Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「うん、俺も最初、信じられなかったけどさ。ま、不思議なことって、実際、俺たち自身も体験してきているしさァ」

 兄さんにしては慎重に、言葉を選んで言う。

 確かに……この家に来てから、ずいぶん時が経ったような気がするが、まだ一年も経過していないのだ。それにも関わらず、様々な事件が起こった。

 もちろん、ヴィンセントにまつわるDG連中との死闘が一番記憶に残っているが、『不思議』という観点ではもっと違うイベントを挙げるべきだろう。

 肉体と心の入れ替わった事件など、その最たるものだ。

 もちろん、『あっち』の世界の住人がこちらへやってきたことも、兄さんが入れ替わりのように別世界へ放り出されたことも……何より、俺たちのような存在がフツーに生活を営んでいること。それだとて十分『不可思議』のはずだ。

 

「たまたま、俺らがそういった事件に遭遇しやすいんだとしても、現実に起こったことだからね」

「そ、それはそうだが……」

「それに、俺はホロウバスティオンにも行っちゃってるんでね。だからそう考えると、レオンたちの世界にあった本が、なにかの拍子にこっちの世界へ流れ着いてきてもそう不思議はないじゃない」

「…………」

 一瞬、皆黙り込むが、適応能力の高い……というか、軟派なセフィロスが同意を示した。

「あー、まぁ、なにがあってもおかしくはないわなァ。よくよく考えてみれば、テメーらの存在だって、おかしなモンだよな」

 と俺に声を掛ける。

「まぁね……ただ、それはあなたという特殊能力者がいたから可能だったわけでさ……」

「だったら、オレのような存在が生存し続けているのが不自然なんだろ」

「でもさ、あなたの場合は特例じゃない? もともとはごく普通の人だったかもしれないところに、ジェノバの遺伝子を……」

「や、やめたまえッ、ふたりとも!!」

 突如、悲鳴のような怒声で遮られ、俺とセフィロスは、びっくりして口をつぐんだ。

「不自然だとか……異常とか…… 君たちが自分たちのことを、そんな風にいうのは好ましくないッ!」

 怒っていながらも、丁寧口調……もちろん、俺たちのやりとりを戒めたのはヴィンセントであった。

 兄さんに、ドンと肘でつつかれて、しまった!と思ったがもう遅い。

 笑ってごまかしたいところであったが、青ざめた面持ちは至極真剣で、さすがの俺も、ヘラヘラと流して場を収めるのは困難だった。

 

 

 

 

 

 

「君たちが……世の不思議をそんなふうに考えるのなら、もうこの本について考えるのはやめにすべきだ……!」

「あ、ちょっ……待って待って、ヴィンセント。ごめんよ、つい…… そんなに真剣にとらないでよ。別に俺たちは……」

「……申し訳ない。気分が優れないので……休ませてもらう」

 独り言のようにそうつぶやくと、ヴィンセントは足音も立てずに部屋へ戻っていってしまった。

「あーあ、やっちゃったァ。ヤズー、どじっこだよ〜」

 カダにまで眉を顰められて、ため息を吐く。

「あー、ホント、失敗失敗。ヴィンセントがああいった話題に過敏だってことはわかっていたのにねェ」

「アホか、放っておけ。ただの陰気なヒステリーだろ」

「セフィ! ヴィンセントに向かってそんなコトいうなッ!」

 すぐにセフィロスに飛びかかってゆく兄さん。彼はそいつをあっさりと躱して、「ケッ」と悪態を吐いた。

「まったくだよ。今回は俺たちが無神経だったんだよ、セフィロス。明日、ヴィンセントに謝ろう」

「その必要はないだろ。あんなくだらんこと、フツー一晩眠ったら忘れるに決まってんじゃねーか」

「あのねぇ、あなたと一緒にしないでよね? 相手はあの繊細なヴィンセントなんだから」

 ツケツケと言い返すだけ言い返し、今夜はお開きということにした。

 

 兄さんはヴィンセントを慰めに行く!と、コーフンしつつ退場。

 しかし、部屋に鍵が掛かっていたと、すごすごと引き返してきた。

 セフィロスはいつもと何の変わりもなく、大あくびをしつつ部屋に帰って行く。きちんとビールを2、3本ゲットして。

 カダージュは、一番のお気に入りになってしまった、それらの童話をしっかりと抱きしめて寝室に戻っていった。もちろんロッズも一緒に。

 後からベッドを覗いてみると、小柄なカダが大判の絵本を抱いたまま眠り込んでいた。

 

 俺はつい先ほどの失態に頭を叩き、気を取り直してカダージュのとなりに潜り込んだのであった。