〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヤズー
 

 

 

 

 

「あー、オレ。元気か? おまえ、大丈夫そーか? いや、ウチの小姑どもがよォ」

「もう、ちょっと! 電話貸して、セフィロス!」

 支配人さんに連絡を取るセフィロスの手から、オレは携帯電話を引ったくった。

 もっと、言い方ってもんがあるでしょうに! どうして、こうウチの連中は、粗忽でがさつなのだろうか?

 ……あ、いや、『粗忽でがさつ』なのは、兄さんとセフィロスだけか……

 ついつい、目立つふたりだから、いつでも我が家全体が、どやどや、ガサガサしているように感じてしまう。

「あ、支配人さん? 俺ェ…… ああ、声でわかる? ふふふ、嬉しいなァ」

「……ケータイの電源も貴重なんじゃないの〜、ヤズー……」

 嫌みっぽいのは兄さんだ。

「あ、うん、そう、そうなんだよ。ノースエリアが一番ひどそうじゃない? っていうか、治安がねェ。セフィロスも言ったと思うけど、ウチに来たらどうかなぁ。まだ、なんとか移動できるでしょ? よければ、途中まで迎えに行くし」

 遠慮がちな支配人さんに、来所を奨める。

 水がまともに使えないから、当然店などやれる状況ではないし、なんせ彼は一人暮らしの美人さんなのだ。ノースエリアの荒れ具合から考えると、万一のことがあっては取り返しがつかない。

「迷惑〜? そんなことないって。全然気を使う必要なんか…… ああ、そりゃ、あなたが気疲れしちゃうようじゃ困るんだけどぉ〜、ま、そこそこ広いし、今のところ水道もガスも何とかなってるからさァ」

「ヤ、ヤズー、か、貸してくれたまえ。電話を替わろう」

「……今度はヴィンセントかよ」

 セフィロスがぼそぼそと文句をいうが、俺は素直にヴィンセントに携帯電話を渡した。

「ごきげんよう、ヴィンセント・ヴァレンタインです。……ああ、いや……その節は大変世話になってしまって……」

「まったく……主婦の会話かよ」

 毒づくセフィロスの傍らで、『本当にジェネシスに電話すんの!?』と、しつこく食い下がってくる兄さん。ふたりとも、もうちょっと大人になってほしいものだ。

「いや……本当に迷惑などではないのだ。かえって、大丈夫だろうかと案じている方が心許なくて…… ノースエリアは大分混乱しているし、万一のことがあっては…… 差し出がましいとは思うのだが、こんなときくらい力にならせてはもらえなかろうか?」

 両手を携帯電話に添えて、丁寧に丁寧に促すヴィンセント。こりゃ大抵の相手は折れてしまうだろう。冷たくはねつけられようはずがない。

「兄さん。あれが大人の会話だからね」 

「わかってるよ! 俺だって支配人さんなら大歓迎だもん!」

「……ジェネシスだって、義理堅くていい人だよ。家事手伝いに来てくれたじゃない」

「そーだよね〜、あの日から、まだ二ヶ月も経ってないってのにねー!」

 やれやれと吐息したところで、ヴィンセントのほうの片がついたようだった。

「……そうか! そう言ってもらえて嬉しい! 車で? いえ、それは難しいのではないのか? そうか……? わ、わかった。部屋を暖めて待っているから……! 今すぐに来てくれたまえ。で、では後ほど…… あ、ああ、よろしく伝えておく……!」

 めずらしくも力強くそう締めくくると、ヴィンセントは丁寧に携帯電話を閉じ、セフィロスに返却した。

「セフィロス、彼はこちらに来てくれるそうだ。よかったな、これでもう安心だ」

「ハァ、そうかね」

「遠慮深い人だから…… いささか無理強いしてまった気がしないでもないが…… やはりあの場所にひとりはよくない」

「ああ、そうか。まぁ、おまえの気が済むんならいいんじゃねーの?」

 どうでもよさそうに返事をするセフィロスを尻目に、俺は自分の携帯電話を取りだした。もちろんジェネシスに連絡するのである。

 安全性うんぬんは、問題なかろうが、生活に支障がでているのは、ジェネシスも支配人さんも同じのはずだ。

 

 

 

 

 

 

 しばらくコールし続け、ようやく10回目くらいに、返事が返ってきた。

『ああ、ヤズー。ごめん、ちょっと外していて』

「ジェネシス? そっち、大丈夫? イーストも大分降っているけど、ノースエリアの方は、水道がダメになっちゃったって」

『ああ、まいったよ、今朝から使えなくて。いや、まったく供給されないわけじゃなくて、時間制限があってねェ。本当にどうなってしまっているのか……』

 さすがのジェネシスもうんざりなのだろう。少し疲れた声をしているように感じた。

「ねぇ、ジェネシス。よかったらこっちに来ない? そんなんじゃ生活しづらいだろうし、治安も悪くなっているって聞いてるしさ。イーストも当然雪景色だけど、かろうじて水道とガスはなんとかなってるよ」

 軽い口調でそういってみる。

『いや……だが、迷惑だろう。この前とは状況が違うんだし』

 さすがにジェネシスも、思慮深い物言いだ。

 むしろ非常時ゆえ、こちらの負担になってはと考える人なのだ。

「そんなことないって。治安がどうのって部分は、あなたにはどうでもいいことだろうけど、自由に水が使えないのはキビシイでしょ」

『う〜ん、まぁ、そう言われるとその通りなんだけどねェ』

「ヤズー、私が電話に出よう!」

 支配人さんの陥落で自信がついたのだろう。彼にしてはやや力強くヴィンセントが言ってきた。

「あー、ジェネシス。今、ヴィンセントに代わるからさ。ちゃんと説き伏せられちゃってね〜」

『えっ、いや、待ってくれ、ヤズー……』

 いたずらっぽく言い放ちつつ、準備万端のヴィンセントにタッチだ。

「もしもし、ごきげんよう……! 私……ヴィンセントなのだが!」

 ソファに埋もれる兄さん。

 それをからかうセフィロス。

 カダとロッズは、人が増えるのが嬉しそうであった。