Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 家に帰り着くと、荷物を整理するのももどかしく、私とカダージュはヤズーを引っ張って居間に移動した。陽はほとんど沈んでいるが、この時刻だとクラウドはまだ帰ってきていない。

 普段ならば、そろそろ夕飯の支度をし始めるところなのである。いや、むしろ遅いくらいだ。そうはいうものの、まずは気になる本を確認せねば落ち着かなかった。

 

 居間に誰もいないのをよいことに、数冊の本を一挙に店開きすると、ヤズーは睫毛のうるさい切れ長の双眸をみごとにまん丸にした。

「おやおや、これ全部買ってきたの? 俺はてっきり……」

「い、いや、だが、これらのシリーズ、すべてがあの世界に通じているのだ!」

「わ、ヴィンセント断定しちゃってる〜」

 もっとも年少のカダージュに茶化されて、私は頬に血が上るのを感じた。だが、やはり興奮は抑えられない。

 たぶん……いや、きっと、これらの書物は何らかの形で、彼らの住まうもうひとつの世界から流れ着いてきたのだ。

 

「どう思うヤズー……?」

「…………」

「感じはしないか……?」

「うん…… なんだか不思議な懐かしさを感じるね。慕わしいっていうか……既視感がある」

 彼は慎重にそう答えた。そして一冊を手に取り、くるくるとひっくり返しては、一番後ろのページを確認する。

「どうした、ヤズー?」

「いやね、発行元を知りたいと思ったんだけど……」

「あ、ああ、なるほど。……ええと」

 私も彼と一緒に、汚れてはいないが、かなり古くなった童話をひっくり返して調べてみた。

 だが、肝心な文字の部分がかすれて消えていたり、奥付がついていなかったりするものばかりで、どうにも要領を得ない。本文が汚れているものがないのは幸いだが……

 

 

 

 

 

 

「なんだ、エロ本か?」

「ひィッ!」

 耳元で重低音が響いて、私は思わず声を上げていた。

 恐る恐る顔を上げると、吐息がかかりそうな距離にセフィロスの整った横顔…… 出来損ないの私の心臓は、ふたたびバクバクと波打ってしまう。

「あ…… セ、セフィロス……」

「オレはゴーカン魔か? 声を掛けたくらいで、いちいち悲鳴を上げるな、ヴィンセント」

「似たようなモンでしょ。どうせ驚かすなら、繊細なヴィンセントじゃなく俺にしなさいよ」

「アホか。最初から気づいている狐野郎相手に無意味だろ」

 ヤズーはちゃんとセフィロスの気配に気づいていたんだ。

 ……我ながら情けない。

 一応、元・タークスであったのに。平穏無事な生活に甘え、さらに惰弱に……

「『ああ、情けない。人の気配も読めないなんて、平和惚けで恥ずかしい』とかなんとか思ってんじゃねーだろうな。おまえは」

「え? あ、あの……その……」

「フン、そのボケたところがおまえの取り柄だろ。おどかしたんだから、驚いてくれた方が気持ちいい」

 どう返事をしていいのか困惑し、オドオドと言葉を探っていると、

「はーい、翻訳します」

 と、茶化したふうにヤズーが挙手した。

「『オレ的には、そうしておっとりとしたおまえだから、一緒に居ると癒されるし、ついついこうしてかまいたくなるし、愛しいと思うんだ』……ま、こんなところォ?」

「え、え?」

「アッハッハッ!ヴィンセント真っ赤〜 兄さんいなくてよかったね〜」

「カ、カダージュ、よ、よしなさい!」

「テメェ! このイロケムシが!テキトーなことを……」

 すまし顔のヤズー。その胸ぐらを掴み挙げようとするセフィロス。私は慌てて彼を止めようとしたが、その瞬間、第二の闖入者が突如乱入した。

「異議あり〜ッ!」

 ズザザザザザー!

 と、ホコリを立て、スライディングで私とセフィロスの間にみごとに割って入る。

 もちろん、こんなことをするのはクラウドしかいない。見れば荷物運びを手伝っていたらしいロッズが、あっけにとられたように、兄の行動を眺めている。

「異議ありだッ、コノヤロー!」

「ああ、クラウド……ロッズ…… おかえり、疲れたろう? すぐに夕食の支度を……」

「そうじゃないでしょ、ヴィンセント!」

「あっはっはっはっ! やっぱりヴィンセントってサイコー! 本当に癒されるよォ」

 楽しげに笑うヤズーを、ギロリとにらみ返し、クラウドはさらなる異議を申し立てた。

「ちょっとヤズー! アンタの翻訳おかしいでしょ、ソレ? 特に最後のトコ!」

「ああ、『愛しい』ってフレーズ? いいと思うけどなァ。隠れた本音っぽくて」

「オイオイオイオイ、この野郎! 聞き捨てなりませんよ、ヴィンセントの最愛の恋人である俺的には!」

「や、やややや、やめてくれッ! ふたりとも! そ、そんな大声で…… セフィロスが呆れているだろう? も、もう……は、恥ずかしい……」

 必死の思いで、やり合うふたりに割り込み、それ以上恥をかく危険だけは回避できた私であった。

 


 ……後に思い返すと、こんなやり取りで大慌てしていたことが、懐かしいくらいに感じられるわけではあるが。

 いや、それも正確ではない。

 もっともっと慌てふためく状況の序章としては、物足りないような日常の一コマであったと……そういうことなのだ。