嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「……おはよ〜……」

 翌朝、死にそうなツラをして、クラウドが居間にあらわれた。 

 もっとも、ここ数日、似たような死に顔ばかりなわけだが。

「おはよ、兄さん。ゴハンできてるよ、もう食べる」

「うん……」

「お休みの日くらい、もうちょっと寝ててもかまわないのに」

 イロケムシにしては生やさしいことを言ってやがる。それだけクラウドの心痛に配慮しているのだろうが。

「ん……なんか、目覚めちゃったから……」

「そう。じゃ、座って。ほら、セフィロスも」

 ヤツに促されるままにメシを食う。

 クラウドは少しばかりやつれたように見えた。ヴィンセントが出て行ってから十日あまりになる。そろそろ限界なのであろう。

 

「おい、ガキ。たまには新聞くらい読んだらどうだ」

 クラウドに声をかける。

「……新聞〜……?」

「もう、ご飯済んでからにして、セフィロス」

 綺麗な柳眉を顰めるヤズー。

「わかったわかった。おい、イロケムシ、貴様も無駄にフェロモン垂れ流してないで、ニュースくらい頭に入れとけよ。いい年した男が世情に疎いとみっともないぞ」

「お生憎さま、俺は新聞、ニュース、ざっと目を通してるよ。オジサンとの話題にも、女の子とのおしゃべりの種にも事欠かないけど?」

「ケッ、だから貴様はイロケムシだと言うんだ」

 

 チビガキどもがさっさと食い終え、ヤズーにデザートをねだる。

 二杯めも食わずに箸をおくクラウド。ヤズーとオレも食事を済ませた。

 

 オレはツカツカと居間に向かい、ガラステーブルのラックから新聞を取りだした。

「……セフィロス?」

 不審げな面もちのヤズーとクラウドを無視し、食卓の中央にバサリと投げ出す。

「何だよ、なんか気になること、載ってるの?」

 興味なさげにつぶやくクラウド。今のこいつの頭の中にはヴィンセントしかいないのだろう。

「なに、コレ。日付、一昨日のじゃない」

 ヤズーが不思議そうにそれを手に取った。 

「僕、4コマしか読んでないや」

「だからカダージュはダメなんだよ!」

「うるさい、ロッズになんかそんなこと言われたくない!」

「なにをッ!」

「ああ、もう、ほらほらうるさいぞ、ふたりとも。セフィロスに怒られてもしらないからな」

 と、ヤズー。

 オレがジロリとにらみつけると、ガキふたりは静かになった。 

 

「……これ……」

 ハッとしたように目を瞠り、深刻な面もちになるイロケムシ。やはり察しの良さはコイツが一番だ。

「……読み落としてたのかな。あまり興味ないようなことだったし」

 形の良い唇に指を押し当て、小さくつぶやいた。

「なぁに、どうしたの、ヤズー?」

「僕、この日のマンガ読んでない」

「ああ、ちょっとふたりとも、おとなしくしていなさい。……兄さん、ほら」

 隣の席で頬杖をしたまま惚けているクラウドに、声をかけるイロケムシ。オレはなにも言わずに状況を見守る。

「兄さんってば、この記事、見て!」

「なんだよ〜……もう俺、ヴィンセントの顔以外見たくないよ〜……」

 ヘタレぶりをあからさまに露呈し、クラウドはグズグズと文句を言う。

「そのヴィンセントに関係あるかもしれないんだよッ! ね、セフィロス!」

「ヴィンセント?ヴィンセントに関係してるって? 何それッ どれだよッ! ね、どの記事ッ?」

 いきなり立ち上がり、新聞を奪い取るような勢いでひっつかむクラウド。

 

「ちょっ……破けちゃうよ、落ち着いて兄さん。これ、ほら……コレだよ!」

『カームで小規模テロ……? カーニバルのさなか、住民数名消える……?』

 声に出して読む、クラウド。

 一応、カダージュとロッズも、まじめな顔をして聞いている。ガキの集中力には限界がある。早く本題に気づけ、ボケ・クラウド!

「あ〜……カーム……カームの宿で……一緒の部屋、泊まったなァ……その後、パレード見に行ってさァ……あの頃は、まだコスタデルソルに来るって言ってくれなくてさ……俺、すごい一生懸命……」

 ゴッ!

 と、クラウドの後頭部を殴ってやった。

 こいつは本当に元・ソルジャーだのと宣っていたのか。昨日今日入社してきた新入りじゃあるまいし!

