笑みかけた。

 俯いた顔をようやく上げてくれるクラウド…… 

 いや、姿は『セフィロス』……だ。そうだったのに……気を抜いていたわけではなかったのに。

 吐息が触れ合うほどの場所に、泣き濡れたセフィロスの整った顔…… 

 今にも心臓が跳ね上がり、口から飛んで出そうな心持ちになる。

 カーッと頬が朱に染まってゆくのを感じるが、なんとかごまかして言葉を続けた。

 

「だから、どうか元気を出してくれ……おまえ……『クラウド』がそんな悲しそうな顔をしているのは見ていて苦しくなる」

「……ヴィンセント……」

 納得してくれたのか、蒼い双眸にゆらゆらと涙が溜まる。まるで氷った湖面に雨水が滴るように……

「……ツラはオレ様だがな」

 ケッと悪態をついて、茶々を入れるセフィロス。

 

「ま、とりあえずさ。この前みたいに何かの拍子で、呆気なく元通りになるかもしれないから落ち着いて対処しよう」

 ヤズーはいとも容易くそう取りまとめると、『それじゃ、俺たち晩ご飯の仕度があるから』と言い、私をキッチンへ引っ張っていったのであった。