嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<34>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  
 

 

 

 

 ……ああ、恐るべきオメガの力……私の肉体に宿るカオスの……対の力……

 その媒体となったヴァイス自身の能力も相当に高いのだろう。

 

 だが……今の攻撃は……?

 打撃……ではない……衝撃?

 何の武器もつけていない、掌から発光した衝撃が飛び出した。さきほど、ネロの肉体にとどめを刺したのもあれだった……

 

「くッ……」

 ぬるりとした血の感触。

 どこか切ったのだろうか……? それにしては痛みがない。

 ……いや、ショックのあまり、痛覚が鈍っているのかもしれない。

 なにしろ、あの勢いで吹き飛ばされたのだ。無傷のはずがない。

 

 ……早く起きあがらなければ。

 この吹き上がる粉塵が落ち着いたら、すぐに次の攻撃がくるはずだ。

 

 

 

 

「……クッ……」

 ギシギシと嫌な音を立て、軋む身体を持ち上げようとする。

 だが、思うようにいかない。

 身体の上に何か暖かな……重い物が追い被さっているのだ。

 

「…………?」

 そっとそれに触れてみる。

 ずるりと手が滑った。

 

 ……血だ……血が付いている

 ……手のひらに着いたこの血……

 

 白煙に包まれ、一寸先もぼやけている。

 霞む目を擦り、身の回りの瓦礫を押しのけると、出血している『モノ』が見えた……

 

「…………ッッ!」

 私はすぐさま声も出せず、息を飲み込んだ……

 

 長い……美しい銀の髪が不似合いな瓦礫の上に広がっている。その一部は私の身体の上に散らばっていた。

 

「……セ、セフィ……ロス……?」

 信じられないような気持ちで、私はつぶやいていた。

 悪夢を見ている心持ちで。

 息を繋ぐことさえ、忘れたように……

 致命傷に至らなかったのは、幸運だったと思っていた。とんでもない思い違いだ。間一髪、私は救われたのだ。またもや身をもって庇われたのであった……

 

 

「……セフィロス……?」

 彼に向かってさしのべる、私の指が滑稽なほどに震えている。

  

 ……セフィロス……

 ああ、セフィロス……!!

 

 あろうことか、彼は私を抱きしめるような格好で瓦礫の山に突っ伏していた。もう一方の腕の先にクラウドが倒れている。

 おそらくあの時……『ヴァイス』の掌が発光し、衝撃を放つと同時に、彼は私とクラウドをかばうような形で身を伏せたのだろう。

 そしてそのままの格好で、ここまで吹き飛ばされたのだ。

 横たわるクラウドを覗き込んでも、大きな傷は見あたらない。呼吸も正常だし、ただショックで気を失っているだけだ。

 

 私の手のひらを朱に染めた、生々しい鮮血は、うつ伏せになったセフィロスの背から流れ出したものだった。

 

「セフィロス……ッ! ああ、セフィロスッ! セフィロスーッ!」

 私は狂ったように彼の名を呼んだ。

 火事場のバカ力ではないが、必死に彼の身体を抱き上げ、背の傷に障らないよう身体を揺する。

 

 目を開けてくれ……頼むから……!!

 ああ、セフィロス……どうして君は、こんな私を捨て置いてはくれぬのだろう?

 君の母親を守ることも、君の心を救うことも、なにひとつできなかった私を……

 

 ……ああ、どうか……どうか……!!

 もし、神と呼ぶべき者がこの世にいるのなら、セフィロスを……セフィロスだけは助けてくれ。

 こんな私を生かすために、奪われていい命があるはずはないのだ。

 

 美しく雄々しく……そして優しい君。

 人として生まれた者なら万人が望むものすべてを有している君……

 そんな君がこの私などを守るために、傷つく様など見たくはないのに……!!

 

「セフィロス……ッ! ああ、セフィロス……ッ! たのむ……から……しっかり……」

 視界がぼやけて滲んでゆく。

 情けない私の涙腺は、こんなときにも関わらず相変わらず緊張感がないようだ。

 ボトボトと熱い固まりが、頬を伝い、顎からこぼれ落ちるのを感じていた。

 

 もうもうと立ち上った白煙が瓦礫に埋もれた我々をさらに覆い隠してくれているのか、続けざまに攻撃されることはなかった。

 どれほどそのままの姿勢で時間が経ったのだろう。

 一時間のようにも思えるし、一分も経っていない感じもした。