〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<53>
 
 夢の中のジェネシス
 

 

 

 

 

 

 ……セフィロスに、すでに想う人が居てよかった。

 我ながらいやらしい思考だと感じるが、正直な気持ちだ。

 もし、彼にチョコボっ子という存在がいなければ、きっとセフィロスもヴィンセントに惹かれただろう。

 いや、実際あの子がいてさえも、彼のヴィンセントに対する態度は、他の同僚や上役などへのそれとは大いに異なる。

 

『ずいぶん細っこくて大人しそうなのが入ってきたな』

 初めてヴィンセントが、ソルジャー部門に顔を出したとき、セフィロスはそんなふうに言っていた。彼をソルジャーの新人かと勘違いしたらしいのだ。

 たぶん最初は、変わり映えのしない毎日に、ちょっとおもしろい珍獣を見つけたような気分だったのだろう。もともとセフィロスは、ひどく飽きっぽい性質をしている。

 

 ……あれ?

 と感じたのはいつ頃だったろうか。

 はっきりとは覚えていない。

 俺は仕事で出ていて、セフィロスが午後になってから、だらだら執務室に戻ってきたときがあった。

 たまたま部屋で一緒になったわけだが、彼に似つかわしくもない甘ったるい香りがしたのだ。

 女性の移り香とか、そういった人工的な香りではなく、菓子の匂いのような。

 俺はちょっとばかりからかい口調で、

『セフィロス、ケーキでもワンホールたいらげてきたのかい?』

 と声を掛けた。

 すると彼はめずらしくも、ウッとつまるような表情になり、くんくんと服の匂いをかいでいた。

 そのとき、セフィロスは、俺に理由を話をしてはくれなかったが、後日ヴィンセントと会ったときに、その話をすると、彼は何の躊躇もなく、セフィロスと公園で会って、子猫たちとお菓子を食べてきたと教えてくれた。

 ふたりがどのような会話を交わしたのか……俺に知る術はないが……

 セフィロスを観察していると、なんとなく思うことがある。

 

 それは彼が、ヴィンセントに『甘えている』ということだ。

 セフィロスは基本的に面倒くさがり屋だから、ラザードやアンジールに、勝手なことを言い放ち、彼らの好意に偉そうに頼ることがある。

 だが、そういった様子とは意味合いが異なる。

 

 俺はセフィロスの肉親を知らない。

 そして、また、セフィロス自身も、自らの血縁を知らずに、この年まで生きてきたそうだ。

 そんな彼が、まるで身内に寄りかかるように……そう、極論するなら、母親にじゃれつくような雰囲気で、ヴィンセントに甘えている。

 ヴィンセントも、すでに成人している彼が、そんな形で側近くに寄ってくるのを、拒否したりはしない。むしろそうしてくれることを、本人が望んでさえいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 セフィロスとヴィンセントに面識はない。

 ……俺もそれほどくわしくヴィンセントの経歴を知っているわけではないが……

 

「……どうかしたのか?」

 そう声を掛けられて、ハッと顔を上げた。本人が側にいるのに、ついおのれの思考に沈み込んでいた。

「あ、いや…… ああ、そうだ、女神。一度聞きたかったんだが……」

 さりげなく、ふと思いついたという口調で切り出してみた。

「なんだろうか?」

「君はセフィロスと知り合いだった……なんてことはないよね? 本社に挨拶にきてくれたとき、初めましてと言葉を交わしていたと記憶するのだが」

「え……あ、ああ。初対面だ」

 一瞬答えに詰まったかのように見えたのだが、俺の気のせいだろうか。

「も、もちろん、セフィロスも君も有名だから、名前くらいは知っていたが」

 慌てたように付け足すヴィンセント。それ以上質問されるのを避けるように。

「いや、いいんだ。……失敬、いきなりおかしなことを訊ねてしまって」

「ジェネシス…… でも、どうしてそのようなことを?」

 当然の問いだろう。別に隠す必要もないので、俺は正直に答えた。

「セフィロスの態度を見ていてね。なんとなくそう感じたんだ」

「セフィロスの……?」

「そう。君も部門長という立場にあるのなら、セフィロスの経歴は知っているだろう。彼は両親の顔を知らない。幼い頃からずっと神羅で生活してきたんだ」

 プライバシーに関わることを、他人に話すのは好ましくない。その程度の良識ならば、俺だとて持ち合わせがある。

 だが、相手がヴィンセントなら、セフィロスも不快には感じないだろう。

 ……いささか勝手かと思ったが、俺はそのまま話を続けた。