End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
Interval 〜04〜
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「……あ……クラ……い、いや、『セフィロス』」

 私は本当の彼の名を口にした。

 

「フン、残念だったな。おまえのクラウドでなくて」

「そんな……」

 頭の悪い私は、適当な返答も見つけられない。

 形のよい口唇をゆがめて『クラウド』の造形が皮肉げに嘲笑した。中身がセフィロスに入れ替わったクラウドは、なんだかいつもより大人びて……少しばかり厭世的な雰囲気を漂わせていた。

 

 気の利いた物言いができない私は、身を縮こまらせて、沈黙するしかないのだ。クラウド……いや『セフィロス』は気まずい雰囲気に、チッと小さく舌打ちすると、さっさときびすを返してしまった。

 

「あ……あの……」

「…………」

「セフィロス……あの……わ、私に用があったのではないのか……?」

 慌ててそう訊ねた。何かしゃべらなければ……このまま放っておかれて、二度と彼に口をきいてもらえないような気がして。

 

「……別に」

 こちらを見もせずに、彼は素っ気なくそうつぶやいた。

「だ、だが……」

「……窓の外におまえの姿が見えたから寄ってみただけだ。この姿では外泊も出来んからな」

「……あ……」

 最近、セフィロスは夜遅くなることが多い。朝帰りもめずらしくなくなった。

 あの一件で傷を負った当時は、ほとんど家の中に居てくれたのだが、傷が癒えた今、外出を忌避する理由はなくなったのだろう。

 

「……あの……」

「なんだ」

「その……き、聞いてもいいだろうか……? ず、ずっと気になっていることがあって……」

 座ったままの姿勢で、身を乗り出し、私は必死に言葉を紡いだ。

「不愉快に思うのならば申し訳ないのだが……」

「だから何だ? 気が向けば答えてやってもいい」

 年齢よりもやや幼い作りのクラウド。その愛らしく整った顔が、酷薄な微笑に歪んだ。

 

「……『セフィロス』は、少し前から……その……夜に居ないことが多いから……あの、いったいどこへ行っているのかと……心配で……あ、す、すまない。鬱陶しいことを言ってしまって…… もちろん、私のような者が口出しするような事ではないと……わかっているのだが……き、気になってしまって……」

「……ほぅ、オレの外泊が気になるのか?」

 セフィロスのくせなのだろう。斜めに腕を組み、俯いた私を睥睨するように睨め付ける。

 

「……あ……その……」

「なんだ、ハッキリ言え」

「き、気にならないと言えば嘘になる……」

「夜、オレがいないと不都合なことがあるのか?」

「そ、そういうことではなくて……ただ……気になって……しまって……」

 

「何故だ?」

 クラウド……『セフィロス』がそう訊ねた。

 その声音が、先ほどまでの嬲るような意地の悪い声音ではなく、少しばかりでも真剣みを帯びた強い声で私は思わず顔を上げてしまった。

 

「な、『何故』?」

「……そう、『何故』だ? ヴィンセント」

 『セフィロス』は繰り返した。

「そ、それは……あの……」

「…………」

「私にも……よくわからないのだが…… ただ、私は君のことがとても大切で……いつも気になっているから…… もし、帰ってきてくれなかったら……とか、どこかへ独りで姿を消してしまわないかと…… おかしな想像ばかりしてしまって……不安になって……」

「……へぇ」

 面白そうにセフィロスは声を上げた。クッと口角を持ち上げ、目を細める。

 

「ずいぶんと貴様はオレのことを好いてくれているようだな」

 茶化した物言い。

「そ、そんな言い方は…… ただ……私は……」

「ただ? なんだ、ヴィンセント? おまえは『このガキ』が好きなのだろう?」

 『セフィロス』はそういうと、クラウドの身体の胸のあたりに手を宛てて見せた。

「……あの……」

「クラウドが側にいれば、それで十分だろう?」

 そう言って嗤うと、石像のように座ったままの、私の目線に合わせるように腰をかがめた。いつもは桜色で健康的なクラウドの肌が、月明かりに蒼白く映っている。

 

「なぁ、ヴィンセント」

 一歩、彼がこちらに歩み寄る。

 いつものクラウドとは異なる、不可思議な妖気。

「……『セフィロス』……?」

「おまえはずいぶんと欲張りだな」

 滴るようにそうささやくと、『セフィロス』は私の両耳の横に、両手をダンとついた。二本の腕で挟まれるように固定され、身動きが取れなくなる。

「あ……ッ」

 声が漏れると同時に、背筋にぞくりと震えが走った。

「……そんな……私は……」

 緩慢な動作で、首を横に振ってみせるが、戒めは解けなかった。