嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「できればクラウドに知られたくはなかったのだが……『うっかり』、テーブルの上に新聞を放置していたばかりに気づかれてしまった。まぁ、オレのせいじゃないがな。勝手に気づくヤツが悪い」

 ……クラウドに伏せるつもりではいたが、このガキが気づいたんだ。わざわざ指を突きつけて教えてやったわけではない。

「何言ってんの、セフィロス?さっき、セフィロスが置いて……」

「いいから、カダージュ。そうだね、たまたま置いてあった新聞を兄さんが見つけて、事件に気付いてしまったなら仕方ないよね。バレたのはセフィロスのせいじゃないでしょ」

 と、ヤズー。調子のいいことこの上ない。

「なになに、何なのよ、セフィロス!ヤズー!イライラするなァ!」

「いいから、黙って頷いといてよ、兄さん」

 

 『図らずもクラウドに真実がバレてしまった』ところで、オレは口を開いた。

 

「DGソルジャーの狙いはヴィンセントらしい」

 その言葉は、この場において、おそらくテポドン級の威力があったのだろう。

 さすがのイロケムシも、睫毛の長い双眸を瞠ったままだ。

 

「なに……それ……?」

 クラウドの声は掠れていた。まぁ、当然の反応だ。

 あまりにも唐突に家を出たヴィンセント。そしてメテオ災害で地下に閉じこめられた元・神羅兵。しかも、カームの住人をかっさらったDGソルジャーの狙いが、そのヴィンセントだという話だ。

 オレも昨夜耳にしたときは、すぐに合点がいかなかったくらいだ。

 にわかには理解しがたい話だろう。

 

「なに……それ……? ね、何なの、セフィ……? ヴィンセントが……ヴィンセントがどうして……?」

「知るか」

 オレは無碍にもそう言い放った。

「セフィ! DGソルジャーの狙いはヴィンセントだって言ったじゃん! アンタがなんでそんなこと知ってんのッ? どうしてヴィンセントが……!」

「騒ぐなクソガキ。やつらの狙いがヴィンセントだというのはその通りだ。だが何故あの男が狙われるのかという理由までは知らん」

 三兄弟の手前、カオス云々の、昔話をするわけにはいかなかった。あいつは身体の秘密を『誰にも知られたくない』と言っていたのだから。

「……ヴィンセントから連絡、あったの?」

 落ち着いた声で訊ねたのはイロケムシだ。本当にコイツは察しがいい。

 

「……あった」

「ウソッ!どうして? なんで言ってくれないんだよ、セフィ! そ、それよりどうして俺のこと無視してセフィロスに……」

「おまえという奴が、そういう野郎だからに決まっているだろう、ボケナスがッ!」

 いささか強い口調で一喝すると、クラウドはうっと押し黙った。ガキふたりがビクリと身震いする。

「ヴィンセントの立場になって考えてみやがれ、クソガキ! 後先考えず、おまえはすぐにそうやって浮き足立つだろうッ?」

「だって……でも……ヴィンセントは俺の恋人なんだよッ? 一番大事な人のことなんだから、慌てるのはあたりまえじゃんかッ!」

「そのとおりだ。自分のことを誰よりも大切に想ってくれているおまえにだけは、知られたくなかったのだろう」

「どうしてよッ! おかしいじゃんか!」

「……おまえを守るためだ」

「なんだよ、それッ!」

「兄さん……!」

 ガターンと椅子を蹴り倒したクラウドを、イロケムシが諫めた。

 

「一番大切なおまえを危険にさらしたくなかった。……だからこそヴィンセントは何も言わずに姿を消したんだ」

「……なんだよ……それ……」

 同じ言葉を繰り返すクラウド。だが、今のつぶやきは苦渋に満ちている。ヴィンセントの胸奥を思いやっているのだろう。

「……相手はDGソルジャーだ。ハンパな連中とはワケが違う。元・タークスでWROと付き合いのあるアイツは、いち早くその存在に気付いたんだろう。そして何かの拍子に、ヤツらの真の目的がおのれだと知った。……コスタデルソルに居たままなら、オレたちを巻き込むと……そう考えたのだろうな」

「……ヴィンセント……」

 ヤズーが溜め息混じりに奴の名をつぶやいた。

 

