Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「うん、そう、チキンスペシャルとォ、チリビーフ、シーフードとビーンズのヤツ……」

「ヤズー! トロピカルも!」

「ったく兄さんってば……ああ、失礼。トロピカルピザも追加してもらえる? うん、全部Lサイズで。サラダはシーザーサラダの大きいヤツを二皿ね。デザート? それは別に……」

「ヤズー! ティラミス!」

「ヤズー! アップルパイ!」

「ヤズー! アイスクリーム!」

 兄さん、カダ、ロッズの順番に言われて、俺はため息混じりにリクエストを一つずつ注文してやった。

 結局、ゴタゴタで夕食の支度は断念。

 今夜はデリバリーを取ることになったのだ。まぁ、たまには作り手を休んで食べるだけなのもいいかなと思う。特にヴィンセントにとっては。

 

「チッ、ジャンクフードか。育ち盛りなのによ」

 と口の悪いセフィロス。なにかひとつ文句をつけねば気が済まぬらしい。

「ちょっとォ、あなた、まだそれ以上育つつもりなのォ?」

「ヤ、ヤズー、そんなそんな言い方は…… あ、あの、セフィロス? よければ君の分だけでも……」

「今包丁を握ったら、十中八九指を切るぞ、ヴィンセント。絵本が気になってソワソワしてんだろーが」

 セフィロスがそう言うと、ヴィンセントはためらいがちに腰を下ろした。だが、全員分の飲み物には余念がない。

 

「あ−、うん。わかるわかる」 

 本を一冊手に取りながら、ごく軽い口調でそう言うクラウド兄さん。

「ク、クラウド。おまえも感じるか? どこか懐かしいというか……『彼ら』の空気を……」

「っていうか、この本、もともとホロウバスティオンにあったんじゃない? 俺、二回行ってるからわりとはっきりわかる」

「……その割には驚いていないねェ、兄さん」

 と、俺は言った。その間にピザが来て、ヴィンセントとカダージュが受け取りに行ってくれた。

 

 

 

 

 

 

「むぐむぐ……らって、べちゅに……むごむご、おろろくひつようも……」

「……咀嚼しながらしゃべらないでよ、兄さん」

 手拭きのナプキンを差し出すと、彼は口を動かしたままそれを受け取り、コーラをゴクンと音を立てて飲んだ。

「あー、うまーい。やっぱし、ピザはトロピカルだよね!」

「ったく、おまえはガキの頃から嗜好が変わらんな! よくもまぁ、そんな甘ったるいヤツが食えたもんだ」

「セフィのはただの食わず嫌いじゃん。食べてみなよ、ほらほらほらァ!」

「よせ! くっついてくるな!」

「もう、ちょっとふたりともよしてってば。大事な話の最中でしょ」

 ヴィンセントは、ほとんど手つかずで、皆の感想を聞こうとしている。もともと食が細い人だが、気になることがあると、そちらに意識が集中してしまうのだろう。

「ほら、兄さん。ヴィンセントが話聞きたがってる」

「あ、う、うん。ゴメン。ええとね、だから、俺的にはそんなに大騒ぎするようなことじゃないと思うんだよね」

「だが……クラウド……」

「だってさ、考えてもみてごらんよ、ヴィンセント」

 そう言って身を乗り出す。

「あっちの世界の『セフィロス』も言ってたじゃん。レオンたちの世界って、すごく磁場が不安定になってるらしいんだよ」

「あ、ああ。それはレオンからも聞いたな……」

「でしょ?実際、ホロウバスティオンには、ハートレスだのなんだのって化け物とかも出没してたしね」

「……おまえは実際にそいつらを見たのか?」

 途中で質問を入れたのはセフィロスだった。自然、彼に注目する形になるが、食事に夢中のカダージュやロッズは会話に加わってこない。

「見たどころか戦ったもん。弱っちいよ。ただの雑魚兵みたいなカンジ。ただね〜、数が多いらしいからね」

「そうか。見習い兵のおまえが言うのなら、本当に惰弱なんだろうな」

「なにそれ!? 言っておくけどね、俺はこっちの世界の勇者として恥じないほどに……」

「あー、脱線しない、脱線しない!」

 何かあるとすぐに口論に発展してしまうのが兄さんとセフィロスなのだ。いいかげん、話が進まないから、本格的にやり合う前に制してしまう。ヴィンセントにはそんな芸当はできないから。

「……チッ、もうセフィはよ〜。……ま、そんなカンジでさ、そういった化け物も、もともと彼らの世界に居たワケじゃなくて、なんか異次元っぽいところから召喚されてたんじゃないの? あー、それに、なんだ……これはレオンが言っていたことなんだけどさ……」

 そう言いながら、兄さんは数冊の本の中からひとつを取り上げて見せた。

「『不思議の国のアリス』だよね、ソレ」

 と、俺は言った。

 悲しいかなカダージュ同様、俺もあまり書物の知識がないのだ。さすがに著名な童話くらいは知っているが、ヴィンセントになど遠く及ばない。

「そう。アリスinワンダーランド。これと同じ世界がちゃんと存在して、レオンのダチのソラってヤツは、実際に行ったことがあるってさ」

「バカな……」

 思わずといったようすで、低くつぶやいたのはヴィンセントだった。

 マジマジと古めいた童話の表紙を眺め、俺は軽く頭を振った。