Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 ひらりとこぼれ落ちた一枚のポスター。

 いかにもな扮装で、取り澄ました王子のイラスト。だがそれは見覚えのある男であった。

 そう……彼はレオン。

 スコール・レオンハート。

 もうひとつの世界に住む友人で、恋人は『クラウド』だ。

 だが、彼が本物の「レオン」であるはずはない。

 だって、ここは物語の世界だし、レオンはホロウバスティオンで『クラウド』と一緒に暮らしている。こんなところで王子様しているはずがないのだ。

「おい、なにを大騒ぎしている?」

 と、声を掛けてきたのはセフィロスだ。

「あ、セ、セフィ!」

「ヴィンセントの風呂は時間かかるだろ。あいつはトロくさいからな。おまえも大風呂にでも浸かってきたらどうだ。幸い他の客に出くわしはしなかったぞ」

「セ、セフィ、のんびりしてる場合じゃないよ! み、見てよ、これッ!」

 そういって、握りしめたせいで、ちょびっとくしゃくしゃになってしまったポスターを押しつけた。

 その拍子に、部屋つながりのもう一方のドアが開かれた。

「ちょっと、兄さん、セフィロス! ねぇ、これ見て頂戴!」

 飛び込んできたのはヤズー。

 手っ取り早くシャワーだけ浴びたのだろう。彼はすでに簡素な夜着に着替えていた。そしてその手にしっかりと例のポスターを握りしめていた。

「あ、ヤズーも気がついたんだね。俺もたった今さァ」

「何の話だ?」

 眉をひそめたセフィロスに、俺とヤズーは『王子様』を見せつけてやった。

 

 

 

 

 

 

「ああ、確かに……よく似ている。いや、瓜二つといってもよいくらいだな」

 内風呂から出てきたヴィンセントも加わり、俺たちはそのポスターに見入った。

 この世界の印刷技術が、まだ稚拙なせいか、いわゆる俺たちのいうところの『写真』という鮮明さはない。

 だが、りりしく整った横顔……そして羽根付き帽子をかぶっているものの、髪型もグレイアイズも、よく知るレオンそっくりだった。

「……おい、チビガキ。おまえの持っている童話を貸せ」

 セフィロスの促しに従って、カダージュが抱きしめていた本を彼に手渡した。

「なに、セフィ? その本がどうかしたのかよ?」

「最初、チラ見したときも、わずかに感じたんだ」

「え? その本がレオンたち持つ雰囲気と似通っているって話?」

「いや、そいつもそうだが……もっと単純なことだ」

 セフィロスは、俺たちに目線を送ることなく、その本を素早く手繰った。

 童話と呼んではいるが、いわゆる「絵本」ではない。物語が活字でつづられていて、ところどころに、写実的で美しい挿絵が描かれている。

 セフィロスの手は、そのイラストのところで止まるから、きっと何かの絵を探しているんだと思うけど……

「……ああ、こいつだ。似ているな、やはり」

 そういいながら、彼は大型本を起こし、俺たち全員が確認できるようにページを開いて見せてくれた。

「あ……」

「ああ、ホント……」

「言われてみればそう見えるね。写真じゃないから、意識して見ないと気づかないかも……」

 セフィロスが見せてくれたのは、城の王子の登場シーン。

 物語の見せ場のひとつゆえ、王子の姿形も丁寧に描かれていた。

 彼はレオンに似ていた。そう、まぎれもなく。

 きっと、高名な画家が、彼をモデルに絵を描いたら、まちがいなくこんな風になるだろうと、そう思わせるほどに。

「うかつだったな。どうも、手描きの絵っつーのは、意識的に見ないと、印象に残らん」

 自嘲しつつ、セフィロスがつぶやいた。

 ……確かに。

 こうして、目の前に突きつけられて注目すれば、このメンバーの誰が見ても『レオンだ』というだろう。だが、今までまったく気づきもしなかった。

 俺たち現代人の感覚っつーのは、たぶん「写真」が基準になっちまっているんだと思う。

 ちなみに、シンデレラちゃんのイラストは、ブロンドの可愛い女の子で、清楚な雰囲気とラブリ〜で甘いカンジが、俺そっくりだった。

「そんじゃ、お城に行けば『あのレオン』に逢えるってコト?」

「アホか、クソガキ。シンデレラは『クラウド』じゃなかったろ」

 と、セフィロスが言った。

「うん、あの子は本物の女の子だと思う。声とかしぐさとか……男じゃないよな。俺に似て可愛いけど」

「上から順に、87−61−85ってところかしらね」

「ヤ、ヤズー!」

 あっさりとスリーサイズを言ってのけるヤズーに、ヴィンセントが頬を染めた。

「……ま、なんか不思議な現象だけどさ。とりあえず、すべきことは変わらないよね」

 と俺は言った。

「ああ……彼女を美しく仕立てて、舞踏会に送り出す。そうすればレオン……いや、王子が彼女を見つけてくれるはずだ。……我々も同伴できれば、より安心なのだが」

 と、ヴィンセントが言った。真剣な面持ちで、ポスターを見ているのが、俺的にはちょっと不愉快なんだけどね。

「ああ、確かにね。彼女と王子が、きちんと出会ったことを確認できたほうが安心ではあるよね……物語上では舞踏会で邪魔が入ることはないはずだけど、万が一にも備えてさ」

「だったら、テキトーにもぐり込みゃいいだろ。それっぽい格好してりゃ、そうそうバレないんじゃないか?」

 あっさりと請け合うのはセフィロスだ。

「ちょっとォ、セフィロス。言っておくけど、シンデレラちゃん家と違って、俺たちは招待状なんて持っていないんだから」

「これだけ時代錯誤なローカル城、それほど警備が厳しいとも思えんがな」

 ま、確かにね。

 まるで童話の中に出てくるような……いや、まさしくその童話の世界なんだけど、妙にふわふわとしていて、現実味がないのだ。

 よくよく考えてみれば、いくら夜とはいえ、真夜中というわけではない。それなのに、シンデレラちゃんの屋敷から何の問題もなく抜け出せたし、この宿も簡単に取れた。

 俺たちの姿格好は、もちろんコスタ・デル・ソルにいた頃のもので……要するにこの場所とは相容れないはずなのだ。

 ふぅ……いやいや、考えるのは明日にしよう。

 さすがに眠くてたまらない。平気そうな顔をしているけど、セフィだって、さっきあくびしてた。

 

 トン……

 と肩を叩かれて、ハッと俺は顔を上げた。

 なんのことはない。疲れ切ったヴィンセントが眠ってしまったのだ。

 五人いるのに、ちゃんと俺に寄りかかって眠りについたってことは、やっぱりヴィンセントは俺のことを一番好きで、信頼してくれてて、頼りにしてくれてんだよね、コレ。

 

「たまたま、となりに座っていたのが、おまえだっただけだろ。アホじゃねーのか」

 という、セフィロスのセリフは黙殺した。