嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜ん! ヴィンセントーッ!」

「うあぁぁん! ヴィンセントォォ!」

 ……ヤズーに宥められるものの、大げさなまでに泣きじゃくるカダージュ&ロッズ。

「おえッ……おえッ……おえぇぇぇぇん!!」

「うえッ……うえッ……うえぇぇぇん!!」

 いいかげんにしてくれ、泣きたいのは俺のほうだ!

 

「ねぇッ、ねぇッ! どうしてヴィンセント出ていったの? 僕たちのことキライになっちゃったのッ?」

「カ、カダージュ……そうじゃない。きっとなにか事情があるんだ」

 最愛の弟が泣いているのはさすがに堪えるのだろう。噛んで含めるように言い聞かせるヤズー。

「事情? 事情ってなに? ねぇ、兄さん! どうしてヴィンセント出て行っちゃったの?」

「……俺にだってわかんないよっ!教えて欲しいくらいだよ!」

 俺は怒鳴り返した。十分、八つ当たりだという自覚はありながらも。

「だって、兄さん、ヴィンセントの『一番大切な人』なんでしょッ? どうして知らないのよッ!」

「よしなさい、カダ」

「ヤズーだって、ヴィンセントと仲良くしてたじゃんッ! ヴィンセント居なくなっても平気なのッ? ねぇ、平気なの?」

「そうじゃない……だが……」

 なおも言い募るカダージュに、ヤズーが返答に窮したときだった。

 口を挟んだのは、セフィロスである。

 

「ったくピーピーうるさいな、ガキども!」

「セフィロス……」

 カダージュとロッズが泣き止む。

 セフィロスの低い声は、それほど大きなわけでもないのに、人の注意を引くのだ。

「ガキとはいえ、男がギャアギャアと……」

「だって、ヴィンセントが……!」

 身を乗り出すように叫ぶカダージュを、彼の重い声が遮った。

 

「出ていったヤツのことを、こんな場所で言い合っていても理由などわからんだろう。当事者がいないのだからな」

 ラックに読み終えた新聞を放り込んで、溜め息混じりにそう言い放つ。

「しかし、まぁ、あのクソ真面目なお人好し野郎が、あんな出て行き方をするんだ。なんらかの事情があるんだろうな」

「うん、俺もセフィロスのいうとおりだと思うよ」

 ヤズーも同意を示す。

「……その、本当に永久的にここから居なくなるつもりなら、あの人はきちんと理由を言うと思う。それに、まともな挨拶ひとつなかったんだ。……ヴィンセントの性格上、ちょっと考えにくい」

「それじゃあ、ちょっとお出かけ、ってだけなの? ヴィンセント帰ってくるの?」

 覆い被せるように尋ねるカダージュ。

「うん、いついつって約束はできないけど、俺たちと一緒にいるのが嫌になって出ていったわけではないよ。本当にお別れなら、カダたちにだって挨拶くらいしていくはずだろう? 敢えておまえたちが部屋に居なかったときに姿を消したのは、追求されたくなかったからだろう。……やっぱり理由があるんだよ」

「……でも、ヴィンセントが出ていったのは事実だし、仮に理由があったとしても、俺は聞かされてないから」

 平坦な口調で俺はつぶやいた。

「兄さん……」

「フン、おまえに言いにくいことだったのではないか? ……もしかして、またアイツの嫌がるような真似をしたんじゃないだろうな」

「してないもん! そんなこと!」

「どうだかな。ガキは忘れっぽいからな。すぐに目先の楽しみに向かって突っ走るだろ、おまえは特にその傾向が強い」

「そんなことないったら……ちゃんとヴィンセントの気持ち考えてるよ! 嫌がるようなことはしてない! 昨日だって普通に……」

 咳き込んでセフィロスに言い返す俺。

 

「普通に……だよ。別に無理になんて……」

「ほぅ、普通にねぇ。おまえにとっちゃフツーでも、あの恥ずかしがり屋の生真面目ヤロウには、羞恥プレイも同然ってコトだって考え得るぞ」

「セフィッ! 俺のこと何だと思ってんの!? この俺がそんなヘンタイ野郎に見えるっつーのかよッ!」

「よく言うではないか。おまえがこれまでしてきたことを思い出してみろ」

「な、なんだよ、ソレッ! 俺は……別に……」                           

 セフィロスに指摘されたからというわけではないが、これまでの失態が走馬燈のように脳裏を駆けめぐる。

 

