嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<36>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  

 

 

 ……セフィロス、 ああ、セフィロス……!

 なぜ、君はそんなにも……君が何を考えているのか、私にはわからない。

 君にとって宝条のこともDGのことも、どうでもいいことなのだろう?

 約束の地を見つけ出し、そこに楽園を築く……君はいつもそう言っているではないか。 ならば、私のことなど放っておいて、三人の思念体の青年達と、クラウドを連れて行けば、何の問題もないではないか……

 偶然、この土地で知り合った私のことなど、捨て置いてくれればいいのに……

 

 ……君からの……身には過ぎた恩恵を私は受け止めかねている。

 ただ、クラウドの側にいただけの私を、どうしてこんな風に守ってくれるのか……?

 わずかばかりの……共に過ごした時間の中で、君は私をどんなふうに思ってくれているのだろう?

 最初はひどく嫌われていると思っていた。またそれはあたりまえの反応だなとも感じていた。

 たぐいまれなる美貌の持ち主であるばかりか、明晰な頭脳と強靱な肉体……そして英雄の名に恥じない分析力、判断力……そして行動力。

 すべてのことがらに置いて、優れた資質をもつ君から見れば、なにひとつまともに出来ない私など、唾棄すべき対象なのだと思っていた。

 かつて君が愛したはずのクラウドが、私のような人間を相手にしているのはさぞかし不快に感じたことだろう。

 ……それにも関わらず、君は折りにつけ、私にひどく優しく接してくれる。

 キツイ物言いの裏に、深い思いやりを示してくれる。……それはこの身に秘められた呪われた因縁を知ってさえも変わりはしなかった。

 

 ……そして今もそうだ。

 こうして、私を救うために闘ってくれる。

 

 セフィロス……セフィロス……!

 大切な君……!!

 

 ルクレツィアに心を寄せたのも、こうして君と巡り会う運命の序曲に過ぎなかったのではないか……そう思わせるほどに、君は私の中でかけがえのない存在になっている。

 

 セフィロス……私は……君を……!! 

 君の……こと……を……!!

 

 

 

 

 ガッ……! キィィン! キンキン! ガッ!!

 

 セフィロスの長刀とヴァイスの曲剣がぶつかり合う。

 そのたびに白い火花が散り、瓦礫の山と化した一角を白く映し出した。

 

「クッ……! ハァハァッ!」

『さすがセフィロスだなァ! やはりおまえは強い……!』

「当然だ。オレはオレ……! 最強の戦士だ!!」

『クックックッ……わしをただの科学者だと思うなよ……!! わしこそ神だ!! 人体改造、魔晄研究……! そして今まさにオメガを手に入れ、カオスを……』

「黙れッ! クズ野郎……!! 貴様の汚らしい欲望のために、いったい何人を手に掛けた……! どれほどの想いを踏みにじってきた……!」

 セフィロスが叫んだ。カミソリのようなするどい声音で。

 それは慌てて後を追った私の耳にも届いた。

 

『ヒーッヒッヒッヒッ! 弱者が強者の餌食になるのは、歴史の必然……! 愚者が賢者に利用されるのはあたりまえのことなのだ!』

「そうだ……貴様のような卑怯な弱者が……愚者が葬られるのは必然のことだッ! このオレが引導を渡してやるッ!」

『ほざけ、セフィロスッ!』

 『ヴァイス』……いや、宝条が、巨大な曲剣を構えた。

 風を起こして、セフィロスに斬りかかった。

 

『死ねェェェ! セフィロスーッ!』

 斬りかかる『ヴァイス』……宝条。

「……オオオォォォォーッ!」

 迎え撃つセフィロス。

 ……マサムネが銀の光を放ち……ふたりの身体がすれ違った次の瞬間……

 

 カツーン……!

 

 硬質な音が白塵の舞う空間に響いた。

 ……剣の刃先が切り落とされたのだ……

 

 ガクン!と先に膝をついたのはセフィロスだった。

 前のめりに倒れそうになるのを、剣を支えにして必死にこらえている。

 ……剣を支えに……

 

「……セフィロス……ッ!」

 金縛りにあったように竦んでいた足が動いてくれた。地を蹴り、私はまっすぐ彼の元に走る。

 そう、剣を砕かれたのはセフィロスではなかったのだ。

  

 彼の身体を支えようと懐に飛び込んだとき、『ヴァイス』の巨躯がズゥンと音を立てて倒れた。

 

「……あ……ハァハァ……ッ!」

「セフィロス……! セフィロス……」

「……ヴィンセント、バカが……引っ込んで……いろと……そう言ったろ……」

 荒い吐息の中、途切れ途切れに彼はつぶやいた。

 極度の緊張……そして、背の傷の痛みが、呼吸を乱しているのだ。

 

「す、すまな……すまない……ああ、君は……君という人はどうして……」

「……触るな……血が付く……」

 私の手を振り解こうとする。なにをつまらぬことを気にするのだろうか……

「そんなこと……さぁ、私につかまってくれ」

「……フフン、見たか……ヴィンセント」

 無理やり腕を取る私に、彼は低く笑いながらひっそりとささやいた。

 

「……セフィロス……」

「……少しは気が晴れたか……? あのクソ科学者はもういない……野郎の肉体ごとあいつの魂を斬り裂いてやった。……オレの勝ちだ」

「セフィロス……」

 言葉が詰まってなかなか次が出てこない。

 ……君だとて、宝条に対する憎悪はあるだろう? 実の父親だとわかった今ならば、なおのこと、筆舌に尽くしがたい感情が渦巻くはずだ。

 それなのに、私の気持ちを思いやってくれるのか……?

 

「……セフィロス……あり……ありがとう……」

「……フン」

「ありがとう…… 私は大丈夫……だ」

「泣くな……オレの勝ちだと言っただろう……」

 意に反してボロボロとこぼれ落ちる涙。彼はそれを見て呆れたように苦笑した。

「ああ……わかって……る…… わかって……」

「……やれやれ……その泣きグセは少し直せ」

 何度もくり返し頷いて見せた。コクコクと何度も……そのたびに涙の粒が頬を伝い、顎からこぼれ落ちて、彼を辟易とさせてしまった。

 

 肩に感じる、彼の身体の温かさと、その重さに、私は今までにない感慨を噛みしめていた……

 

 そう……動かなくなった『ヴァイス』の身体に、傷だらけのネロが、必死に腕を伸ばしていることにさえ気づかぬほどに……