ハローベイビー 〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜 <4> クラウド・ストライフ
日曜日の夕方だ。
仕事があった日でもないが、なんとなくうつらうつらと眠たくなってきた。知らぬ間に船を漕いでいたらしい。
真昼の空の下では、到底居眠りなどできる日差しではないが、ここは市場の日陰にあるベンチだし、時間も時間なので、人混みも少ない。
まだヴィンセントが戻ってこないところを見ると、居眠りとはいってもほんの十分程度だと思う。
「ふぁ〜あ、やれやれ……」
うーんと伸びをして、目を覚まし、のんびりと頬杖をつく。
たまにはこんなのんきな休日もよいものだ。
……と思った矢先のこと。
バタバタと派手な足音が周囲を走り抜けていった。砂ほこりが舞うのが煩わしい。
「チッ……ったくなんだよ、こんな場所で全力疾走すんなっつーの」
ブツブツと文句を言っていると、真っ黒な服を着た、『迷惑な砂ぼこり野郎』が、俺の目の前でピタリと足を止めた。真っ黒な服……というか、このクソ暑い場所で黒づくめのスーツなのだ。
「……?」
「ク、クラウド! クラウドだよな! 助かった!」
そいつはハァハァと息せき切ってそう叫んだ。
「……レ、レノ?」
「ちょっ……俺、マジ急いでんだよ。悪い、頼まれてくれ!」
「なんだよ……アンタ、だしぬけに。だいたいこんなとこで何してんの?」
のどかな午後の青物市場。どこか田舎臭い老若男女の中で、ブラックスーツに赤毛の男は目立ちに目立っている。
「クラウド、悪ィッ! これ、頼む!」
なにやら抱えていた布の包みをぐいと押しつけてきた。
「うわッ!ちょっ……な、なんだよ、コレ!」
「いいからッ! 頼むから、しばらく預かってくれ!」
「ハァァ? お、おい……!」
俺があわてて問い返そうとしたときには、すでにヤツは痩躯をバネのように操って、人混みの中に姿を消していた。
「おいおい! ったくなんだっつーんだよ! 俺はもう神羅の社員じゃないんだからな! アブネーもん預けんなっつーのッ!」
久方ぶりに逢ったと思えば、相変わらず落ち着きのない赤毛ヤローだ。一時は敵対し、追いつ追われつしていたが、今はまぁ……和解している、ことになるのだろうか。
やつらが今、メテオ事件で親を失った子供のための施設を作ったり、WROにも資金援助しているとなれば、一応敵対関係は解消されたと考えるべきだろう。
「ったく……もう面倒事に巻き込んでくれるなよな……ただでさえ……いろいろと……」
ブツブツと文句をいいつつ、預けられた包みを開いてみる。『包み』とはいってもけっこうの大きさだし、重量もある。
……俺は中身を確認した瞬間、サーッと血の気が引いていくのを感じ、軽い眩暈を覚えたのであった。
「……おい、これ……ちょっ……もうホント……どういう……」
「クラウド、待たせてすまなかった。買い物は済んだから……」
計ったように、ヴィンセントが手荷物を下げて戻ってきた。
俺の姿を見留めると同時に、切れ長の双眸が丸く見開かれた。こんな時なのに、ルビーのような瞳が、夕陽に透けて本当に綺麗だなと感じる。
「……その子は……おまえの?」
なんと言えばいいのかわからなかったんだろう。
ほとんど惚けたような面持ちで、ヴィンセントはぼそりとつぶやいたのであった。
……レノから押しつけられたソレ……
チョコボの産毛のような金の髪にブルーアイズ。
桜色の肌……
俺の懐におさまり、スースーと微かな寝息を立てているのは、まぎれもない人間の子ども……珠のように愛らしい赤ちゃんであった……