「フン、あいつがこの場所に居たら、そこの新聞記事の写真は、コスタデルソルだったかもしれんな」

「そんなこと……! だからって何でヴィンセントが……」

 ふたたび食ってかかろうとするクラウド。

「あのお人好しのことだ。少なくともこの家の人間たちに被害が及ぶのを避けたんだろう」

「どうして相談してくれなかったんだよ……なんで……俺……ヴィンセントのためなら、何とだって闘うのに……絶対あきらめないのに……ッ」

「……そんな兄さんを守りたかったからこそ、黙って身を隠したんだよ。……セフィロスがそう言ったでしょう」

「そんなの了承できるかよ!勝手じゃんかよッ!俺の気持ち……俺たちの気持ち……なんにも聞かないで……!! ひどいよ、ヴィンセント!」

 ギリギリと歯を食いしばり、クラウドは大粒の涙をこぼした。ガキどもふたりがヒックヒックと息を継ぎ、もらい泣きをし始める。

 

「……まったくだ。おまえの言うとおりだな、クラウド」

 オレはクッと口角を持ち上げて嘲笑した。

「セフィロス……?」

 不審な面もちでオレを見るイロケムシ。ガキどもも揃ってこちらを見つめる。

 

「……この記事に気付いたのは、たまたまテーブルの上に置いてあったからだ。そして例の事件が普通のテロじゃないというのは、写真からも見当が付く。……そしてヴィンセントの失踪が重なった」

 オレはこれまでの流れを概括して話した。

 感心にもガキどもは大人しく聞いている。

「……これが偶然であるわけはない。おまけに兵士どもの異様な風体……DGソルジャーだと、神羅に居た人間なら気付くだろう。なぁ、クラウド」

「だって下っ端は……」

「おまえは気付いたんだ。そういうことにしておけ。大義名分が立たん」

「……え?」

「オレはあいつを約束の地へ連れていくつもりだ。こんなつまらんことで死なれるのは不本意だ」

「あ、あたりまえだろッ! 約束の地……とかそういうのはともかくとして、ヴィンセントをこのまま放っておけるかよッ! 俺の一番大切な人なんだからなッ!」

 いきり立つクラウド。

「俺も同感。ヴィンセントのことは大好きだし、必要な人だから。……もちろん、この家にとってもね」

 両手を広げて優雅に宣うイロケムシ。

「ヴィンセント、おうちに帰ってきてもらおう!みんなで迎えに行こうよ!」

「行こう行こう!」

「ディープ……なんとかっていうヤツ、倒しちゃおう! ね、ヤズー!」

「倒しちゃおう、倒しちゃおう!」

 ガキどもも声を揃えた。

 

「……利害が一致したようだな」

 オレの言葉に野郎どもが一斉にこちらを見る。

「DG連中を一掃し、その親玉をぶっ潰す。そしてヴィンセントをこの家に連れ戻し……まぁ、その後はオレ様のお楽しみだな」

「ちょっ……なに、何言ってくれてんの、それェェェ! ヴィンセントは俺のだからな!不穏な発言するなッ!」

「まぁまぁ兄さん、いずれにせよ、皆でヴィンセントを連れ戻そう。ぶっちゃけ、DGとやらがどれほど強くても、俺たち5人とタイマン張れるヤツは少ないと思うよ」

「……フン、言うではないか、イロケムシ。だがな、DGを……甘く見るなよ。連中はオレ様の失敗作程度の強さはゆうにあるはずだぞ」

「失敗作は失敗作でしょ。本物にはかなわないよ、ねぇ、セフィロス?」

 強烈な流し目をよこしつつ、艶やかにヤズーがささやいた。場違いにも頬を染めているクラウドが滑稽だ。

 

「……言うまでもないな」

 オレは笑った。

 久々に本能が刺激される。

 そう……戦闘本能……この剣で敵を切り刻み、その血を浴びる……興奮が甦ってくる。

 

「……それじゃ、作戦会議だね、大将」

 ヤズーが笑った。

「さしずめ、お前は参謀長官と言ったところだな」

「ちょっ……なに言ってんのッ? ヴィンセントのことなんだから、俺が大将だろうがァァ!」

「下がってろ、下っ端」

 

 ……こうして、オレたちはヴィンセント奪取のための計画を練ったのだった……