嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

『え、ええと……その、セフィロス……だろうか? あ、や、夜分に失敬、こちらは、その……ヴィンセントだ』

 すっとぼけたような物言いは明らかにアイツのものだ。

 そう言えば、あのとき、オレの携帯番号を教えてやったことを完全に失念していた。

 

『セ、セフィロス……? その、すまない……わ、私の勝手で、迷惑を……かけて……』

「ああ、まったくだ。ガキどもにひどく煩わされている。……さっさと事情を話せ。素直に言えば緊縛プレイくらいで許してやる」

 冗談半分本気半分でそう告げたオレに、ヤツはおずおずと口を開いた……

 

 

 

 

『……そのコスタデルソルでは……まだ話題になってはいないと思うのだが……』

 ボソボソと言葉を紡ぐヴィンセント。

「前置きはいい。とっとと本題に入れ」

『あ、ああ。あの……君はDG……ディープグラウンドソルジャーという名を聞いたことがあるだろうか?』

「…………」

『神羅の総帥がプレジデントであった頃の計画なのだが……』

「…………」

『セフィロス……?』

 不審そうなヤツの声音で、自分が黙りこくっていたことに気付く。

 

<ディープグラウンドソルジャー>

 今さら、そんな名前を耳にするとは。

 ……それとヴィンセントの失踪が関わっているというのだろうか。

 

 いや、そもそもプレジデントが呪われた計画を押し進めていたのは大分前のことだ。それだとて、あまりに非倫理的で危険が伴うということ、そしてコスト的な問題で頓挫していたはずである。実際、ヤツが死に、ルーファウス神羅が誕生した後は、計画自体がなくなったものと認識していた。

 ……いや、もっともオレはそんなことにかかずらっているような状況にはなかったわけだが。

 

「……名前くらいは聞いたことがある」

 ずいぶんと間を空けて、オレはヴィンセントに答えた。そして続けざまに問う。

「一昨日辺りの新聞に、カームの事件が載っていた。もっともこっちのローカル紙だからほんの小さな記事だが。……『異様な風体の兵士』というのはDGのことなのか?」

『その通りだ……君は本当にさすがだ』

 即座にヴィンセントは認めた。おかしな誉め言葉をつけて。

「……こちらの新聞ではごく小さな記事だ。テロのひとつという認識のようだな」

『……実状はまったく異なっている』

「そうだろうな。本当にヤツらがDGならば、そこらの反乱分子のテロとはわけが違う」

『WROでもかなりの人数がやられている。……ありふれたテロリスト相手の死傷者の数ではない』

「フン。おまえがヤツらをDGだというなら、その通りなんだろうよ。だが何故に今頃、そんなヤツらが沸いて出るんだ?」        

『…………』

「だいたい、連中は今までどこに居たというんだ? こちらの預かり知らない場所なのか?」

『……それは……その……』

 言い淀むヴィンセント。困惑している様子が、携帯電話を通してでも伝わってくる。

「どうした?」

『……その……君が知る必要はないと思う』

 ボソボソとヴィンセントはつぶやいた。 

 ……何なんだ、その言いぐさは……いや、不可解な物言いだ。

「オレが知る必要はない……? どういうことだ、それは」

 剣呑な空気を感じ取ったのだろう。なんとか言葉を付け加えようとするヴィンセント。
 
『い、いや……その……聞けば不快になるのではないかと……』

「今さらだろう。さっさと言え」

『…………』

「早く言え」                                                

『……三年前のメテオ災害の折り……地下深くに閉じこめられたソルジャーたちがいる』

「メテオ災害……ね」

 言わずもがな、このオレ様が元凶だ。その自覚はあるし、後悔さえしていない。

『セフィロス……?』

「続けろ」

『……彼らはもともとプレジデントの計画の対象だった者たちなのだ。その段階で既に一般の兵士たちより、遙かに強い魔晄を浴び、強靱な人体と精神を有していた……彼らが地下に閉じこめられたDGソルジャーと呼ばれるようになった』

「そいつらが何らかのきっかけで地上に這い出てきたというわけだな」

『ああ』

「……それで? オレが訊きたいのは貴様の状況だ。今、どこに居て、なにをしている?」
 
『……あ、あの……お、怒ってる……のだろうか?』

 オレの厳しい声音に、いかにも怖々とヤツは訊ねた。