〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<103>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 ……まだ、揺れている。

 地震……という揺れではない。

 先ほど感じた突き上げるような揺れではないが、じりじりと足下に嫌な感覚が伝わってくる。

 

 そして、次の瞬間……

 

 ズンッ!

 

 と、地面が『下がった』。

 我々が立っていたのは、外部に続くフロア…… 魔晄炉内では2Fだ。

 だが、その場所から一挙にワンフロア落ち込んだような感覚であった。

 

「なんだ、こりゃ……」

 呆れたようなセフィロスの物言い。

 もはや地鳴りは止まらない。セフィロスが思わずそうつぶやいたのは、地面の揺れに対してではなかった。

 魔晄炉の最下層……つまり『核』のあるフロアから光が溢れ出している。

 まさか魔晄炉に何かあったのだろうか? 戦闘で傷つけた?

 だが、それにしても、この光と熱……そして大地が沈むような揺れはなんだというのだ!?

 

 ズ……ズズ…… ドガガッッ!

 

 今度は明確な衝撃を感じた。

 情けないことに、私はその場にへたりこんだ。地下から溢れてくる凶暴な白い光が、ちっぽけな我々を追い立てるようだ。

 

「ヴィンセント……! 端によってはいけません」

 ツォンが腕を伸ばして、私の腰を引き寄せた。割れた床が傾斜し、ずるずると身体が引き摺られている。

「ツ、ツォン……! これはいったい……?」

「ヴィンセント、手を……!」

 傾斜はどんどんひどくなってゆく、下の部分が崩れ始めているのだ。地下階層で一体何が起こっているのだろうか……

 

「……もう……時間がな……い」

 掠れた少女の声は、シェルクのものであった。唇から溢れた血は、すでに赤黒くかたまりかけている。

「……時間がない……」

「シェルク……?」

 彼女がぎこちなく、私の方を見上げた。まだ身体を自由に動かすことはできないのだ。

「……時間がないぞ……ヴィンセント・ヴァレンタイン……ゴホッ……」

「シェルク…… 口を聞かないほうがいい。今、安全な場所へ移動させるから」

 まだ、足場が安定している場所へ、小さな身体を移してやる。

「……ヴィンセント……ヴァレンタイン」

「いいから、大人しくしていなさい。すぐに医者を……」

「魔晄のエネルギーが、ツヴィエートに感応している……」

 疲れたのか、彼女は双眸を綴じ合わせたまま、小さくつぶやいた。ほとんど独り言にしか聞こえなかった。

「か、感応……?」

 訊ね返した私に、シェルクは苦笑した。その笑いは今まで無機質な人形のような彼女とは異なっていた。

「話をしている時間はない。……死にたくなければ、我々を最下層フロアへ戻せ」

「なっ……!? 何なのだ? どういうことだ、君!」

「ツォン!」

 気色ばむツォンを手で押さえる。

 少女に暴力をふるうような青年でないとわかってはいるが、今は非常時だ。

「落ち着け、ツォン……!」

「時間がない…… ゴホッゴホッ! 死にたいなら好きにすればよい」

 シェルクはそこまでいうと、大きく息を吐き出した。そして煩わしげに顔を背ける。

「ツォン……! 彼女を抱いて、ここから離れるんだ! セフィロス、ジェネシス!! 脱出するぞ! すぐに……!!」

「無駄ですよ……!」

 キイのずれた楽器のような聞き苦しい声が、私の言葉に覆い被さった。

 ……ネロだ。

 グロテスクに変形したその姿は、もはや美しい青年の原型を留めてはいない。骨で出来た羽根から黒い瘴気が吹き出し、長い髪は乱れて顔の反面を覆っている。

 ところどころ赤黒い固まりがこびりついているのは、おそらくジェネシスとの戦闘で受けた傷だろう。

「……もうほとんど時間はない。今すぐ、この場を飛び出しても、とても間に合いませんよ。クックックッ」

「おい、テメェ!」

 声を荒げたセフィロスの物言いに、ジェネシスが言葉を重ねた。

「セフィロス。魔晄炉が暴発しただけでも、この辺り一帯は雑草一本さえ残らない」

「……クソッ!」

 セフィロスが吐き出す。

「それどころか神羅本社も危ない。……十番魔晄炉はもっとも近い場所にある」

「な、なんだとッ!?」

 セフィロスの声がひっくりかえった。

「オイオイオイ! オイ、テメェ、ジェネシス! それじゃ、クラウドも危ねェじゃねーかッ!! オイ、なんとかしろよッ!」

 クラウドの身の危険が絡んだとたん、一挙に冷静さを失うセフィロス。

「十番魔晄炉は全社の電源を供給して尚、さらに余剰エネルギーがある、最大級の魔晄炉ですからね」

 ギッギッギッと、ザラついた声で、ネロが笑った。薄い口唇から、赤黒い舌が見えた。

「うるせぇ、黙ってろ、バケモノッ! おい、ヴィンセント! ツォンッ! おまえら、どうするよ!? 爆発って……オイ!」

「騒いでも無駄ですよ。……潔く華々しく散っていったらいかがですか? ソルジャークラス1stの英雄さん」

「ふざけんなッ! おい、ジェネシス!考えろよ! おまえ、頭いいだろッ! いつもの悪知恵でなんとかしやがれっ!」

 セフィロスが、彼の胸ぐらを掴み挙げて怒鳴りつける。

 だが、いくらなんでも無茶だ。ジェネシスにだって、どうしようもない。