ハローベイビー 〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜 <5> クラウド・ストライフ
「もう、ホンット、サイテー。ありえないよね、それって。まさか兄さんがそんな人だとはね……」
「やれやれ、どうせやるなら、もっと上手くやれ。ナマがいいのはわかるが、女相手に中出しは……」
「ところで、どうして赤ちゃんだけ? 相手の女の人は?」
「ケッ、ていのいい厄介払いだろ。ったく黙って押しつけられるなんざ、間抜けたクソガキが」
「ちょっ……やめてェェェェ!!」
俺は地響きがするような勢いで立ち上がると、ダァンとテーブルをぶっ叩いた。その拍子にソーサーに乗せられたカップがカチャカチャと踊った。
「アンタたち、ケンカ売ってんのッ!? それとも面白がってんだろ、コノヤロー!」
「だあってさァ〜、いきなり自分とそっくりの赤ちゃん抱いて帰ってきたらねェ。兄さん、前科があるし」
ひょいと両手を広げて、ヤズーが言う。
「『前科』ァ!? なんだよ、それッ! 聞き捨てならないな、オイ!」
「ヴィンセント置いてけぼりにして、キャバクラで女の子の相手してたんでしょ?」
「だからそれは誤解っつっただろッ! ぶん殴るぞ、コイツッ!」
「ヤダァ、こわ〜い!」
茶化すヤズー。一緒になって嘲笑うセフィロス。
あからさまにからかっているだけとわかるのだが、つい本気になって言い返してしまうのだ。
……聡明な読者のためにも、一言断っておくが、天地神明に誓って俺の子どもではない。
絶対に違う。
女と経験がないのかと聞かれれば、そんなことはないけど……そういうときは気をつけているし、ヴィンセントとこの地で暮らすようになってからは、生活のために忙しく働くようになった。
そのせいか、そういう欲求を感じることは少なくなっていた。もちろん、それは対ヴィンセント以外ということであり……つまり、彼とずっと一緒に居られるようになってからは、外で見知らぬ女の子を積極的に相手にしようなどとは、これっぽっちも思わなくなったのである。
「いいかッ! とにかくこのガキは俺とは関係ないッ! ボケ赤毛がパツキン女との間にこさえたんじゃねーのかッ!」
乱暴な口調で怒鳴りつけたが、そんな俺をやんわりとたしなめたのはヴィンセントであった。
「……よしなさい、クラウド……そんなものの言い方をするのは……」
「だって……だって、ヴィンセント、こいつらがァァ!」
「大声を出してはいけない……この子が目を覚ましてしまう」
ヴィンセントはふところに抱いた赤子を、さらに抱え込むようにしてそうつぶやいた。
憎たらしいことに、さんざん泣きわめいていたチョコボヘアの赤子は、家に着いてヴィンセントが相手をすると、すぐに落ち着き、キャッキャッと笑顔まで見せやがった。
赤毛野郎に連れ回されて疲れていたのか、そのままヴィンセントの腕の中で眠りこんでいるのだ。
「だーかーら、いい!? とにかく俺とそのガキは無関係ッ! ヴィンセントにつまんないこと吹き込むな!」
俺はあらためてふたりに釘を刺したのであった。
「わかってるよォ。冗談に決まってるじゃない。兄さん、結局人がいいもんね。もし自分の子どもだったら、見て見ぬふりなんてできないだろうしさァ」
「そこまでわかってんなら……」
「でもさァ、あんまりタイミングいいんだもん。ついついからかいたくもなるじゃない?しっかしまぁ、次から次へとやっかいごと引き受けてくるよねェ」
「まったくだ。てめェの始末もつけられないくせに……」
ヤズー、セフィロスの順に、ため息混じりにそう吐き出す。
……そこを突かれると痛いところだ。
「うッ……し、仕方ないだろッ! 今回のは完全に不可抗力だぞ! たまたま買い物に行った場所に、レノが来合わせて押しつけられたんだからッ!」
「だいたい、タークスが何故ガキ連れで動いてんだ? あいつら託児所でも始めたのか?」
へらへらと笑いながら、バカにしたようにセフィロスが言う。
「そんなこと知るかよ。俺、もう神羅の社員じゃないんだから! メーワク掛けられてるだけなんだからね!」
「オマエとレノの野郎のガキじゃないだろーな」
「キショッ! 気色悪いッ! やめてよ、冗談でもそういうのッ!」
俺は両腕で自分の身体を抱きしめ、ぶるぶると身震いして見せた。
「えー、レノってあの赤毛くんでしょ? けっこういい男じゃない。俺、けっこう好きだけどォ?」
直接バトルをしたヤズーがそんなことを言い出す。
「やめてよッ! 俺とヤズーの好みは違うのッ! 俺が好きなのはヴィンセントッ!」
「わかってるってば、そんなこと。……赤毛くんねェ。ちぇっ、残念、お買い物ついていったのが俺だったらなァ。会えたかもしれないのにィ」
「バカ言ってんな、大騒ぎになる!」
俺は慌ててそう叫んだ。
ヤズーやカダージュ、それにロッズがこうして俺と一緒に生活していることは、もちろん誰にも秘密だ。ティファやシドなど、仲間たちにだって言えやしない。ましてや神羅の連中になど……セフィロスまでも一緒にいるなどと知ったら、みんなひっくり返るんじゃなかろうか?
「やだなぁ、冗談だよ、冗談」
「……ふふ、だが……もしおまえが子を設けたとしたら……こんな赤子ができるのかもしれないな…… やわらかで美しい金の髪に、海の色の瞳…… 本当に可愛らしい……」
困惑したような笑みを浮かべ、ヴィンセントが子どもをあやしつつそんなことを言う。どこまでもお人好しのヴィンセント。
「えー、俺の子どもは黒髪でうさぎみたいな目の子がいい! 女の子ならお嫁に出さないッ!」
「ク、クラウド……」
「ヴィンセントと俺の子だったら、半々かもね! 金髪で紅い瞳もすっごく可愛いと思うよ〜。俺、子育て協力するもんね。仕事してても出来る限りのことする! おしめも取り替えるし、おんぶも抱っこもお風呂にも入れてあげるッ! もうホント、パパ、なんでもするッ! 名前、どうしようかな〜。クリスティーヌとかどぉ? アリスもいいなぁ。そーゆー女の子っぽい名前がいい!」
「ク、クラウド……や、やめないか……」
「クソガキ、このボケが! おまえもヴィンセントも野郎だろーが。いいかげん、夢の世界から帰ってこい」
冷ややかなセフィロスのセリフで、甘い夢見から引き戻される。さすがにちょっとばかり恥ずかしい。
「わ、わかってるよ。ちょっと冗談言っただけじゃんか……」
ボソボソと口の中で言い訳していると、さきほどまで穏やかに眠っていたチビ助が、グズグズと目を覚ました。