Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「いや、もう、これはね、他に考えようがないから」

 ヤズーが、厳粛な声音でそう言った。

「……だが……こんなことが現実に……」

 言いよどむのはヴィンセント。

「だってさ、ヴィンセント。昨日の話じゃないけど、俺たち、たくさんの不思議を経験したじゃない。そもそもあなたとヴィンちゃんが入れ替わったのだって、おかしな話でしょ? その前はセフィロスとだったよね?」

「…………」

「おい、なんでそこで赤面するんだ。オレが歩くワイセツ物だとでも言いたいのか?」

「え、あ、そ、そんなつもりは……」

「似たようなモンでしょ。まぁ、そんな話はどうでもいいんだよ。何とか元の世界に戻る方法を考えないと…… ねぇ、兄さん、なんかヒントはない? 兄さんったら」

 シンデレラちゃんと、『似てるよね〜』とかなんとかいいながら、カダやロッズも交えて盛り上がっていた俺に、突如水を向けてくるヤズー。

 

 ……え? わりと俺が落ち着いてるって?

 そりゃ俺だって、生活基盤のあるもとの世界に戻らなければならない。でも、たったひとりでホロウバスティオンに迷い込んだときとは全然心持ちが違う。

 それは当然のことなのだ。

 だって、今はヴィンセントが一緒だから。

 ヴィンセントが側に居てくれるなら、俺的にはどこでだって暮らしていける。ただ俺よりは遙かに環境適応能力の低いヴィンセントにとっては、しんどいことが多いだろうから、住み慣れた世界へ帰りたいということだ。

 

 なーんて本音を言ったら、ヤズーにド突かれそうだから口には出せない。

 俺は一応、ウーンと首をひねって見せた。

「んー、そういわれてもなぁ。俺だって本の中の世界に入り込むなんて経験初めてだし」

「それはわかっているよ。でも、ホロウバスティオンに行ったのって兄さんひとりだし。昨日みんなで話したように、この本、レオンたちの世界のにおいがするじゃない」

「確かにね。……言われてみれば、レオンの友達が行った、『不思議の国のアリス』の世界も、俺たちにとっちゃ、物語だよね」

 ソラとかいうガキが、勇者として活躍しているレオンたちの世界。

 オイオイ、クラウドの恋人なら、オメーが勇者になれっつーの。……って、レオンに言ってやったら、

『俺はそんな器ではない』

 と粛々として語っていたっけ。ホント、頭カタくて融通が利かないんだから、あの男は。

 

 

 

 

 

 

「オイ、クソガキ……」

 独り言のように俺に呼びかけたのはセフィロスだった。こんな場所でさえも、相変わらず『クソガキ』呼ばわりかよ。

「なんだよ、セフィ。失礼なヤツ!」

「おい、聞け。そのレオンの言っていたこと……野郎の世界で『不思議の国の……』ああ、なんだ?なんとやらの世界に行ったガキどもは、どの場所でなにをしたんだ?」

「えー? そんなくわしいことわかんないよ」

 面倒くさそうにそう言ったら、切れ長の双眸でギラリとにらみつけられる。

 傍らではヴィンセントがうるうるしながらこっちを見ているし、なんとか思い起こそうと頑張ってみた。

 ……だた、ホントにあのときは、自分が帰ることで精一杯で、他のことなんてノーミソ入っていなかったからね〜……

「だからさ、俺が聞いたのは、レオンたちの世界はさっき言ったようなハートレスとか、13機関とか、そーゆー連中に浸食されてて、アリスの世界にも同じような化け物が出てたって言ってたよ」

「……それで?」

「それでって何だよ」

「アホか、ちゃんと質問に答えろ。野郎共の世界の勇者は、アリスの世界で何をしたんだ? その行動が知りたいんだ」

 だから詳しいことは知らないっつーの。

 ふて腐れてそう言い換えしたいところだったが、期待に満ちたヴィンセントの目が痛い。何とか情報になるようなことを思い出そうとするが、どうにもはかばかしくはなかった。

「えーと、だから、その〜、ハートレスを退治して、裁判で疑いを掛けられたアリスちゃんを助けたんだろ。なんか七人のプリンセスがどうのとか…… その辺の話はもうよくわかんないよ」

「……アリスを救ったか」

「それがどうしたのさ、セフィロス」

 と、ヤズー。だがそれには応えずにセフィロスはヴィンセントに問いかけた。

「おい、ヴィンセント。そのアリスの話、最後はどうなるんだ? その娘は結局処刑されるのか? それとも無事に済むのか?」

「あ……そ、それは童話だから。彼女はピクニックに退屈していたとき、その不思議に囚われるのだが、ちゃんと彼女の姉のもとで、目覚めることになる」

「……なるほど」

「ああ、もちろん、物語の中で、彼女は数々の苦難を乗り越えることになる。だが最終的にはそれらをすべてクリアし、無事に元居た世界に帰れるんだ。そしてめでたしめでたしという話だな」

 やーん、さすが俺の恋人。

 なんて博識なんだろう!

「フン……安易なストーリーだ」

「童話なんだから当然だろ、セフィ」

「まぁ、いい」

 そういってひとつ頷くと、しばらくの間、黙り込んだ。

 そして、間が持てないのか少し困惑した風なシンデレラちゃんの姿を、ちらりと横目で見た。