 ……セフィロスと入れ替わったヴィンセントの身体を無理やり……しようとしたこともあったっけ……

 ……ああ、いつぞやは『ヴィン』が寝室に居るとき、嫌がっていたのに最期までしちゃったっけか……あろうかことか……猫を使って到底口にはできないような真似を……

 

 ……一緒に寝ていても、あまりソレをしたがらないヴィンセント。

 ただ恥ずかしがっているだけかと思っていたけど……もしかして、本当に嫌だったのかも。よく女の子で、セックスするより、手を繋いで一緒に眠るほうがずっと嬉しいって言い方をする子がいる。

 ……もしかして、ヴィンセントもそうだったのかもしれない。

 あたりまえの男性より、遙かに感受性が強くて、優しくて……想いの深い人だから。

 

「フン、なんてツラをしている」

 セフィロスの言葉で、俺は物思いから我に返った。

「……ヴィンセント、ホントに嫌だったのかな……」

「はァ?」

「ふたりっきりで、そーいう雰囲気になっても、大体俺の方から……誘ってってパターンばっかでさ」

 俺たちの話が際どいほうへ行きかけたせいか、ようやく納得しつつあるカダージュたちを、ヤズーが追い立てるようにサンルームへ連れてゆく。

 

 居間には俺とセフィロスが取り残された。

「ヴィンセント……俺のこと……本当に好きだったわけじゃ……」

 言いかけた瞬間、後頭部を音が出るような勢いで殴られた。

 ゴッという鈍い音が、耳元に響く。

「痛〜っ! なにすんだよ、セフィ!」

「このボケナスが! まったく成長しとらんな、クソガキ!」

「なにがだよ! なんでこんなヒドイ目に遭ってる俺のこと殴んのッ!」

 そういうと、今度は額の真ん中を中指で弾かれた。いわゆるデコピンというヤツだ。

「イテーッ! バチッって言ったーッ! それホントに痛いんだぞ、バカセフィーッ!」

「黙れ、クソガキ」

 その物言いがあまりにも軽蔑に満ちていたので、俺は額を押さえつつ、整った白い顔を見上げる。

 

「……おまえはあの男のことをどれだけ知っている?」

「し、知ってるよ!少なくともアンタなんかよりは遙かに知ってるもん! 好きな食べ物や仕草のクセとかだってわかってるし……か、過去のことも……聞いてるもの」

「ほう。あいつの事情はすべて既知だということなのだな」

「……ヤズーたちの耳には入れたくないから……普段は絶対しゃべらないけど」

「おまえにしては上等の気配りだな」

 バカにしたようなセフィロスの物言い。

「だがアイツの必死に隠している事情も、おまえだけは聞いているということだ」

「あたりまえだろ。……って、なんでセフィが知ってんだよ、そんなことッ!」

「フン、俺にわからないことなどあるか、ボケ」

 偉そうに宣うセフィロスであった。

 

「そこまで知ってて、あのヤロウの行動パターンが読めないのか、クソガキ」

「……行動パターン?」

「イロケムシも言ってただろ」

「なに……? 口にしにくい事情があるとかいう……アレ?」

「アイツがああいった行動をとるのに、他にどんなワケがある」

「じゃあ、その事情ってなんだよ!」

 逆ギレして、俺はセフィロスを怒鳴りつけた。

「言えない事情ってなんだっていうの? 俺、ヴィンセントの恋人なんだよ?一番大切な人間のはずでしょ? その俺に言えないことって何なんだよッ!何だって言うんだよッ!」

「もういい。話をするだけ無駄だな」

 ひょいと片手を上げ、セフィロスはソファから腰を上げた。

「一番想っている相手だからこそ、避けたい事柄もあるのだと知れ、ガキ」

 それだけ言い捨てると、さっさと部屋を出て行くセフィロスであった。