〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヤズー
 

 

 

「ごきげんよう、女神。相変わらず素敵だね」

「……開口一番がそれかよ」

 ぼそりと兄さんが突っ込んだ。

「寒かっただろう、ジェネシス…… ああ、こんなに雪を被って…… だから迎えに行くといったのに……」

 ヴィンセントが、彼の髪に付いた白いものをそっと振り払う。そんな何気ない所作さえも、穏やかで緩やかなのだ。

「これくらいなんともないよ。それに近くまでタクシーだったから。さすがに住宅地の方までは、積雪で入って来れなかったけど」

「さぁ、上がってくれたまえ。お風呂が沸いているから」

「いや、別にそこまではいいよ」

「ダメだ。きちんと身体を暖めてからだ。油断すると風邪を引いてしまうぞ。さぁ、早く早く」

 長身の背中を押してせっつくヴィンセント。

 かれは、他人の面倒を見ているときが一番楽しそうだ。

 

 ジェネシスも気を使ったのか、手土産とばかりに大箱一つ担いできた。

 彼だからこの悪天候の中、大した負担もなく持ち運べたのだろうが、常人には不可能であろうほどの大きさだ。

 木箱いっぱいの食料と酒を、きちんと倉庫に運び込んだ後に、勝手知ったる足取りで風呂場に行こうとした。

 

 支配人さんとジェネシスが、出会ったのはこのときが初めてだった。

 ジェネシスの反応が興味深かったので、俺も良く覚えている。

 

 たしか、このとき、支配人さんは、ヴィンセントと一緒にキッチンにいたのだが、そこから彼が居間に戻る出会い頭だった。

 

 

 

 

 

 

「あ……」

「あ、ああ、失敬。先客が居られたのだね」

 そつなく場をつなぐジェネシス。

「ああ、ごめん。まずは紹介しなくちゃ」

 俺は支配人さんの側によると、にこやかに紹介してやった。

「ジェネシス。彼はノースエリアでクラブを経営しているんだ。我々の友人で…… セフィロスの特別な人」

「へぇ……」

 とジェネシスの瞳が興味深げに細められる。もちろん、それをあからさまに現すような不躾な態度は取らない。

 支配人さんは、この上なく上品に微笑すると簡単な自己紹介をして頭を下げた。

「俺はジェネシス。セフィロスとは古い友人なんだ。その流れで、こちらの皆さんとは、親しく交際させてもらっている。よろしく」

 そう言って握手を交わすと、さっそくというように言葉を続ける。

「しかし……君の店を知らなかったとは、俺としたことがうかつだったな」

「フン、まだまだ、もぐりだな、ジェネシス。繁華街とはいえ、あの辺りは一等地だ。店のレベルが違う」

 そう言って、話に加わってきたのはセフィロス当人だった。倉庫に安置した酒の物色をしていたらしい。

 好みのものを二、三本、手にしてきている。

「セフィロス。おまえがそのお店に連れていってくれればよかったんだよ。俺たち親友だろ」

「気持ち悪ィんだよ、テメェは!」

「おまえは本当につれないねェ。それじゃ、綺麗な黒髪の支配人さん。失敬してお湯をいただいて参ります」

 終わりの言葉だけ妙に丁寧にそういうと、ジェネシスは浴室へ姿を消したのであった。

 

「……華やかな方ですね」

 誰にともなく、支配人さんがつぶやいた。

「あー、やっぱね。支配人さんにもそう見えるんだねェ〜。どぉ、ああいうタイプは? 好み? それとも苦手?」

「ヤズー……よしなさい、そんな明け透けに……」

 茶を運んできてくれたヴィンセントが眉を顰める。

「アハハハ、ごめ〜ん。でもさ、支配人さんって仕事柄いろいろな人見てきてるでしょ? ジェネシスなんかはどう映るのかなって」

「いえ……とても感じのいい、洗練された雰囲気の方ですね。趣味人風……といいますか」

 言葉を選んで穏やかに、支配人さんは言った。

 趣味人……というのなら、支配人さん自身だとてそうだろう。

 ジェネシスと支配人さん、しばらくはここで共同生活になるわけだが、双方退屈せずに済みそうに見えた。