「痛って〜ッ! 何すんの、セフィ! ひどいなぁ、もうッ!」

「兄さん、ちょっと貸してよ。ほら、ちゃんと見て!……これ、普通の記事じゃないよ……」

 オレに食って掛かるクラウドの手から新聞を奪い取り、神妙な口調でヤズーはつぶやいた。

「……テロ……なんだか変な感じ。だいたい何でわざわざ住民を攫っていく必要があるんだよ」

「単に行方不明って話じゃないのか? 『カーニバルのさなか』って書いてあるし、きっと混乱に巻き込まれたんだよ。気の毒な話だよな」

 注意力の欠如したクラウドのガキは、いともたやすくそう宣った。本当に心の底から使えないガキだ。

「写真、ちゃんと見てってば。ちっちゃいけどね。こんな風体のテロリストって……だいたいカームなんて小さな街でテロしてどうすんのよ」

「知るかよ。俺、テロリストじゃないもん」

 ムッと頬を膨らませるクラウド。

 

「ねぇ、セフィロス。この記事のことでしょ。これを俺たちに見せたかったんだよね?」

 クラウド相手では埒があかないと判断したのか、オレに直接訊ねるヤズー。性格の悪いクソ・イロケムシだが、この鋭敏さは称賛に値する。

「セフィロス、この写真……ほら、ここらに載っている人間達……彼らは何なの? ……普通の人間じゃないよね」

「……なんだと思う?」

「わからないから聞いてるんじゃない。ただ普通の人間じゃないってことだけはわかるよ。……外見だけでもこの異様さ……なんだか気味が悪いくらいだよ」

「……やつらはDG。……ディープグラウンドソルジャー」

 オレはようやく、昨夜聞いた名を答えた。もちろん、三兄弟は知らないだろうし、神羅でも下っ端兵士だったクラウドは、耳にしたことなどないだろう。

「ディープグラウンドソルジャー……?」

 一番小さなチビガキが、不気味そうにオレの言葉をなぞった。

「まぁ、神羅兵であるということは間違いないな」

「うそ。俺、知らないよ、こんなヤツら」

 クラウドが言った。

「オレも直接『見る』のは初めてだ」

「どういうことだよ、セフィ」

「……言葉通りだ。だいたいヤツらの存在は神羅上層部でもトップシークレットだったはずだ。下っ端のおまえは知るはずがないだろうな」

 フンと鼻で笑い、そう言ってやる。

「……ヤな奴。で、その元・神羅兵……ええと、ディープグラウンドソルジャーだっけ? それがどうしてテロすんの?」

「だからおまえはいつまでも下っ端なんだ、ボケ」

「兄さん、これ、記事の方が間違ってるんだよ。消えた人たちっていうのも、混乱に巻き込まれたんじゃなくて、人々をさらうために暴動を引き起こしたって考えたらどう?」

「ほぅ、どうやら色気だけじゃないな、ロン毛野郎」

「失礼な人だね、セフィロス。……って、ことは、やっぱり、ただのテロなんかじゃないってことだよね。それで、このディープグラウンドソルジャーっていうのは? こいつらとヴィンセントとどんな関係があるの?」

 まったくもって明敏なヤロウだ。むかつくがこいつのこの察しの良さは小気味がいいほどである。

「ヴィンセント? ヴィンセントだって? なに、どこどこ? どこにヴィンセントが載ってるの?」

 対照的に愚鈍なクラウド。まぁ、この使えないところも側に置いておくには、可愛らしくてちょうどよかったのだが。あまりに頭の回る野郎は落ち着かないのだ。

「そういうことじゃないよ。ねぇ、セフィロス、DGソルジャーっていうのは?ヴィンセントの関係は?」

「……DGソルジャーは、さきほども言ったが、元・神羅兵だ。魔晄の力により、潜在能力を強引に引き出した、特殊なソルジャー……。ヤツらは、この三年間、地下に閉じこめられていた」

「……閉じこめられて?」

 オレの言葉をヤズーが繰り返す。

「そうだ。理由はともかくそいつらが、地獄から這いずり上がってきて、街を襲っているわけだ」

「ねぇッ! それとヴィンセントとどんな関係があるんだよッ! はやく言ってよ、セフィッ!」 

「……あ〜あ……、残念なことだ……『クラウドに知られてしまったな』」

 おおげさな手振りを交えて、オレはわざとらしくつぶやいた。