〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<93>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 そのときである。

 ネロの背後から、小さな影が、私めがけて飛び込んできた。

「な……ッ!」

 てっきりネロが攻撃してくると想定したのに……

 私の身の丈半分どころか、それよりも小さいのではないかと思われる。

(……バカな…… こ、子供……!?)

 私は、恐ろしいほど敏捷な動きをする敵を、紙一重のところで躱した。正直避けきれるとは思っていなかった。

 

「……排除する」

 ライトセイバーの二刀流、十才程度の少女にしか見えない、その外見。

 だが、大きな双眸に感情は読み取れず、凍り付いたように無感動であった。

 

「シェ……シェルク……!」

 思わず彼女の名をつぶやいた。

 この時点から遠い未来、私はこの少女と出逢うことになるのだ。

「排除する……!」

 あどけなさの残る唇が、感情のない言葉を綴った。

 小さな身体から、次々に攻撃がくり返され、私は必死にそれを避ける。

 光の尾を引く、二本の武器は、電磁波のような効果があって、それが肉体に触れると感電したような衝撃に襲われるのだ。

「シェルク……よしなさい……ッ!」

 私は彼女に呼びかけるが、それに応えてくれる素振りは見せない。この時点において、彼女の精神は完全に連中の支配下にあるのだろう。

「シェルク……!」

 彼女に、一切攻撃を加えない私を眺めつつ、満足そうにネロが笑った。

「やれやれ、ここまでこちらの予想通りですと、いささか拍子抜けですね」

「ネロ……」

「そんなことでは、いつになっても我々から逃げ出すことなどできませんよ、ヴィンセント・ヴァレンタイン。しかし、貴方がシェルクを見知っているとは……」

「……ネロッ! 彼女を下がらせろッ!」

 私はそう叫んだ。 

「それはできません。早くその子を倒してください。そうしたら、私が直々にお相手いたしましょう」

「……排除……ッ!」

 シェルクのセイバーが、死角から飛び込んできた。避けきれず脇腹に喰らい、思わず膝を突く。骨に直接響いてくるような衝撃だ。

 ネロとの言い合いに気をとられていたせいだ。

「う……ぐぅ……ゲホッ! グフッ……」

 空えずきを繰り返す私に、ジェネシスが走り寄ろうとした。

「女神……ッ! 女神!!」

「ゲホッ! 大丈夫だ……! いいから、ジェネシス!」

 ジェネシスの相手はロッソだ。ヤズーと互角にやりあった彼女なのだ。戦闘能力は、ソルジャークラス1stの彼らと大差ないだろう。

「女神……ッ!」

「……排除……!」

 表情の読み取れぬシェルクの冷たい瞳が、私を追い詰める。

 腹を庇いながら、なんとか躱すが私はそのまま転倒した。……骨は折れていなかろうが、呼吸をすると息がつまるような疼痛が走る。

 

 

 

 

 

 

「おい、何してやがる! 闘え、ヴィンセント!」

 鞭のような怒鳴り声は、セフィロスだ。

 彼とアスールの戦闘は、セフィロスのほうが優勢のようだ。

 あの、アスールという原人のごとき巨人。パワーでは何人にも遅れを取らなかろうが、セフィロスはパワーのみならず、スピード、リーチ、すべてが超一流の戦士だ。生半可な輩では彼の相手はつとまらない。

 そういった意味では、アスールというツヴィエートも尋常ならざる戦闘能力を有していると評価できる。

「馬鹿野郎ッ! こんなところで死ぬつもりか!」

「セ、セフィロス…… あ、危ないッ!」

 私に注意を払っている隙をついて、アスールが巨砲を彼に向けた。

「チッ……! タフなヤロウだ! さっさと倒れろッ」

 長刀を閃かせ、高く跳躍するセフィロス。小山のようなアスールの身体を飛び越え、背後を取った。

「ウオォォォッ!!」

 見事な袈裟斬りが決まるかと見えたが、熊のような巨人は倒れなかった。

 実際、セフィロスにいくつもの太刀傷をつけられている。だが、筋肉の厚みと体毛と表皮の強さで致命傷にならないのだ。

「チィィ! この山男めが!」

 セフィロスが激しく吐き出した。

「そう簡単にアスールは倒せませんよ。耐久力にかけては、我らツヴィエートの中でも右にでるものはおりません……」

「おい、テメェ!」

 楽しげに言葉を弄ぶネロを、セフィロスの鋭い声が遮った。

「ヘラヘラ笑いやがって! この、いけすかないクソ野郎がッ!」

「…………」

「指一本動かさず、仲間の闘いをながめて批評家きどりか! おまけにヴィンセント相手に、あんなチビガキを宛がうたァ、見下げ果てたクズ野郎だ!」

 面と向かっての罵倒に、さすがのネロも鼻白んだ様子だ。

「言葉にお気をつけなさい。……あなた方の命は、僕らの手の内にあるのですよ」

「ケッ! 笑わせやがって。オレ様ひとりでも、この程度の連中、斬り伏せてやる!」

「セフィロス…… 神羅の英雄。さすがに一筋縄ではいかないようですね。シェルク、ロッソ。そちらも早く片を付けてください。あの活きのいいソルジャークラス1stの英雄さんは、皆で仕留めますよ」

 ザッ…… 

 ロッソとシェルクが、それぞれの敵に向き合った。

 ロッソはジェネシス…… そしてシェルクは、当然私に向かって構えを取った。