〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<97>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 ゴォォォォ……

 エネルギーの蠕動で、鋼鉄の床が微動する。

 魔晄炉内が、白い光で満たされてゆく。

 

「ああ……兄さん……!」

 突如、ネロが感嘆の吐息と共に、そう呼ばわった。

「兄さん……! 待っていましたよ、貴方の目覚めを……!」

 失笑を買うほどのリアクション付きで、ネロは光のほうに歩み寄る。

 先ほどまでの毒々しい雰囲気ではなく、彼は心から、『兄』と呼ぶ男を慕っている様子であった。

「お、おい、ホランダー、こいつは……」

 ハイデッカーが、慌てて傍らの科学者に問いかける。圧倒的なエネルギーを感じ、自らの身の安全が心配なのだ。

「そうです、彼こそが私の最高傑作……! このツヴィエートの頂点に君臨する戦士……! まだ、目覚めを促すには時期尚早かとも考えたが……」

 狂気の熱で、双眸をギラつかせ、科学者ホランダーは、次第に強くなってゆく白い光を振り仰いだ。

 むろん、ハイデッカーには何が起こっているのか理解できないのだろう。

 ツヴィエートなのだから、自分たちの兵隊であるとは認識できようが、『そのモノ』を味方と判ずるには、あまりに凶暴すぎる邪気を纏っていたのだ。

 

「さぁ、純白のヴァイスよ……! ツヴィエートの頂点に君臨する最強の戦士よ……! この創造主におまえの力を見せてくれ!」

 ホランダーが白く発光する物体に語りかけた。

 ……マッドサイエンティストというのは、皆、似たような語りかけを実験体に対して行うようだ。これは彼ら共通の習性なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 徐々に発光が収束してゆく。

 それは、終いには人型を為すと、すべての光がその中に吸い込まれるように鎮まった。「ああ……兄さん!」

「う……う……うおぉぉぉッ……!」

 ヴァイスがその場で咆吼した。

 獣じみた吠え声は、まだ人としての感情の制御が為されていない様子だ。

「ヴァイス……! 純白のヴァイスよ! 私がわかるな!? おまえの創造主だ!」

 ホランダーが興奮した面持ちで走り寄り、熱心にヴァイスに語りかけた。

「さぁ、ここに居る輩をすべて殺せ! 神羅カンパニーは生まれ変わるのだ! おまえは最強の戦士だ!」

「う……うぉ……ぉぉぉ……」

「どうした、さぁ、ヴァイス!」

「ぉぉぉ……あぁ……」

 ヴァイスの発する気はすさまじい。

 だが、それを彼自身が制御できていないように見える。ホランダーがいったとおり、ツヴィエートの自律能力が個体によって、大分差があるのだろう。

 ネロやロッソらは、私の知る彼らと大差ないが、シェルク、アスール……そして、だれよりも、御大のヴァイスが一番不安定に見えた。

 そう……まるで、今の彼は、オメガの一件の後、正常な状態ではなくなった姿と違わない。

 

「おぉぉぉ……あぁぁぁ……!」

「ヴァイス! 早くこの者たちを殺れ! 私たちの帝国を築くのだ!」

 焦燥にかられた熱っぽい声音で、叱咤するホランダー科学者。

 だが、次の瞬間、ヴァイスの巨躯から、にゅっと太い腕が伸ばされた。

 それは、リンゴの実を掴むように、ホランダーの頭部を握りしめた。

「がっ…… き、貴様……なにを……?」

「あ……おぉぉ……」

「は、放せ! 私はおまえの創造……」

 うつろな眼差しのまま、ヴァイスはぐいと手に力を込めた。

 次の瞬間、まるでトマトを握りつぶすかのように、いともたやすくホランダーの頭がはじけ飛んだ。

 ぶしゅっと嫌な音と共に、脳漿があちこちの飛び散る。

「うっ……」

 思わず私は口元を押さえた。唐突に吐き気がこみあげてきたのだ。

「おい、ヴィンセント。しっかりしろ」

 セフィロスの叱責が低く響いた。私は何とか頷き返した。

「ケッ、敵が共倒れで自滅してくれりゃ楽なモンだぜ」

「あ、ああ……だが……」

「あの科学者は自業自得だ。……本社でそれなりに懇意にしていたこともあったが、どちらにせよ、ありゃもうダメだったろ。目がイッちまってた」

 物の言い方はきついが、おそらくセフィロスは私を慰めてくれたんだと思う。

 人が死ぬ場面に慣れない私を、気遣ってくれたのだ。

「……セフィロス」

「大丈夫だ。あんな野獣みたいな野郎に、オレは負けない」

 彼は私とツォンを、あらためて後ろに下がらせると、再び正宗をかまえた。

 まっすぐ、ヴァイスに向かって。

 そう、セフィロスは、自分が闘うべき相手を、本能で見極めることのできる人であったのだ。