〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
  
 セフィロス
 

 

 

 

「いや、待てッ! とにかく落ち着け! ふたりともそこで深呼吸しろッ!」

 オレの叫び声があまりにも切実だったせいか、ようやく彼らもこちらの発言に注意を向けてくれた。

「いいか。その場所からここまではだいぶ距離がある。雪でわかりにくいだろうが、足場がひどく不安定なんだ」

 ふたりが顔を見合わせる。

「一歩間違えれば、オレの立っている足場を通り越して下に落ちる。雪が積もっているとはいえ、この高さだ。無傷では居られんだろう」

「だ、だが…… 丸一日経過しているのだぞ? 君の体力も限界のはずだ」

「そうです。食事は? 何も食べていないのでしょう?」

「メシなんざ、二三日食わなくても命に別状はない」

「だ、だが、この寒さだ! 大丈夫、私と彼とでロープを使って君を引き上げれば……」

 ヴィンセントにそう言われた瞬間、オレの体重を支えきれずに崖を転がり落ちるふたりの姿が脳裏をよぎった。

「いや、ダメだ!今は無理だ」

「な、なぜ、そんなに強情を…… 我々は君を助けにきたのだ! 多少の危険は承知の上だ!」

 勇ましくもヴィンセントはそう言ってくれたが、いくら勢いがあっても体力が伴わないのだからどうしようもないのだ。今はテンションが上がりまくっていて、なんでもできるという、全能感に支配されているようであったが。

「セフィロス……!」

「ダメだ。おまえらが落ちたら元も子もないだろう! 他の連中のところに戻って知らせてこい! 近くに居るんだろう!?」

 トランシーバーがない今、時間は掛かろうとも、もっとも有効な方法はそれしかなかった。

「いいから、まずはそこに戻れ! そしてジェネシスあたりを引っ張ってこい!」

「……そ、それは……で、でも…… だいぶ歩いて来てしまいましたが……」

「あの……私たち……どっちから来たのだろうか……?」

「ええと……右のほうですよね?」

 オイオイオイ!

 何を言ってんだ、こいつら…… まさか……まさか……この期に及んで『迷子』!?

 あ、いや、少なくとも『子』ではないが……

 絶望にとりつかれつつあるオレの頬を、冷たい風が撫でてゆく。

 さきほどよりも、風速が強まったような気がする。そして雪の量も……

 

「おい、おまえら! 何人でここに来たんだ! どういう手はずになっていた!?」

 キレそうになる神経をごまかし、極力オレは冷静に訊ねた。

「ええと、あとジェネシスとヤズー……クラウドが来ている」

 それで、この場所にはこのサイアクふたり組かよ!?……と、喉まで出かかった言葉を、寸でで食い止めた。

「トランシーバーを持たされて…… 集合場所を決めて……」

 ぼそぼそとヴィンセントが答えた。

 ……そう、今やそのふたつとも、役目を担わなくなっている。

 だが、こいつらを、いつまでもこの場所でグズグズさせているわけにはいかない。

 時間が経つほど、外気は低下するし、連中は最上層部……つまり、もろに風と雪の当たる場所にいるのだ。

 

 

 

 

 

 

「……その集合場所とやらから、どれくらい歩いてきたんだ?」

 怒りどころか、ほとんど脱力の態で、オレは彼らに訊ねた。

「ど、どうだっただろうか……?」

「え、ええ……夢中でしたから…… 三十分ほどかと……」

 三十分……!?

 三十分も経ってりゃ、足跡も消されてしまうだろうか……? いや、だが、この積もり方だ……完全に消滅するということもないだろう。

「おい! おまえたち、自分の足跡を辿って戻れ! すぐにだ! このままここに居ても風と雪でやられる」

「で、でも……ッ! 君は? 君はどうするんだ? どうしても君を連れて帰らなければ……」

「いや……だから……!」

「そうです! セフィロス。一緒に私たちの足跡を辿って戻ればよいのです。あなたこそ、丸一日、山中に居たのですから……!」

「だから、聞け! オレはなんともない! 別にもう一日や二日、ここで過ごすハメになったって、死にゃしねェ。それよりも、おまえらが戻れなくなるほうがヤバイだろう!」

「で、でも……」

「足跡を消されたらおしまいだ! いいからさっさと……」

 途中まで言いかけたときだった。

 目の前でブワリとダイヤモンドダストが散った。烈風が吹いて、粉になっている雪を吹き上げたのだ。

「くッ……」

 視界を奪われ思わず、一歩後に引く。

「うわッ……」

「あぶないッ!」

 頭の上の連中も、今の突風をくらったらしい。

 ようやく顔面にまとわりついた雪を撫で払い、連中の無事を確認しようと上向いたとき、この期に及んで信じたくもない光景が目の前に飛び込んできた。