〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
  
 支配人
 

 

 

 

 雪を踏み分ける音がして、ヤズーたちの後に、クラウドさんらも戻ってきた。

 小山のように見えたのは、体格のよい弟くんが、木々の山を抱えていたからだろう。

 

「……何かあったのですか?」

 誰とは名指しせずに、僕はそう訊ねた。ヴィンセントさんも、様子がおかしいとは思っているらしいが、問いかけを発していなかったから。

「セフィロスとはぐれた。……ずいぶん探し回ったんだけど、見つからなくてね」

 そう答えてくれたのは、ジェネシスさんだった。

 端的だが、こちらを慮る様子が見受けられたのは、ヤズーが僕をセフィロスの特別、と言ったからだと思う。

「カダージュ、とりあえず薪を受け取ってくれ。ロッズ、一緒に行って、居間に火を。まだたくさんあるから、これは濡れないところに保管しておいてくれ」

 会話の途中だったが、ヤズーが現実的な指示を出した。

「う、うん、でも……」

「いいから、急ごう、カダ。俺たち寒くて寒くて……」

「う、うん」

 身体の大きな兄弟に急かされて、カダージュくんらは居間に戻っていった。さっそく暖炉を使うのだろう。

 

「ク、クラウド…… どういうことなのだ? セフィロスに何かあったのか……?」

 呆然とした面持ちで、クラウドさんに詰め寄るヴィンセントさん。

「う、うん。……ごめん、セフィが……」

「チョコボッ子。おまえが謝る必要はないよ。あれは事故だ」

 きっぱりとした物言いで、ジェネシスさんが割って入った。

「皆さんも早く上がられたほうがいいです。身体が冷え切っているでしょう。話はそれからです」

 その場で頽れそうになるクラウドさんの腕を、乱暴にならない力で引き上げた。

 セフィロスのことは一刻も早く聞きただしたい。

 だが、外は猛烈な寒さで、彼らはそこで十時間近く作業をしていたのだ。

「まずは全員、入浴してください。大きい方のお風呂に湯を張ってあります」

「支配人さん。ありがとう」

 ヤズーが冷たく強ばった頬をゆがめて、軽く微笑んだ。

「……あなたが居てくれてよかった」

「そんなことはないです。君も早く風呂へ。凍傷になどなっては大事です」

 大分疲れている様子のヤズーの手をとって、室内に上がらせる。

 クラウドさんにせよ、ヤズーにせよ、普段は家の中に入るのに、わざわざ腕を引いたりなどはしない。だが、十時間近く雪の中を動き回っていた彼らの足どりはおぼつかなく、防水ブーツも雪まみれになっていたから。

 

 結局、僕らがくわしく事情を聞いたのは、彼らの入浴が済み、凍傷の危険を回避した後のことであった。

 

 

 

 

 

 

「……暗くて足場もよくなかったしね」

 ふぅとジェネシスさんが大きなため息を吐いた。

 『森』とは一口に言っても、平坦な場所ではない。コスタ・デル・ソルは、もともと火山帯で、コレル山に続く地形を見れば一目瞭然だ。

 森の中も起伏が激しく、雪が降っていない状態で行ったとしても、かなり危険な場所なのだ。

「で、セフィロスの落ちた場所は見当がつくのですか?」

 僕は努めて冷静にそう訊ねた。

「足場の下が崖になっていたんだ。積雪で気付かなかった。一応、場所の把握はしているつもりだが、この雪だからね……」

 それはそうだ。

 何らかの方法で、目印をつけても、情け容赦ない降雪は、それを消し去ってしまう。

 朝になって、救助にいこうとしても、果たしてその目印が見つかるかどうか…… いや、そうでないほうが可能性は高いくらいだろう。

「セフィのことだし……雪があるから、怪我の心配はないと思うけど……」

 クラウドさんがボソボソとつぶやいた。そして、かたわらのヴィンセントさんの顔を盗み見る。

 ほとんど耳には入っていないのだろう。

 ヴィンセントさんは真っ青にそそけだった頬をしており、彼のほうこそ遭難した被害者そのもののように見えた。

「この状態じゃ警察は宛にできない。というか、彼らに通報したとしても、救助に向かえる状況じゃないだろう」

 ジェネシスさんがそう言った。

 現在、コスタ・デル・ソルの公共機関は開店休業状態だ。

 彼らが悪いわけでなく、どうしようもない事態なのである。それでも、ノースエリアでは暴動の鎮圧など、精力的に活動してくれていたのだから、僕などから見れば頭の下がる思いだ。

「で、では……どうすれば? この寒さだ…… いくらセフィロスだって……」

 ヴィンセントさんが今にも泣き出しそうな面持ちで、独り言のようにつぶやいた。

「行くとしたら天候を見た上で、明日から、でしょう。今日はもう全員休むべきです」

 僕はなるべく穏やかにそう言った。

 ジェネシスさんがさりげなく僕の表情を伺う。クラウドさんも意外に感じたのか、ちらりとこちらを見た。

「明日まで……何もできないのか…… セフィロスは……」

「ヴィンセント、どうしようもないんだよ。明かりもない森の中だ。夜になって、どんどん気温も下がってきている」

「その森の中にセフィロスはひとりで居るのだろう? 君たちはもう休んだ方がいい。私は昼間は動いていないから、まだ余力が……」

「落ち着いてくれたまえ、女神。とんでもないことを考えないでくれ」

 そう言って、ヴィンセントの言葉を遮ったのはジェネシスだった。

「夜中に森に行くなんて自殺行為だ。彼の言うとおり、行動を起こすとしても、明朝だよ」

「…………」

「楽観視できる状況ではないが、セフィロスならばこういった場合の対処法を、普通の人間よりも知っているはずだ」

 ジェネシスさんが言った。

「明日になって、見通しが立ったなら俺がすぐに行ってくる」

「あ、も、もちろん、俺も行くよ!」

 クラウドさんがすぐさまそういうと、ヤズーらも合わせて頷いた。