〜 ジェネシス逗留日記 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ジェネシス
 

 

9:30

 

  チョコボっ子が仕事に出かける。時間が決まっているわけではないが、たいてい朝食を済ませ、午前9時過ぎに出発することが多いらしい。

 彼をきちんと玄関まで行って送り出し、危険のないよう安全運転でと注意しているのが聞こえた。

 そんな女神に、チョコボっ子は背伸びをして無理矢理口づけると、俺に向かってイーッだ!というように舌を出して見せた。

 やれやれ、この子も大人しくしていれば、姿形としてはかなり見られるのだが……

  

 さて。

 食後の片付けは、主にディッシュウォッシャーが受け持ってくれる。

 幸い(?)この家で、残り物が出るという事はほとんど無いため、後片付けに時間はかからない。

 食器を取り纏めてウォッシャーに投入して終了だ。

 

 ヴィンセントは手早くそれを回転させ、これでようやくのフリータイム。

 しかし、彼はのんびりと椅子に座ったりはしない。

 ソファでくつろげばいいのに、食後のお茶を準備する。

 ……なんというか……そういった一連の動作が、ごく自然で流れるような振る舞いなので、ドタバタとせわしなくは見えないのだ。

 それはとても素晴らしいことなのであるが、周囲に居る人間が気をつけてみていないと、知らず知らずのうちに彼の負担が大きくなってしまうと思う。

 本来なら、ひどく忙しく落ち着けないはずなのに、本人の立ち居振る舞いのせいでそう感じさせないということなのだから。

 

 

10:00

 

「ねぇねぇ、ヴィンセント! ヤズーがね〜」

「ヴィンセント、今日のおやつさ〜」

 ヤズーの休むサンルームに足を踏み入れると、セフィロス曰く『ガキども』と一緒くたにされる彼らは、すぐに女神の側にやってくる。

 それにやさしく微笑み返し、

『すまないな……少し待ってくれるか……』

 と、やんわり遮ると、ヤズーの寝台に向かった。

「ヤズー、食事はできただろうか? 気分は……?」

「もう何ともないったらァ。動けないワケじゃないんだから、ゴハンは明日から食卓で済ませるよ」

「……怪我をしたのはつい最近なんだぞ。医師も安静にするようにという約束で、家に帰してくれたのだからな」

 叱るという物言いではなく、静かに『言い聞かせる』。

 こうされると、反論する気持ちが無くなってしまうのだと思う。それでも、ヤズーはどうにも居心地が悪いのか、とにかく自分のことを心配する必要はないと繰り返し、ヴィンセントの体調に言及した。

「……私の体調? なぜ……?」

「だって昨日、この家に戻ってきたばっかりじゃない。すぐに大掃除して、皆の食事の支度から何からさ」

「……そんなのは当然の仕事ではないか。何の負担にもならない。それにカダージュもロッズもよく手伝いをしてくれるし、今回はジェネシスの好意に甘えさせてもらっているから……」

 彼は傍らに立つ俺に目線をよこし、淡く微笑んだ。

 ……ああ、そんな顔で見つめないでくれ…… これ以上、君を好きになってしまったら、自制が効きそうにない。

 

「でも、忘れないでよね。ヴィンセントだって、ちょっと前まで、しゃべることができなかったし、まともに目も見えない状態だったんだから」

 ヤズーが言った。セフィロスにもの申すようなツケツケとした口調ではないが、それでもしっかりと『心配だ』という気持ちは表していた。

「……気遣ってくれるのだな……どうもありがとう。しかし、それについては完治しているし、もう何の心配もない」

 そういいながら、ヴィンセントは怪我人の熱を測り、脈を取った。苦笑しつつも素直に協力するヤズー。

「……ん、変わりないようだな。それでは静かに過ごしてくれたまえ」

 そういうと、ヴィンセントはヤズーの掛け布団を綺麗に直し、リビングに戻るのだった。

 

 

10:20

 

「あのさェ、ジェネシス。ヴィンセントってば何とかならないかなぁ? 心配してくれるのは本当にありがたいんだけどさ……」

 俺一人になると、ヤズーが共犯者に耳打ちするように、ささやいた。

「ハハハ、彼はああいった性分だからねェ」

「そこがまた愛しくもあるんだけどさァ〜……何せずに寝ているだけって、けっこうキツい……」

 俺はコンソールの上に山積みされた雑誌だの、単行本だのに気づいた。

「いいじゃないか、たまには。のんびり休んで読書でもしていれば」

「……あ〜、どっちかっていうと、俺は動くの好きみたい。あまり自覚なかったけどね。せめて散歩くらい行けるようになるといいんだけど」

 ヤズーはため息混じりにそう言った。

「そうだな、さすがに昨日の今日だから。でも、もう2、3日すれば、そこらを歩くくらいのことはできるんじゃないか?」

「そうだねェ…… ヴィンセント、許してくれるかな」

 彼の頑固さは熟知しているのだろう。ヤズーは可笑しいほどしょげかえってつぶやくのであった。

「君の具合が良さそうなら、俺も口添えするから。……ああ、でもね、一応、君の代役と言うことで俺はここにいるわけだからね。あまり早く復帰されてもこまるんだよ」

 半分本気、半分冗談で俺はぼやいた。

「チョコボっ子なんて、朝っぱらから噛み付いてきてくれてね、フフフ」

「……なぁんか、ジェネシス、楽しそう」

「ああ、もちろん。女神の側に居られて、君やセフィロスが住んでいる場所なんだから。チョコボっ子だって、俺から見ればいつまでも可愛い後輩さ」

 しばらく歓談した後、ヤズーに食後の薬を飲ませ、サンルームを後にした。