〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<104>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「……死にたいのか……ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「シェ、シェルク……」

「おまえも……他の者どもも……皆……死ぬ」

 皆……死ぬ……?

 皆…… ここにいるセフィロスもジェネシスもツォンも…… いや、それどころか、本社にいる、この一件にまったく無関係の人たちも……

 あの子たち……ザックスとクラウドも……だ!

「……このままでいれば、もろともに消えることになるぞ…… ゴホッ……」

「シェルク! しゃべってはダメだ」

 ようやく乾いた口角から、ふたたび鮮血が溢れてきた。

「……人がよいのもたいがいにしろ。私はもはやこれ以上、何も言わぬ」

「シェルク……」

 ……時間がない。

 魔晄炉の暴発は、ツヴィエートの存在に感応していると彼女は言っていた。

 最下層に戻せということは、彼らを皆、元の場所……ディープグラウンドに還せということだ。

 双眸を綴じ合わせた彼女を、ツォンに任せ、私は立ち上がった。

 

「……ヴァイス、ネロ。ディープグラウンドへ帰ってくれ」

 私は前に歩み出してそう告げた。

 ネロとヴァイスが私を見る。

 ネロはさもおかしそうに……そして、ヴァイスは初めて私という人間を認識したように、だ。

 ……一方的な話だとは思う。

 彼らは一方的に作り出され、戦闘に狩り出されていたのだから。

「ヴァイス、ネロ。君らの……DGソルジャーの存在に、魔晄が感応しているのだ。このままでは暴発する」

「…………」

 鼻白んだ様子のネロ。

「だから……力づくでも…… 君らにはディープグラウンドに戻ってもらう……!」

「ヘェ…… シェルクに教えてもらったんですか?」

「…………」

「曲がりなりにもツヴィエートの一員を手なずけるとはたいしたものですね、ヴィンセント」

「……ネロ、ヴァイス。魔晄炉の暴発を止めなければならない。ディープグラウンドに……戻ってくれ」

 私は辛抱強く繰り返した。もう時間はない。

「力づくで……なのでしょう? ヴィンセント・ヴァレンタイン。 さぁ、どうぞかかってきてください。どうせ魔晄炉の暴発に巻き込まれるなら、あなた方もろともです」

「ネロ……!」

 

 ズ……ズン…… ゴ……ゴゴゴゴ……

 

 大地の巨人が呻くような地響きが、ふたたび我々を襲った。

「くそっ! ヴィンセント! こいつらを最下層階へ落とせばいいのか!?」

 セフィロスが叫んだ。シェルクはそう言っていたのだ。

「そうだ、セフィロス! 魔晄炉の核のある一番下の……ディープグラウンドへ!!」

「よし……ッ!」

 ふたたび刀を構え、ヴァイスに立ち向かうセフィロス。

 ああ、だが、時間が……もう時間が……

 

 ボッ!

 

 と、炎が吹き出すような音がした。我々の立っている床の、ところどころの場所から、白い光がそれこそ着火した炎のように燃え立ったのだ。

「ぐわッ!」

 白い炎がセフィロスの足にまとわりつく。彼は詰めた間合いから、飛び退いてそれを振り切った。

「クソッ……! 時間が無ェのに……!」

「セフィロス!」

 間に合わない……

 到底間に合うはずがないではないか。すでに床の崩落が始まっているのだ。彼らを最下層へ戻すどころか、下手をしたら我々のほうが先に落ちてしまいそうだ。

 そもそも、あのセフィロスとジェネシスが真っ向から相手をしても、これだけ時間がかかる強敵なのだ。

「セフィロス……! 床が……危ない、こっちへ!」

「それどころじゃねーだろッ!! クソッ! どうすりゃいいんだ…… どうすりゃ…… クラウド……!」

「セフィロス……」

「何が……何が英雄だ! オレには何の力も…… ちくしょう……!!」

 

 

 

 

 

 

 ああ、夢だ……夢のはずだろう、これは……!

 どうして、目が覚めない? 今すぐ……今すぐ、目覚めさせてくれ。

 

 このまま、皆が消えてゆくのを見ることになるのか?

 あのセフィロスが…… ジェネシスが…… ツォンが……!?

 

 いやだ、こんな夢のはずではなかったのに!

 なぜ、こんなことに……!?

 

 喉がからからに干上がっている。頭はうだるような熱で沸騰しそうなのに、指は感覚がなくなるほど冷たくなっている。

 あまりにもリアルなこの感覚…… まさか……夢ではないのか?

 コスタ・デル・ソルに居た『ヴィンセント・ヴァレンタイン』のほうが、夢の世界の住人で、この世界こそが『真実』なのか?

 いや、馬鹿な……そんなはずはない。

 そんなはずはないのだ……! もう何度も確認して居るではないか! しっかりしろ……!!

 

 膝がガクガクと震え、私はそのまま頽れた。

 墨を塗りたくったような絶望の中、もはや自力で立っていることさえできなかった。

 

 床が揺れ、がれきが上から降ってくる。空気を震わす轟音が響く。

 

 『絶望』という漆黒の闇が、我々の頭上から帳のように降りてくるようであった……