〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<95>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ごほっ……ヴィン……セント……」

「ここを動いてはいけない。この場が済んだら、すぐに治療するから…… 静かにしているのだぞ、いいな!?」

 噛んで含むようにそう言い聞かせ、シェルクに背広の上着を掛けてやった。

「おやさしいことですね、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「…………」

「……けっこう。望み通り、この僕がお相手しましょう」

 次の瞬間、ネロの姿が視界から消えた。

 背後に風の気配を感じ、振り返らずにそのまま身を躱す。

 着地した場所から、さきほどの足場を見る。そこにはごく当然のようにネロが佇んでいた。床に走った刃物の疵は、彼の攻撃だろう。

 

 ガゥンガゥン!

 

 銃が咆吼する。私は迷いなく彼の心臓を狙った。

 もちろん、相手はあのネロなのだ。容易に勝てるはずもない。

 彼は銃弾を避け、さらにこちらに攻撃したきた。

 

 耳元で銃弾が炸裂し、私は横飛びにそれを避けた。

 

 ……銃……?

 敵で銃を使うのは……

 

「すみませんね、ヴィンセント。いささか反則だったと思います」

 ネロの背に漆黒の翼が現れた。

 ……いや、よく見れば、羽根ではない。

 黒い骨が、翼の形に組み合わされ、その先端に『手』がついていた。それが銃を操っていたのだ。もっとも『手』とはいっても、手の骨組だ。

 なまじネロ本人が、それなりに美しい外見をしているせいだろう。グロテスクな背の翼との対比で、まるで地獄絵図の化け物のようだ。

「おや、おどろいた様子がありませんね」

「…………」

「貴方は、大声を出したり、あわてふためいて暴れたり、見苦しい真似はしない方なのですね」

「…………」

「……そんな貴方を、ここで処分しなければならないのは本当につらいことです」

「…………」

「せめて、この手で僕が……」

 ネロが黒い翼を広げた。暗い瘴気が闇色に広がってゆく。

 瞬く間に、それらは羽を持つ節足動物の形状をなした。いつぞやネロと対峙したとき、クラウドが気味悪がって泣き叫んでいた例の物体だ。

「ヴィンセント……!」

 ツォンが私の腕をグンと引っ張った。

 飛んできた不気味な小虫が床に張り付き、ボンッ!と爆音を放ち、燃え尽きた。

「大丈夫ですか、ヴィンセント!」

「あ、ああ…… すまない、どうもありがとう、ツォン」

 彼は焼けこげたフロアを、気味悪そうに見遣り、

「こ、小型爆弾?」

 とつぶやいた。

「わ、分からない…… だが、そのようにも操れるということだな」

「……いったい何なんだ、こいつらは……! DGソルジャーとは……」

「ツォン、来るぞ!」

 再び、ネロの黒い羽が、風を起こして反り返った。

 

 

 

 

 

 

「トドメだ、死ねーッ!」

 ドゴオッッ!

 巨岩の割れるような音が、魔晄炉内に響き渡った。いや、音だけでなく、衝撃もビリビリと足下から伝わってくる。床が振動したのだ。

 アスールの小山のような巨体が、勢いよく吹っ飛び、壁面に叩きつけられていた。

「ふぅ! 手間ァ掛けさせやがってッ!」

 セフィロスは、乱暴に髪をかき上げると、弾む吐息を堪え吐き捨てるようにそう言ったのだ。

「ぐぅぅぅ……」

 アスールはケダモノじみたうなり声をを漏らしたが、起き上がることはできない。

 さすが、セフィロス。やはり最強の剣士だ。

「さァ、次はテメェの番だ! この陰険バケモノ黒髪ッ!」

 またもや、言い得て妙といえるあだ名をつけ、セフィロスは長刀をネロに差し向けた。

 ロッソと闘っているジェネシスではなく、私たちに加勢しようとするのは、おそらく私が彼の上官であり、戦闘能力に難があると考えられているからだろう。

 ……そして、セフィロスはネロのことをひどく嫌っている。ゆえに、自分自身で叩き斬ってやりたいのかもしれない。

 

 だが、それより何より、同じソルジャークラス1stである、ジェネシスの実力を熟知しているのだ。

 武器の相性のせいで、多少手間取ったとしても、ジェネシスのほうが上であると、見極めているに違いなかった。