〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<96>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「むぅぅ、おい、ホランダー!」

「…………」

「おい、聞いとんのか! おまえ自慢の兵隊が、もう二匹もやられているではないか! 本当に成功作なのか!」

 下卑たダミ声はハイデッカーだ。

 この男とは、ほとんど接点がなかったため、むしろクラウドらとパーティを組んでいた際に出会ったときの印象が強かった。

 強者にはこびへつらい、弱者にやつあたりをする…… だが、どこか間抜けた中年男で憎むに値しない人物だと感じていた。

 だが、それは浅慮だったらしい。彼は十分唾棄すべき、傲慢な独裁者であったようだ。

 人の形をしたDGソルジャーを、『何匹』という単位で呼び、私怨で闘わせていることに、何の痛痒も感じない男……

 このような輩が軍事部門の部門長を務めていたとは……そう考えれば、部門長交代を考えたルーファウス神羅は、少なくとも人を見る目はあるようだ。

 いや……後任が私、というのは、十分問題なのだが。

 

「あぁ…… まだ、調整が効いてないんだなァ…… もうちょっとツヴィエートのほうは時間を掛ければよかった……」

「おい、このバカ科学者が! こら、おまえら、わしを守れ!」

 埒があかないと思ったのか、ハイデッカーは、周囲に蠢いているDGソルジャーの生き残りを叱りつけた。

「……唾棄すべき人間だ」

 私は低くつぶやいた。我ながら陰惨な声音になっていたと思う。

「ええ、僕もそう思いますよ」

 ネロが私に同意する。

 『ならば何故?』という詰問は、無意味なのだ。

 それはネロも私もよくわかっている。

 

「おい、変態野郎。どこを見ていやがる!」

 唐突に私とネロの間合いに割り込んできたのは、セフィロスその人であった。

 なんというか……いつもの、あの遠慮会釈ない、ふてぶてしい態度で。

「テメェの相手は、このオレ様だ!」

 ネロの目の前に、マサムネの切っ先を突きつけ、セフィロスは傲岸に言い放った。

「セ、セフィロス……」

「おう、待たせて悪かったな。アンタは下がってろ、ヴィンセント」

「で、でも、君……」

 さすが、神羅の英雄。あれだけの数のDGソルジャーを斬り伏せ、ツヴィエートのアスールをも倒したというのに、息一つ乱していない。

 だが、まったくの無傷というわけにはいかなかった。

 おそらくアスールの攻撃のせいだろう。右の二の腕の部分は、レザーコートが引き千切れており、じくじくと血がにじみ出していた。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、腕が……」

「ああ? こんなもん、後でツバでも付けときゃ治る。来ねェなら、こっちから行くぜ!」

 ダンと足場を蹴り、ネロに斬りかかってゆくセフィロス。

 まさしく猛獣が、餌を屠るかのように。 

「セフィロス……!」

「ヴィンセント!」

 肩をグンと引っ張られて、私はハッと正気づいた。思わずセフィロスの後を追おうとしていたのだ。

 私を引きよせたのは、ツォンの手であった。

「ヴィンセント。セフィロスに任せておいたほうがいい。我々の敵はネロだけではありません」

「ツ、ツォン…… ああ、そう……だな」

 彼の言うとおりだった。

 いったいどれほどの兵隊を用意していたのか、DGソルジャーは、次から次へとやってくる。ゾンビを思わせる緩慢な動作のものから、敏捷に動く輩もいる。

「セフィロスとジェネシスの援護をしましょう。銃使いの我々のほうが、その点は有利です」

「よ、よし……! では私はジェネシスのほうに……」

 とそこまで言いかけたときであった。

 

「おお! やっと目覚めたか……ッ!」

 調律の為されていない楽器のような、音程外れの声が飛んできた。

 DGソルジャーを作り出した元凶、科学者・ホランダーだ。

「待っていたぞ、おまえが目覚める時を……! 私の最高傑作……! ついに目を覚ましてくれた……!」

 ホランダーは、両手を天に広げ、そう叫んだ。

 くぐもって擦れがちな彼にしては、かなり大きな声で。

 

「なんだ……この妖気は……」

 押し殺した声音で、ツォンがつぶいた。

 そう妖気だ。

 ただならぬ気配が、地下からせり上がってくる。

 白く輝くエネルギーの化け物が、じりじりと足下を焦がし、徐々に頭をもたげてくるような雰囲気……とでもいえばよいのだろうか。

 

 ネロと対峙しているセフィロス、そしてロッソと戦闘中のジェネシスも、尋常ならざる気配に気付いているはずだ。

 私は息を詰め、じっと『動くモノ』の到来を待った。