〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
  
 セフィロス
 

 

 

 

「セフィロス……? 君もこちらに来て火に当たったほうが……」

 おずおずとヴィンセントが声を掛けてきた。

「いや……助けが来たら、呼んで誘導する必要があるだろう。大分雪が降ってきた。付近までやってきても迷うかもしれん」

 昼間はさらさらとした粉雪が降っていたが、今の雪は大分水分が含まれたボタ雪なのだ。こいつは重みがあって、積雪が早い。

「ふぅ……」

 吐き出した息が熱い。

 まずいな……熱が出てきたのかもしれない。風邪引きの熱ではなく、挫いた左足のせいだ。

「セフィロス……本当に顔色が悪い。私が見ているから、君はこっちで休んでくれ」

「……いいから、おまえは大人しくしてろ」

 ヴィンセントが心配そうにオレを眺める。理由はわからずとも、具合が悪そうに見えるのだろう。 

「…………」

「……くそ……時間がかかるな」

「あ、ああ、合流地点までけっこう距離があったから……道も悪いし、戻るだけでも……」

 申し訳なさそうにヴィンセントがつぶやいた。

「そう……だな」

 オレはなるべく左足に力を込めぬよう注意を払い、近くの岩に腰掛けた。

 動き回っているわけではないのに、息が弾む。

 ……苦しい。

 徐々に早まる吐息と同じペースで、左足首がズクンズクンと熱く疼く。

 

 

 

 

 

 

 ああ……これ……

 昔……こんな目に遭ったことがある。

 すごく昔の話だ。まだクラウドに出逢う前……

 

 危険区域レベル4地区へ、モンスターの調査に赴いたのだ。

 ジェネシスがクラス1stに配属されて、間もなかった頃……

 アンジールとジェネシス……そしてオレの三人……他にはクラス2ndが三十名ほど……危険な場所だったので、3nd以下のソルジャーは同行しなかった。 

 任務それ自体は滞りなく終了したが、撤収間際にヘマをした。

 まさしく今と同じ状態…… あのときは左足だったか右足だったか忘れちまったが、足場の悪い道でひどく捻ってしまったのだ。

 モンスター退治では、他の連中に思い切り差をつけて活躍してやった手前、この間の抜けた有様に、オレらしくもなく動揺した。……まだ、あの頃はガキだったから。

 

 オレの異変に気づいたのは、一番気づかれたくなかったヤツ…… そう、同僚になったばかりのジェネシスだった。

 上層部連中相手でも、飄々と受け流し、『大人』な対応をする同い年の仲間が、オレは気にくわなかった。

 だが、敢えて無視するような態度を取るオレ相手でも、ジェネシスはごく自然に話しかけてきたし、素っ気ない対応に不愉快そうな顔をすることもなかった。そんな態度がよけいにカンに触ったのだ。

 

『……セフィロス、どうかしたのかい?』

 背後からの穏やかな問いかけに、オレは冷や汗をかいた。

『なんだよ、何でもねーよ。馴れ馴れしく声かけんな!』

 ……今思い返せば、ただのガキだ。

 オレとは異なり、順当な手続きを踏んでソルジャークラス1stまで上がってきたジェネシス。しかも同年代となれば、周囲に比較されるのは当然のことだった。

 戦士としての力量は、当時も今もオレのほうが上だ。ああ、絶対に!

 ……だが、一応ジェネシスも独力で1stを勝ち得た男だ。オレには及ばないが、少なくとも他の雑魚連中に比べれば、飛び抜けた実力者だと言えるだろう。

 そして、ヤツは大人たちに気に入られていた。そつのない優等生的な態度はジジイ共の受けが良かったのだ。……オレとは対照的に。

 

『セフィロス……? 足挫いたのか?』

『…………』

『……痛むんじゃないか?』

『うるせーな』

『……キャンプまでまだ大分距離がある。痛むのなら……』

『……テメーには関係ねーだろ! ……ッッ!』

 苛立ちが頂点に達し、勢いよく振り向いたオレは悲鳴を上げかけた。痛んだ足にもろに重心をかけてしまったから。

『危ない、セフィロス!』

 転びかけたオレの背を支えてくれたのは、ジェネシスだった。