〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
  
 セフィロス
 

 

 

 

「ヘックシッ!」

 オレは勢いよくくしゃみをした。

 火を焚いているとはいえ、さすがに冷え込む。

 ……まぁ、夜中よりはマシだが…… ちくしょう、ドジを踏んだ!

 

 異常気象の続く中、家の暖をとるために、オレたちはこの森まで木材の調達にやってきたのだ。

 ……そこまでは面倒なことではあったが、まぁ、よかった。

 だが、森に到達しても、いっこう雪の強さは変わらず、足場の悪さはさすがのオレでも困惑するほどであったのだ。

 しかも、コスタ・デル・ソルは火山地帯だから、木々が密集した場所であっても、荒々しい切り出しや、陥没、隆起など、崖のような高低差があり、入り組んだつくりになっている。

 それゆえ、アホチョコボがこけて足を滑らせたのも、責められるべきではないのだ。

 

 携帯可能なサバイバル道具は持っていたから、火をおこし暖も取れている。

 問題は食糧だが、持参した固形食だけで凌げる日数は限られている。少し下ったところで、水音がするのだがそこに行くのはリスクが大きすぎた。

 まず、落下地点からずいぶんと遠ざかってしまうゆえ、捜索されにくくなることと、その場所まで下ることは出来ても、逆に上がってくるのは相当むずかしいと考えられるからだ。

 おまけにここに落下するとき足首をひねったらしく、たいして痛みはないものの、あまり無茶なことはできそうになかった。

「まぁ、足首一つで済んだのは、安いモンだったのかもしれんがな」

 オレは上を見上げてつぶやいた。

 落ちた場所は、かなり上のほうだ。しかも、斜めにずり落ちるような形で着地したから、距離的にもかなりある。

 ウチの連中が、ノコノコ救助にやってくる前に、なんとか這い上がって帰途につきたいとは思っていたものの、そう簡単にはいかなかった。

 

 ……家には今、ジェネシスが居る。

 おそらくイロケムシあたりと、上手く打ち合わせて探索してくれていることだろう。

 だが、雪のせいで地形も不透明、おまけに滑りやすくなっているこの土地は、ミイラとりがミイラにならぬとも限らない……そんな場所なのだ。

 

 目印と暖を取るため、昨日から火は欠かしていない。下手に動き回って体力を消耗するよりも、こうしてジェネシスたちの救助を待つのが得策だろう。

 

 そう……大人しく待つ方が……

 

 

 

 


 

 

  ジェネシスならば、多少時間はかかろうとも、上手く動いてくれるにちがいない。

 急げよ、ジェネシス。アホチョコボも元軍人なんだから、しっかりしろ!

 頭の中で頼りない家人どもを叱責していたときであった。

 

「セ、セフィロス……! セフィロス……ッ!」

「本当だ…… セフィロス〜〜〜ッ!」

 二人分の声が崖の上から降ってきた。

「セフィロス! セフィロス! どうか気を確かに……動かないでくれたまえッ!私が行くからッ!」

「無事ですかッ!? 怪我はありませんかッ! 今、すぐに降りますッ!」

 ふたりの黒髪を目視した瞬間、思わず喉の奥から、『げっ』と呻きが漏れた。

 なぜ、よりにもよってこのふたりが……!?

 

 ジェネシス……おまえは本当にソルジャークラス1stか!? 人選に問題がありすぎだろう!

 

「おい、バカッ! やめろッ!」 

 オレは大声を張り上げた。

「足場が不安定だろうッ! おまえらじゃ無理だ!」

「大丈夫ですッ! こちらはふたりいるんですからッ!」

「そ、そうだ、セフィロス…… 可哀想に、お腹が空いただろう? 早く一緒に家に帰ろう……!」

「いや、おまえら、落ち着けッ!」

 ロープだの何だのと、使えもしない道具をゴソゴソと取り出す仕草をみて、さすがに慌てた。

 やつらは本気でふたりして、オレを救助しようとしていた。

 ヴィンセントはもともと感情に流されやすいタイプではあるが、支配人のほうは冷静な男だったはずだ。人気のない雪山の中という異常なシチュエーションが彼の感覚をにぶらせているのだろうか?

 慣れない手つきでヴィンセントがロープを手繰り、降りようと足を掛ける。

「よせッ! 危ないだろうッ! おい、ヴィンセントを止めろッ」

 レスキュー部隊には逆立ちしても入れっこない、もっとも頼りない輩のくせに、こんな場面になると、無鉄砲な勇気を出しやがる。

 この急な崖、不安定な足場では、ジェネシスであっても躊躇するところだ。

「大丈夫だ! すぐに行くから待っ……」

 言っている側から足を滑らせるヴィンセント。崖を降りようとして滑ったのではない。ロープを結ぶ作業中にコケているのだ。

「あぁぁっ! 見てられんッ!」

 オレとしたことが、制止できずに顔を覆った。目も当てられないとはこのことだ。

 ヴィンセントがこけた瞬間、なにやら黒くて小さなものが、崖を勢いよく滑り落ちて行った。

 そのさまに、ゾーッと背筋が寒くなる。自分自身が落ちたときよりも、遥かに心臓に悪い。

「頼むから待て、おまえらッ! そこらにジェネシスはいねェのか!? ヤツを呼んでこい!」

「あ、そ、そうだ! ヴィンセントさん、トランシーバーを……」

 そんな便利なモン持ってんなら、さっさと使え!

「そ、そうか……トランシーバー…… あ……?」

「ど、どうしました?」

「あ……さっき……落ちたのかもしれない……」

 

 …………!

 あの、黒いヤツか〜〜〜ッ!!

 どうやら、ヴィンセントの、タークス的な能力は射撃の腕だけのようだ……

 

「ど、どうしよう……わ、私としたことが……」

「だ、大丈夫!大丈夫です! あなたが悪いわけではありません。これは事故です!」

「で、でも、れ、連絡……と、取れないし……」

「セフィロスはもう見つけたのです! 彼を連れて集合場所へ戻れば問題ありません!」

 

 いや、おまえら、本当に人の話を聞いてくれ……

 やたらテンションの上がっているふたりの姿に、オレはここに落ちたとき以上の不安を感じた……