〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<105>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「おい、ジェネシス!?」

 唐突なセフィロスの叫び声。

 私はそれにのろのろと反応した。

 これまでならば、彼の声を聞いたならば、即座に耳を傾けていたのに。

「ジェネシス! どういうつもりだッ!!」

「え……」

 目の前の情景に、言葉を失った私の唇から、おかしな声が漏れた。

 

「ジェネシス……! なにを……!!」

 魔晄炉の中央部……せり出した橋の部分にジェネシスは居た。

 彼は黒剣で、ヴァイスの背後をとり、自由を奪っている。

「……ツヴィエートの生体エネルギーと、魔晄炉の核が互いに反応しあっている」

 そう語り始めたジェネシスの声は、ずっと冷静であった。

「暴走し始めた魔晄炉を抑えるには、DGソルジャーがこの場所から消えねばならないんだ。再びディープグラウンドに封印されなければならない」

「ジェ、ジェネシス……?」

「そこのお嬢さん。……ヴィンセントを守ろうとした君を、俺も信用する」

 シェルク……?

 シェルクに向かって話しかけているのか?

 彼女は柱に身をもたれかけたまま、こちらを振り返りはしなかった。

 

「ジェネシス…… 何を言ってるのだ……? 君は……いったい……」

 わなわなと震える掠れた声が情けない。だが、今はそれを恥じている余裕もなかった。

「……女神」

 打って変わったやさしい声音で、彼は私に呼びかけた。美しく整った彼の顔に笑みが浮かぶ。

「ジェ……ジェネシス……?」

「女神…… 君が好きだ。君に逢えて本当に良かった」

「なにを……なにを……」

「……忘れないで女神。俺は『幸福』だったよ、この世界で」

「ジェネシス……! やめてくれ! そんな言い方……それじゃまるで……」

「最後に……約束を守れなくてごめん。本当にごめんよ。……愛しているから。この肉体がなくなっても…… 魂だけになっても、ずっと……君を想っている」

 

 ああ、それからのことは…… もう……

 

 

 

 

 

 

 もう、こうして思い起こすことさえつらくて……

 

「さようなら、……俺の大切な人」

 ジェネシスはそうささやいて微笑んだのだ…… 今まで見た、彼の表情の中で、一番……美しく愛おしい笑顔であった。

「ジェネシス……!! やめろッ! やめてくれ……ッ!」

 伸ばした私の指先で、紅色が白い色彩を伴い、落ちてゆく。

 

 ジェネシスはヴァイスと共に、そのまま白い炎につつまれた場所へ消えていった。

 最下層…… ディープグラウンドへ。

 ヴァイスの後を、取り乱したネロが追う。彼はもはやこちらに注意を払おうとさえしなかった。

 

「ジェネシス……!! ジェネシス、ジェネシス〜ッ! あぁぁぁぁーッ!!」

 喉が裂けるようほどの絶叫。

 いつの間にかシェルクの姿が見えなくなった事にさえ気づかなかった。

 ジェネシスの姿が消えた場所へ…… 中央部に渡された橋に、必死に走り寄る。すでに半分崩れかけていることさえ意識に止めずに。

「ジェネシス!! ジェネシスーッ!!」

 だが、私の身体は強い力で、ぐんと引き戻された。

 私は苛立った。なぜ、こんなにも前に進もうとしているのに、それができないのか、理解できなかった。

「ヴィンセント、よせッ!」

「ジェネシス! ジェネシス〜ッ!! ジェネシスーッ!!」

「よせっ!! テメェが後追ってどうする!」

「放せッ! 放してくれっ!! 私も行くッ!」

 まとわりつく強い腕が不愉快で、私は激しく身じろぎした。

「私も行くんだ……ッ! 約束したんだ……! 一緒にと……約束したのだから……ッ!」

「ヴィンセント!」

「放してくれ、セフィロス! 行かせて……!」

「バカヤロウ! 死にてェのかッ!?」

「一緒に行く! ……一緒に行くんだッ!」

「ヴィンセント、悪ィ……!」

 ドッと熱い衝撃が、腹部を襲った。

 次の瞬間、薄墨を流されたように視界が曇る。

「ジェネ……シス…… ジェネシス……」

 

 『ジェネシス……』

 自分自身の唇から漏れた言葉が、耳に残る。

 目が熱い…… 瞼の裏が燃えているようだ。こめかみを伝う感覚は、きっと涙が……

 

 ジェネシス……

 ジェネシス……

 

 ちゃんと口にしたかったのに。

 私も君のことを好きだと、伝えたかったのに……!! 

 ああ、どうして……! どうして、こんなことに……!!

 

 意識の消えかかる真っ暗な闇の中で、私は嗚咽した。

 子供のように、泣きじゃくったのであった……