〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
  
 ヤズー
 

 

 

 

 

 ……まったく予想外の展開だ。

 俺はぐっすりと眠り込むカダージュの髪を撫で付けながら、おもむろに意識を巡らせた。

 ジェネシスの言っていたとおり、誰のせいでもない事故だった。当人のセフィロスのせいですらない。

 ただ、ちょうどそこから滑り落ちるとき、セフィロスは兄さんを上に放り投げたのだ。あの人の腕力だからこそ出来たことだと思う。

 結果、セフィロスだけが、崖下に落ちてしまい…… 間一髪で助けられた兄さんがひどく気に病んでいるのが、可哀想であった。

 一日中降り続ける雪…… 夜間ならば零下に落ちるであろう気温……

 常人ではまず生命などなかろうという状況ではあるものの、セフィロスならば……と考えている。

 それはジェネシスも同じだったのだろう。

 先ほどは支配人さんの手前、『普通の人間よりも対処法を心得ている』といった表現をしていたが、ソルジャークラス1stの英雄と呼ばれていた男なのだ。

 現役であった頃は、ジェネシスともども、死線をくぐり抜けてきた歴戦の戦士だったはずだ。

 だから、今回のような非常事態にも上手く対応しているのではないかと……俺はそんなふうに考えていた。

 それに、セフィロスが『死ぬ』というのは、よほど特殊な状況でなくばあり得ないとも思っている。

 知っての通り、彼の肉体は普通ではない。人体の常識を覆す生命力があると……そう信じたかったのだ。

 

 翌朝。

 準備万端の態で玄関に集合したのは、この家に住む人間全員だった。

「いや……ちょっと、気持ちはわかるけどさ…… 彼を連れ帰った後のことを考えると、女神と支配人さんは残っていてもらったほうが……」

「……とても、大人しく家で待っていられない。恐ろしい想像ばかりしてしまって……神経が保たない」

 ヴィンセントがか細い声でそう答える。

「私も足手まといにはならないよう、十分に注意いたします。危険なことはしないと約束します」

 同じ容姿をした支配人さんは、顔を上げ、毅然としてそう言いきった。

「うーん、やれやれ困ったねェ、ジェネシス。まぁ、ここまで言って準備しているのを無碍にはできないね」

「それはそうだが……」

「……じゃあ、カダとロッズ。家のことを頼む。セフィロスを連れ帰っても、すぐに対応できるようにね」

 昨日も留守番だったカダージュと、力自慢のロッズは不満げな顔をしたが、カダは風邪気味だったし、ロッズは昨日の作業で、軽い怪我を負っていた。

「カダージュ……ロッズ…… 火の元には十分気を付けてくれ。食事は作り置きがたくさんあるから、それをきちんと温めて……」

「女神……そんなに心配ならば君も残ってもらえないものかねェ。俺としては危険な場所に君を連れ出したくはないんだけど……」

 幼子を宥めるようにジェネシスがいうが、ヴィンセントは頑として受け入れない。

 大人しい人だが、一端こうと決めると梃子でも動かない部分があるのだ。

「それについては俺も同感なんだよね、ヴィンセント。大人しく待っていてくれると助かるんだけど……」

 今回ばかりはジェネシスの意見に賛同する兄さん。

「あ、足手まといにならないよう、がんばるから……!」

「いや……あの……そういう意味ではないのだよ」

「さぁ、行こう、皆! セフィロスが待っている……!」

 足取りは危なっかしいくせに、我先にと前へ進むヴィンセント。慌てて兄さんが彼の側に駆け寄る。

 ジェネシスは今回も先頭だ。そのすぐ後に兄さん。

 間にヴィンセントや支配人さんを挟んで、俺は最後尾。

 雪は降っているものの、昨夜ほどはひどくない。当然荷物も少ない。

 セフィロスのことは心配ではあるものの、さい先はよいものと感じたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……やはり昨夜の痕跡は消し去られてしまっているね。当然と言えば当然なんだけど。どうだ、チョコボっ子?」

「チョコボっ子言うな! ……どうしようもないよ。昨夜も今も、雪降ってるんだもん。さっきから、樹に引っかけておいたロープも探してるんだけど……」

「ロープ?」

「うん。目印に昨日歩いたところで、ポイントごとにね。地面とか下の方に印つけても、雪で埋もれちゃうじゃん? だから、ロープを高めの枝に巻き付けたりとかしておいたんだけど……」

 これはジェネシスのアイディアだった。セフィロスの消息が絶たれた場所から、森を抜ける戻り道に、この印をつけながら帰ったのだ。

 できることなら、もっと目立つものを使いたかったのだが、非常時だ。

 ロープを何本かに切って、木の枝に巻き付けるのが精一杯だった。

「あっ! あった!」

 兄さんが大声を上げる。彼の指先には、ほとんど雪で覆い隠されてる状態の、輪っかがあった。結びつけたロープだ。

「ああ、そのようだ。良く見つけてくれたチョコボっ子」

「よし、さっそく目印を探しながら進もう」

 ヴィンセントが頬を上気させて急かす。

 この時点で、森のだいぶ奧まで来ている。こんな強行軍など、俺だってキツイわけではあるが、ヴィンセントも、支配人さんも、気が張っているせいかまったく疲労を訴えなかった。

 

「ふぅ…… ヴィンセント、支配人さん、大丈夫?」

 背後から声を掛けてみる。

「あ、ああ、私は何ともない! それより、急ごうヤズー」

 と、ヴィンセント。 

 疲れていないはずはないのだ。たぶん、肉体は疲労していても、自覚がないだけなのだろう。

 支配人さんも、

「問題ありません。大丈夫ですよ」

 と、あっさり請け負った。

 俺はため息混じりに、

「疲れたら絶対に言ってね! 無理はしないこと!」

 と念押しをした。