〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<54>
 
 夢の中のジェネシス
 

 

 

「……セフィロスにあこがれる者は多い。彼の愛しているチョコボっ子でさえも、憧憬の念から、この神羅カンパニーに入社してきたくらいだ」

「ああ、そう……らしいな。クラウド本人がそう言っていた」

 静かに女神は頷いた。

「……セフィロスはいつもひとりだった。周りを取り巻く人間が多ければ多いほど、その有り様は顕著だったんだ」

「いや……だが、君とアンジールがいるだろう? 少なくとも君らだけは特別だったはず……」 

 そんなふうに言いかけた彼の先を、俺は制するように言葉を重ねた。

「そうだね。確かにその他大勢よりは近しい存在だろうとは思うよ。……だが、俺も数年前から、セフィロスと一緒に居るけどね。……君に見せたような無防備な姿を、一度も見たことはないよ」

「ジェネシス……」

「ああ、すまない。そんな顔をしないでくれたまえ。決して俺は不快に思って言っているのではないのだから」

 困惑した様子で眉をひそめた彼を、早口に宥めた。

「ただ、セフィロスがあんなふうに、人になつくのを初めて見たのでね。もしかして、君たちはどこかで面識でもあったのかなと考えたんだ」

「……いや……初対面だ」

「やはりそうなんだな。……ということは、俺の愛する人は、初対面のワガママ自己中男さえも、魅了してしまうほど素敵な人なんだな」

「ジェ、ジェネシス…… もう、よしてくれたまえ、は、恥ずかしくて聞いていられない!」

 そういうと、彼はさっさと立ち上がり、茶器を片づけだした。

 俺としては感じたことをそのまま口に出しているのだが……

「さぁ、もう、時間も遅い。先に風呂に入ってくれたまえ。私はベッドメイクを済ませておくから」

 そう言った途端、自らが発したベッドメイクという単語に反応したのか、慌てた用に俺にローブを押しつけてきた。

「ま、間に合わせで済まないが、私のものを使ってくれたまえ。それは少し大きめだから、君でも着られると思う。で、では……」

「ふふ、すまないね。ありがたくお借りするよ」

 これ以上、側でつきまとっていたら、一方的に困惑させるばかりだろう。

 俺は素直にタオルとローブを借り、風呂に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

「これはうらやましいくらいに、広いバスだな……」

 思わず俺はそうつぶやいていた。

 俺やセフィロスの部屋も、このエグゼクティブタワーにあるが、ヴィンセントの住むフロアは、完全に上級管理職用の仕様になっているらしい。

 リビングもダイニングも十分な広さがあったが、ここバスルームに至っては、あきらかに俺たちの部屋とは造りが異なっていた。

 角部屋だから壁側にはぐるりと窓がある。

 ガラス張りの壁面からは、ネオンの浮かんだ海岸線も見渡せる。天の星が瞬く様子など、まるでプラネタリウムを眺めているようだ。

 バスルームに比例して、浴槽自体も広い作りだ。

「なんだ……これなら、ふたりでもゆっくり入れそうじゃないか」

 なんなら、彼を呼びに行こうかと思ったが、やはり思いとどまる。

 女神は極度の照れ屋だし、肉体へのコンプレックスも強いと言っていた。俺は全くそうは思わないんだが、彼の心情に鑑みるのは当然の配慮だ。

 

 風呂好きの俺は、いくらでも長湯ができるが、今夜のところはさっさと上がることにする。もちろん、身体中、ごしごしとこれでもかと洗いまくったけど。

 同じベッドで休ませてもらうのだから、できるかぎりの気配りをしようと思ったのだ。

 ……そういや、セフィロスは二日酔いの泥酔状態で、ヴィンセントに拾われたと言っていた。当然風呂になど入る余裕はなかったろうから……酒くさいままで、彼の寝台に倒れ込んだというのだろうか。

 ……なんだか、妙に不愉快になってきた。

 

「やれやれ……あの天然男にヤキモチとは……情けないぞ、ジェネシス」

 ひとりごちる。

 俺は、丁寧に髪の水気を拭い、彼から借りたローブを身に纏った。

 コットン地のそれからは、石けんの香りがする。

 香水などの人工的な香りでないのが、なんだかひどくヴィンセントらしいと感じた。