〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
  
 ヤズー
 

 

 

「いらっしゃ〜い!」

「いらっしゃーいッ!」

「いらっしゃい〜」

 俺たち三兄弟の合唱の後に、

「よぉ」

 という、セフィロスの素っ気ない声。

「セフィってば、嬉しいくせに〜」

 などと、挨拶の前にからかっている兄さんは、見事に後頭部をボコられた。

「ようこそ、我が家へ。さぞ、寒かったろう? 湯を沸かしてあるからさっそく入ってくれたまえ。その後、温かいお茶を淹れるから……」

 歓待の言葉と、さらに先の予定まで口走ってしまうヴィンセントである。

 いささか面食らった風の支配人さんだったが、ヴィンセントそっくりの綺麗な顔をやわらげ、

「この度はとんだ御迷惑をお掛けして申し訳ありません。正直、とても助かりました」

 といって、きっちりと頭を下げた。この辺は生真面目な性格がにじみ出ている。

「まーまー、上がって上がって。戸主として大歓迎いたしま……しますぞ」

「兄さん、言い慣れない言葉で噛んでる。……支配人さん、車で来たんだ。よく大丈夫だったねェ」

 雪の降りかかった彼のコートを受け取ろうとして、思わずそう言った。

「ええ、雪国仕様のチェーンを運良く持っていたので。ですが、こちらに辿り着くのが限界でした」

「そうでしょうね。よかったよ、事故なんて起こさなくて。あ、コート頂戴」

「ええ、……ええと、その前に……荷物を取ってきます。一応、車に食料や燃料を詰めるだけ積み込んできました」

「さすが支配人さんッ!」

 と、現金なのは兄さん。すぐに手伝うというように、靴を履いてしまう。

「すまない……こんな大変なときなのに……こんな気遣いまで……」

 ひどくすまなそうなヴィンセント。彼は手ぶらで来るものだと考えていたようだ。

「いえ、大した量ではないのですが……いつまでこの状況が続くかわかりませんからね。少しでも備蓄は多い方がよいと思って」

「それはむろんだとも。私も手伝おう」

「……おまえは、さっさと風呂でも沸かしておけ。言っただろ、平地でスッ転ぶヤツが、雪道を歩けるか、ボケ」

 そう言ってさっさと外に出て行くセフィロスだ。 

 やれやれ、この人ってば、本当にひねくれているんだから!

 

 

 

 

 

 

「……ああ、美味しい……」

 お世辞ではなく心底ほっとした様子で、支配人さんはつぶやいた。

 ヴィンセントに、似ている似ているとは言っても、やはり彼よりもずっと下の年若い青年だ。風呂上がりでポッと頬が桜色に染まっているのは、非常に風情がある。

「こちらはまだ湯を沸かしたりできるのですね。とても快適です。……ありがとうございます」

 目を細めてうっとりとつぶやく支配人さん。

 ……なんか、可愛い。

「あ、あの…… 君……こんな高価なものばかり……」

 おずおずとヴィンセントが、キッチンから顔を出した。支配人さんからの持ち寄り品を片付けていたらしい。

「いえ、どうか、お気になさらず。店はずっと閉めている状態ですし」

「……食料もそうだが……酒は日持ちするものではないか……」

「お世話になるのですし、手土産のようなものです。それにお酒は身体が暖まりますし」

 支配人さんはそつなく返事をすると、にっこりと微笑んだ。

「さすが、気が利いているな。おい、ヴィンセント。コニャックないか?」

 普段は絶対キッチンなどに顔を出さないくせに、現金なのんべぇのセフィロス。ま、俺も美味しいお酒は大歓迎だが。

 

 なにげなく窓の外を眺める。

 支配人さんが来たときより、大分強く降ってきているような気がする。

 

 純白の美しい結晶は、俺などは大好きなのだが、そうも言っていられない。このまま降り続けば、完全に都市機能は停止し、この場所に住んでいられなくなる。

 毎日のように海に遊びに行っていた日が、ウソのようだ……

 

 いや、ここで意気消沈しても致し方がない。

 そろそろ、ジェネシスがやってくるだろうし……

 

 とはいうものの、ついつい、ものめずらしい銀世界を、ぼんやり眺めてしまう俺であった。