ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
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 KHセフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 うっすらと目を開けると、見知らぬ場所に私は身を横たえていた。

 さきほどのホテルとまではいかないが、充分な広さのある円筒形のオープンルームだ。そのままテラスに続くところを見ると、きっとサンルームなのだろう。だが今は明るい太陽の光ではなく、月明かりがカーテンを透かして淡く揺れていた。
 その部屋の中央に寝台が置かれ、記憶の途切れている間、ずっと横になっていたらしい。

「あ……目、覚めた?」

 傍らの男がつぶやいた。

 視界が徐々に開けてくると、私の周囲を幾人かの者どもが取り囲んでいることに気が付いた。

 数刻前に見知った顔がある……声を掛けてきたのは、私とよく似た銀の長い髪をもつ青年であった。女性のように造形のなめらかな整った面差し……確か『ヤズー』と呼ばれていたはずだ。

 それからゆっくりと視線を巡らせると、ホテルでクラウドと一緒にいた男……あの子の恋人の『ヴィンセント』もそこにいた。

 

「……『セフィロス』? 『セフィロス』? よかった目を覚ましてくれて……! 今、医者がこちらに向かっているから……! どうか気をしっかりと持って……」

 そう言いながら、『ヴィンセント』はボロボロと涙をこぼし始めた。彼は本当によく泣く人間だ。

「…………」

「出血は落ち着いているからね。肩……強く縛ったから。ゴメンね、苦しいでしょう? もう少しだけ我慢して」

 何か応えようかと思ったが、口を開くのがひどく億劫だった。発熱のせいだろう。喉がカラカラで冷たい水が欲しかった。

 ヴィンセントが額に乗せたタオルを取り替えてくれる。氷で冷やしたそれはたいそう心地がよかった。

 息を吐くと同時に、『水』と言ってみた。あいにくそれは音にならなかったが、黒髪の男が理解してくれたらしく、すぐに立ち上がり、水差しと氷を持ってくる。

「『セフィロス』、水を持ってきた。待ってくれ、今背もたれにクッションを……」

「カダ、『セフィロス』の身体を持ち上げるのを手伝ってくれ」

 ヤズーという青年がそういうと、柱の影から、オドオドと少年がひとり出てきた。さきほどからずっと側に控えていたようだったが、気が付かなかった。

 きっとこの少年は『ヤズー』の弟なのだろう。やや小柄で、面差しも幼い。同じような銀の髪を、頬にそって短く切り揃えていた。

「ヤ、ヤズー、どうすればいいの?」

「カダは向こう側、怪我していないほうから、手を添えて。俺が反対に回るから。乱暴にしないように気を付けて。そっとね」

「う、うん、わかった」

「よし、いくよ!せーの!」

 やれやれ、大げさなことこの上ない。見ず知らずの私相手によくもやるものだ。

 確かに血が多く流れ過ぎたせいで、すぐに立ち上がるのは厄介だったが、ベッドの上で身を持ち上げるくらいのことは今の私にだってできよう。

 そう考え、自力で背を起こそうとした。

 一瞬、ズキン!と片腕に痛みが走る。ずっと前から感覚がなくなっていたのに。

「…………ッ」

「ちょっと、『セフィロス』! ダメだよ、力入れちゃ!」

「そ、そうだよ、ちゃんと僕たち、支えてるから……楽にしてなよ」

 年長の者は強い口調でそう言ったが、少年のほうは、いかにもおずおずとためらいがちに苦言した。

 やわらかなクッションに背を預け、ふぅと吐息すると、痛みが引いて行く。刺激さえなければ、もはや痛覚も鈍っているのだろう。

「『セフィロス』、水を……」

「大丈夫? 俺、飲ませてやろうか?」

 ヤズーがそういうのに、首を振り片手でグラスを受け取ろうとするが、指先が震えて話しにならなかった。極度の貧血状態で感覚がなくなっているのだ。

 あまりの情けない有様に、私は愕然とした。

「……ふ……みじめなものだな……」

 散々、あちらの『クラウド』を嬲った言葉で、おのれの醜態を自嘲した。

「バカなことを言うものではない……! 君は私たちの恩人ではないか! 惨めで情けないのは私の方だ。何の罪もない君にこんな傷を負わせて……!」

「ふふ……もうひとりの『クラウド』から聞いてはおらんのか……? 私の罪状は数えきれぬくらいあるはずだ。ヴィンセント・ヴァレンタイン……」

 長く話すと、ハァハァと息が弾む。それに気付かれるのが嫌で、私はぐっと喉に力を入れた。

「君は……君は罪人などではない。自分のことをそんなふうに言わないでくれ……! さぁ、私が支えているから水を……」

 ヴィンセントが、口元にグラスを運んでくれた。もはや抗うつもりもなかった。実際、その余裕もないほどに喉が渇いていたのだ。

「……美味しい」

 喉が潤う心地よさに、正直な言葉が口をついた。

「よければ、もっと……」

「ああ……」

 すすめられるままに、二杯目を飲み干し、ようやく人心地ついたような気分になった。

 

 

 

 

「みんなッ! セフィロス戻ってきたよ! ヤマダー、来た!」

 そう言って飛び込んできたのは、これまた銀髪の青年であった。年の頃はヤズーとほぼ変わらぬ程度だろう。だが、彼とは対照的に隆とした筋肉を持つ巨躯の大男であった。ヤズーはほっそりとした麗人で、まるで女性のような容貌をしているのだ。

「ロッズ! 早くここへ呼べ。腕でも引っ張ってこい!」

「わかったよッ!」

「カダージュは、ボウルにお湯を張っておいてくれ。それから氷が足らなくならないか、見て置いてくれるか」

「うんッ! ……『セフィロス』、しっかりね。すぐ痛くなくなるからねッ」

 『カダージュ』と呼ばれた少年は、部屋を出る間際に、こちらを向いて必死の面もちでそう言ってくれた。気付かぬ振りでやり過ごしてもよかったが、手を借りた手前、私は小さく頷き返した。少年の頬がポッと紅くなる。

 ……まったくもって、この家の住人はお人好しばかりだ。さすが、『あのクラウド』の家人だといえよう。……呆れることだ……