Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 翌日。

 この日も朝からサンサンと太陽が照りつけ、ひどく暑い一日になりそうだった。

 コスタ・デル・ソルは四季の別がほとんどない、南の島なので致し方がないのだ。

 私は買い物袋を抱えたまま、日差しをよけるようにして歩いた。

「ヴィンセント! そっちの果物の袋も貸して。車に乗せて来ちゃう」

「あ、ああ、いや、私が運ぶから……」

「いいったら。他にもまだけっこうあるし。悪いけどカダの相手をしてやってて」

 最後の一言はほとんど耳打ちのようにして告げ、彼は軽快な足取りで大量の荷物を抱え駐車場に歩いていった。もちろん、私の抱えた果物の買い物袋も一緒に。

 男性六人所帯なので、食料品の買い出しは大仕事になる。

 ヤズーは車で無くとも大抵のものは配達を頼まずに、自分で持って帰ってきてしまう。私と同じような細身の人なのに、彼は非常にパワフルなのだ。

 

 今日は私とヤズー、そしてカダージュの三人で買い物に出かけてきた。いつもの青物市場ではなく、少し足を伸ばして、セントラルのショッピングモールまでやってきたのだ。

 いくら横文字でショッピングモールとは言っても、露天商も出ているし、田舎の商店街のような雰囲気だ。

 それでも公園の青物市場よりは様々な商品が購入できる。食料品で言うなら、調味料や香辛料はこちらのほうが揃っている。

 時たま、目新しいものも見つけることができるので、カダージュが付いて来たがるのだ。

 

「ヴィンセント〜! ねぇねぇ、ヴィンセント〜!」

「カ、カダージュ、どこだ?」

「ヴィンセント、こっちこっち〜」

 目を離すとすぐに動き回ってしまうカダージュ。思念体の中でもっとも幼い彼は、情緒面ではまだまだ子供同然だ。ようやく彼を見つけ、足早に近づくと興奮している様子の彼に声を掛けた。

「カダージュ、どうした? なにかおもしろいものでも見つけたのか?」

 そう言いながら彼の側に寄ると、末の子は目をらんらんと輝かせて、ひとつの露天商の前にしゃがみこんでいた。

 

 

 

 

 

 

「おや……これはいいものを見つけたな」

 そういって側に寄りそうと、彼はひどくうれしそうに急き込んで説明しようとした。

 カダージュの見つけたものは、本だった。

 それも見たこともないような……不思議な印象のする本。どこかなつかしいような……心浮き立つような不思議な印象のもの。

「ねぇねぇ、ヴィンセント。……これ買っちゃダメ?」

 カダージュは数冊の大判の絵本を抱きしめて、上目遣いで訊ねてきた。

 商いをしているのは、もはや年を数えることも忘れたかのような老婆だ。我々のやりとりを淡い笑みを浮かべたまま、黙して聞いているのみであった。

 私は彼女に目礼してから、カダージュとの会話に戻った。

「ねぇねぇ、ヴィンセント。これ、欲しいの」

「ああ、それはかまわないのだが……」

 カダージュの抱きしめている数冊の中から一冊を受け取ってみる。

 

 ……ああ、やはり。

 触れてみると、よけいに不可思議な感情が強くなった。なんというか……既視感とでもいうべきか。ひどく懐かしい感覚だ。

「どうしたの?」

「あ、いや……初めて見るはずなのに、知っているような気がして……不思議なものだ」

「ヴィンセントも気がついた? 僕もだよ! だってこれ、向こうの人たちと同じにおいがするんだもの」

 理解しがたい言葉で説明してくれるカダージュ。残念ながら、私はこの子ほど明敏ではないのだ。

「い、いや……私にはよく…… カ、カダージュ、『向こうの人たち』というのは……?」

「もちろん、あっちの世界の『兄さん』や『セフィロス』、レオンたちのことだよ」

「え……ええッ?」

「何びっくりしてるの、ヴィンセント? わからなかったの?」

「あ、ああ……いや、確かに言われてみると…… これは……」

 そう答えている自身に驚きつつ、カダージュの見解を認めざるを得なかった。そうだ……この懐かしさ、慕わしさ……もう一つの世界の友人たちと取り巻く空気が似通っているのだ。

「ね?ね? ヴィンセントもそう感じるでしょ?」

「あ、ああ…… 本当に不思議な本だ」

「ね、それでね、ヴィンセント。僕、このシリーズ欲しいの。全部はダメだろうから、どれかいっこでも……」

「いや、すべて購入すべきだ」

 断定的にそう言っていた私を、カダージュが目を丸くして眺めていた。

 露天商の老婆は、とうとう最後まで一言も口をきかず……しかし、けっして粗略ではない態度で、それらを丁寧に油紙に包んでくれた。

 

「ヴィンセント〜! カダージュ!」

「あ、ヤズーだ!」

 私たちが露天を離れたところで、上手い具合にヤズーに出会えた。

 よかった……惚けていた私は、失礼なことに、カダージュと一緒に、彼の戻りを待っていたことさえ失念していた。

「大丈夫? ヴィンセント。なんかぼうっとしちゃって」

「え……あ、ああ、すまない。つい……」

「あのね、あのね、ヤズー! 僕、ヴィンセントに本、買ってもらったの!!」

 シリーズ本数冊をまとめ買いしてもらったせいだろう。カダージュは興奮した様子で大切そうに包みを持ち上げて見せた。

「へェ、よかったね、カダ。ヴィンセントにちゃんとお礼を言った?」

「うん、もちろん!」

「あ、いや……そんな…… むしろ私の方が気になってしまって……」

「……? 気になるって何がさ? ヴィンセントも何かおもしろそうな本でも見つけたの?」

「ヤ、ヤズー。早く帰ろう。おまえにも見て欲しいんだ」

 カダージュにつられたように、私も急いた声で彼を促した。

「えぇ? お茶もしないで直帰〜?」

「いいから、いいから……とにかく聡明なおまえに感想を聞きたいのだ」

「いーからいーから!」

 カダージュもいっしょになってヤズーを促してくれた。

「ふぅん。ま、ちょっと面白そうだね。じゃ、駐車場に行こうか」

 私とカダージュに追い立てられ、ヤズーも本に興味を持ってくれたらしい。

 傾きつつある日差しを避け、あっさりと帰宅することに同意してくれた。