〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
  
 セフィロス
 

 

 

 

「ああっ……セフィロス……! す、すまない!」

「……いいから降りろ」

 仰向けのまま、オレはそう言った。 

「あ、ありがとう! だ、大丈夫だろうか……?」

 オレの身体の上から、何とか身を起こすヴィンセント。どうやら無傷らしい。

「……大丈夫かってのは、おまえのほうだろ…… まったく無茶なことをしやがる」

「す、すまない…… 助けに来たはずなのに」

「いや……もういい……」

 脱力してオレは頭を振った。怒鳴りつけてやりたいところだったが、無理に力を込めた左足首はズクズクと疼痛を訴えてくるし、冷や汗が冷えて背筋に震えが走った。

「セフィロス……あの…… すまない…… 本当に……」

「別にいいって言ってんだろ。とりあえず、おまえらのおかげで、救助のめどがついた。じき、ジェネシスたちが来る」

「あ、ああ…… でも……」

「それより、おまえは奧に行って火に当たっていろ」

 壁面でちょうど良くくぼんだ場所があるのだ。昨夜もそこで一晩過ごした。

 洞窟などという大きな穴ではなく、小型の洞穴レベルのものだ。だが、人ひとりは裕に座れるし、暖を取るのも楽だった。

「い、いや、私は大丈夫だ」

「まだ、落ち着いていないだろう。それから顔を拭け。オレが泣かせたと思われる」

 ため息混じりにそういうと、ヴィンセントは慌ててゴシゴシと頬を拭った。色白の肌が、こすれて紅くなってしまう。

「……さ、昨夜は……この場所で……?」

「ああ、その穴ボコで火を焚くとけっこう暖かいだろ。厄介なことになったとは思ったが、おまえが想像しているほど、悲壮な気分にはならなかったな」

「……私だったら……こんな場所でひとりきりになったら…… きっと不安でおかしくなってしまう」

 ぼそぼそと低い声で、彼はそう答えた。

 あの薄気味悪い神羅屋敷の地下、棺桶の中で眠っていた男とは思えない発言だ。

 わざとそう言ってやったら、ヴィンセントはちょっと虚を突かれたような表情をし、

「それもそうだな……」

 と頷いたのであった。

「ずっと……君たちといたせいだろうか…… 今では到底考えられない……」

「フン、いい傾向なんじゃねーのか。おまえみたいなヤツにしてはな」

 そういうと、ヴィンセントはわずかに小首をかしげたが、

「そうかも……しれない」

 とつぶやき、淡く微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「支配人の彼は…… ちゃんと戻れただろうか……?」

「大丈夫だろ。雪深いって事はそれだけ足跡も深く刻まれてるってこった。心配するな、じきに助けがくる」

「あ、ああ…… いや、私たちのことではなくて…… ひとりで、あの道を戻るのは不安だったろうと……」

 長い睫毛を伏せて、ヴィンセントがそう言った。

「……ま、大丈夫だろ、あいつなら。精神的にもそれなりに強いし、根性もある」

 他意もなくそう答えた。

 ノースエリアの繁華街で、あの年で自分の店を持っているのだ。そこそこ、したたかでなければ、ああはなれない。

「……そうだな…… 彼は綺麗で聡明で……私など比べものにならないほど、心根が強くて……」

「……は?」

「いつも冷静で、私のような失敗はしないだろうし…… ましてや君にこうして迷惑を掛けるような真似……」

「……別にそんなこと言ってねェだろ……」

「本当にすまない、セフィロス。足手まといになって…… 私は何の役にも立てていない…… むしろ、君の足を引っ張るばかりで……」

 ええ、そうですね。

 ……と、応えたくなった。おかげで、捻挫した左足は、ズキズキ痛んでくるし、さんざん冷や汗もかかされた。

 だが、言ったら、いつまでも気に病んでグズグズと泣くのだろう。

「ああ、もう、済んだことはどうでもいいだろ。ったく、おまえは相変わらず面倒くさい野郎だな!」

「……でも……でも……」

「でももクソもない! いいから、助けが来るまで大人しくそこに居ろッ!」

 と、叱りつけた。

 神羅時代のチビクラも面倒な子ではあったが、こいつもなかなかどうして手に負えない男であった。

「…………」

「……セフィロス……?」

「いや、なんでもない。おとなしく救助が来るのを待っていろ」

 オレはなるべく穏やかにそう言った。

 無理をした左足がズキンズキンと脈打つように痛み出した。