End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
Interval 〜04〜
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 湯の中で、『セフィロス』の顔がゆらりと揺らめいた。

 伸ばしかけの髪を丁寧にすすぎ、しなやかな筋肉のついた腕を、足を、背中を、ゆっくりと洗ってゆく。

 

 セフィロスの肌は白い。

 いつもピッチリとした黒のコートで覆い尽くしているせいかと思ったが、どうやら地が白いのだ。湯を玉にはじき返す艶やかな肌、銀の髪が露を含み、キラキラと輝いている。

切れ長の双眸を睫毛が覆うと、深い影が目元に現れる……それがまた色っぽくて……

  

「……やっぱ、綺麗だァ……セフィロス……」

 俺は間抜けにも鏡に映った、「今の自分の姿」に嘆息した。

 何度も間近でみた顔なのに……子どもの頃はそれこそ毎日のように、側近くに居たはずなのに。

 ずいぶんと久々に、この整った顔を、じっくりと見たような気がする。

 

 身体の泡をシャワーできちんと落とし、俺はもう一度湯船に浸かった。

 一番広いこのバスルームは、湯船の壁際に大きな鏡が貼り付けてある。お湯に浸かりながら、眺められるように。

 以前、ヴィンセントに、

「ラブホじゃないのにね〜」

 と言って笑ってみせたら、ものすごく困ったような顔をして、頬を染めていた。

 

「あー、ヴィンセント、好き〜、可愛い〜」

 セフィロスの声でそんなことをつぶやいてみせる。

 

 ……最近、少しだけ気になっていることがある。

 例の一件……DGどもの来襲に、ヴィンセントが家を飛び出していってしまったあの件の後……いや、そうじゃない。それよりももっと前から、なんとなく気がついていた。

 

 ……ヴィンセントは、ものすごくセフィロスを気にしている。

 当初、セフィが唐突に、この家に来たばかりの時は、ただ怖がっていただけだったと思う。それに他の感情を見取れるようになったのは、いつ頃からだったろうか。

 以前、ヴィンセントには好きな女性が居た……その話は本人から聞いて知っている。

『ルクレツィア』という女性科学者……そう、自らがジェノバの媒体となり、セフィロスをもうけた女人。

 図式としては、ヴィンセントにとって、最愛の女性の息子、という形になるのだろう。

 だが、セフィロス自身は、おのれを宿した女のことなど、何の興味もないだろうし、実際、ジェノバを「母」と呼ぶ。

 

『彼女を止められなかったのが私の罪……』

 ヴィンセントはそう言った。そして泣き笑いのような表情で、贖罪の言葉を綴ったものだ。

 セフィロスに対する、ヴィンセントの献身は、その『贖罪』がなせる技だと思っていた。いや、それ以外にあり得ないと信じようとしていたのかもしれない。

 

 

「……ヴィンセント、セフィのこと……どう思ってるの?」

 鏡の中の『セフィロス』は、眉をハの字に落とし、不安げな表情でそうつぶやいていた。

 ヴィンセントは俺のことをとても大切にしてくれている。いつでも、やさしくやさしく包んでくれる。

 ワガママを言っても勝手なことをしても、無理やり迫ってみせても、ただ諾々として、静かに受け入れてくれる。

 不安なときは、そっと髪を撫で、「大丈夫だ、クラウド……」と、そうささやいてくれる。

 でも、それは「恋」なのだろうか?

 

 俺はヴィンセントの心だけでなく、身体も欲し、すべてを独占しようとしてしまう。

 『恋』しているからだ。恋しいが故に、その人の全存在を自分の物にしたい、所有したいと願ってしまう。だが、ヴィンセントのありようはそうではない。俺を許し、自由を与え、疲れた翼を休める場所を作ってくれる……そういう接し方なのだ。

 

「俺……やっぱガキなのかなぁ……独占欲強すぎ?」

 鏡の中の『セフィロス』に訊ねてみる。彼は伸びかけの銀の髪からしずくを垂らし、白い頬を微かに上気させて、困惑したような面持ちでそこに居た。

「ハァァ〜……もぉ、冴えないなァ……」

 大きなため息をひとつ吐き出し、俺は湯船から勢いよく身体を起こした。そのまま脱衣所に移動し、バスタオルで身体を拭う。

 セフィロスのタオルは、とても大きなキングサイズのものだ。それはそうだろう。本当に彼は背が高い。入れ替わり騒動で辟易としているが、これだけは唯一の利点とも言える。高いところに容易に手が届くし、なんだか目線が高くなるのは、こそばゆいように嬉しいのだ。

 浴室から出ると、心地よい風が入ってくる。濡れた髪を手早く拭い、何気なく視線を投げかけると、脱衣室の全身鏡にセフィロスの均整の取れた身体が映っていた。

 俺はおもむろにバスタオルを腰に巻き付けると、片手を耳の後ろに引きつけ、もう一方をウエストに添え、お色気ポーズを取ってみた。

「うふん……なんつってね。あー、エロイエロイ」

 へらへら笑っているところで、ガラリと扉が開かれた。

「どっちがエロイんだ、ボケナス!」

 と、『クラウド』に怒鳴りつけられる。自分の姿の男に眉を顰められ、叱られるのも不可思議な感覚だ。

 

「ちょっとぉ! いきなり開けないでよ!」

「おまえが愚図だからだ。ほら退け。オレも入る」

「セフィんところは、ゲストルームなんだからバスルームもあんだろ!」

「ここの方が広くて気分がいい」

 フンと鼻を鳴らすと、さっさとシャツのボタンを外し始める。

「……ちょっ……いきなり脱ぎ出すなよ! デリカシーないなァ!」

「他人の身体で、ポーズを取ってる男に言われたくないな」

「な、な、なんだよッ! べ、別に……俺は……ただ、ちょっと……」

 しどろもどろになりながら、俺はセフィロスをにらみつけた。正確には俺の姿をした『セフィロス』をだ。

 

「うわ……」

 ついつい、驚きの声が漏れ、それは俺の中で絶望に取って代わった。