〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<106>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ…… ……ッ!!」

 私は激しい息づかいと、悲鳴で目覚めさせられた。

 ……それは私自身の吐息で、聞き苦しい悲鳴は、この口から迸ったものであった。

 

 まぶしい……

 強い……強い陽の光。

 ミッドガルでは、到底感じることのできない…… あまりにも強烈な太陽の感覚であった。

 なつかしい……コスタ・デル・ソルの。

 

「あ……はぁっ……はぁっ……」

 ベッドサイドの水差し…… 飲みかけのグラス…… とっくに氷が溶けていて、玉のような水滴が、透明なガラスに張り付いていた。

「ここ…… ここは…… はぁっ……はっ……」

 つい先ほどまで目の前まで繰り広げられていた、地獄のような光景が、ちらちらと瞼をかすめては消えてゆく。

 

「ああ……そうだ…… ジェネシス…… ジェネシスは……」

 あまりにも長く長くあの世界で、微睡んでいたせいなのだろう。

 目覚めたばかりの私には、夢と現実の区別がついていなかった。

 

「ジェネシス……? ジェネシス……」

 熱と光の海に身を投じた、かの世界での恋人の名を呼ぶ。

「ジェネシス……? どこだ……?」

 何とか寝台から身を起こし、部屋を出る。そのまま居間をのぞいてみるが、その人の姿はなかった。

 コスタ・デル・ソルの強い日射しが、整理された居間に降り注いでくる。きっと外はものすごく暑いはずだ。だが冷房の効いた室内は、しんと空気ごと冷たく静まりかえっていて。

 

 ジェネシス……?

 ジェネシスは、私の目の前で……死んで……

 

  死んで……

 次の瞬間、猛烈な吐き気が私を襲った。

 体中の毛穴から、冷たい汗が噴き出す。

「あ……あぁ…… ぐぅ……」

 私はそのままバスルームに走った。気持ちの悪い汗と吐き気をなんとかするために。

 ローブを脱ぐことさえも忘れ、私はシャワーのコックをひねった。

 ザァッと音を立てて、雨のごとく水が落ちてくる。力一杯ひねったから、私を撃つ水滴の勢いは痛いほどだ。

「はぁっ……はぁっ…… ジェネシス…… ジェネシス……ッ!!」

 頬をシャワーだか涙なのかわからないものが伝わってゆく。

 喉の奥に引っかかった冷たい固まりが、いつまでたってもはき出せなくて……

 冷たい水のシャワーに打たれても、沸騰した脳漿は落ち着いてくれない。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス…… ジェネシス……!」

 ヴァイスとネロを道連れに、ディープグラウンドに落ちていった君……

 あの場所に居た我々を救うため、何の迷いもなく自らの身を犠牲にしたのだ。

 彼の最後の微笑を思い起こすたびに、肌が小刻みに震える。

「ジェネシス……ジェネシス…… どうして……あんなことを……」

 彼は自らがネロらの同胞だと悟ったのだ。

 ホランダーの実験体のひとつであると……

 ……しかし、不本意ながら、彼は『失敗作』と呼ばれていた。

 つまりDGソルジャーであって、そうはなりきれていない。ならば、ああいった形で、自らの身を処する必要もなかったはずなのに。

 どうして……?

 ヴァイスやネロをディープグラウンドに還すためだとしても……なにもあのような方法をとらずとも……

 

 どうして?

 どうして、私を置いてあんな形を……

 

 違う……彼がああいった手段を選んだのは、私のためだ。

 私を……私たちを救うため…

 

 ああ、でも、一緒に帰ろうと誓ったではないか…… 私は君との約束をきちんと守るつもりだったのに……!!

 

『……忘れないで女神。俺は『幸福』だったよ、この世界で』

 

「あ……あ……あぁぁぁぁーッッ!!」

 おのれの口からほとばしったとは思えない悲鳴が、虚空を切り裂いた。

 空気が震え、狂気じみた悲鳴をどこまでも伝えてゆく。

「あぁぁぁぁーッ!! ジェネシス! ジェネシス〜〜〜っ!!」