〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<4>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 巨大なモンスターは、それこそ岩のような腕を振り回し、俺とティファの間にこぶしを落とす。

 木作りの椅子なんて、あっという間に木っ端みじんだ。

「ゴオォォォ」

 と、竜巻にも似た咆吼を上げ、ふたたび腕を振り上げた。

 それに向かって、ティファが氷結魔法を叩き込む。

 トドメは男ふたりの仕事だ。

 

 バレットが、モンスターの右半身に、腕の機関銃を撃ち放ち、俺は左半身を袈裟懸けに叩き斬った。

「ゴッ……グオォォォォォ!」

 凍り付いた半身を置き去りに、巨体が大きくのけぞる。

「ティファ! あぶない!」

 彼女を引きよせ、断末魔の化け物から距離を取る。

 天井に届こうかという巨体なのだ。倒れかかられただけでも、致命傷になる可能性がある。

 カチンッ!

 

 という冷たい音に、ハッと目をやると、うっかりポケットに突っ込んでおいたカギがこぼれ落ちていた。

 俺は飛びつくようにしてそれを拾った。

 いや、実際、モンスターが倒れかかってきたのだから、それこそかっさらうようにして取り上げたのだ。

「クラウド、無茶しないで!」

 ティファの声が飛んでくるが、鍵を死守できたことに安堵に息を吐いた。

 宝条からの『みやげもの』などという、いわくつきの鍵でありながらも、ひどく執着しているおのれが滑稽ではあったが、今思い返せばこのときから『予感』めいたものがあったのかもしれない。

 その鍵は、俺とこれから出逢う人を結びつける、それこそ最初のキーであったからだ。

 

 

 

 

 

 

「二人とも、怪我はないな」

 俺はティファとバレットに確認した。

「おう、問題ねーぜ。多少手間取ったがな」

「私たちのことより、クラウドのほうでしょ。さっき思い切り飛び込んだように見えたけど…… 大丈夫?」

 ティファは子供の頃から心配性だ。そして面倒見がいい。

 大人になった今は、多少口うるさいと感じるが、そもそもいつまでたっても俺が頼りないということなのだろう。

「……肘を擦ったくらいだ。平気なら地下に降りよう。宝条の言葉を信じるなら、研究室の傍らの部屋に、この鍵に合う何かがあるはずだ」

 俺はふたりを促した。

 

 どこまでも続く螺旋階段。

 ……それが俺を落ち着かなくさせる。

 どうしても、あのときのことを…… セフィロスがおかしくなってしまった事件を思い起こさせるから。

 長い長い螺旋階段を下りて、何度も食事を届けに行った。

 セフィロスは、もともと饒舌な人ではなかったけど、二日、三日と経つにつれ、ほとんど口を開かなくなった。

 話さないというだけでなく、食事にもまったく手をつけた様子がなくなっていた。

 

 そして、あの夜……

 風の強いあの夜に……

 

「うっ……」

 低い呻きが漏れ、俺は慌てて口元を押さえた。

 嫌な汗がこめかみを伝い、鈍い吐き気がこみ上げてきたのだ。

 実際に嘔吐するまではいかないが、閉鎖的な地下室の空気はここ最近調子のよくなかった俺の気分をますます滅入らせた。

 

「あ、クラウド!ティファたちもおっそいよー! ほら、これ! 手がかり!」

 場違いなほど明るい忍者娘が、俺の体調などおかまいなしに紙片を突きつけてくる。

『ニブル山を越えろ』……か。

 

「ね、これセフィロスからのお手紙だよね!?」

「お手紙なんて可愛いモンじゃないでしょ。……なにかの罠かも知れないわ」

 女性ふたりはたくましい。粗末なメモを眺めながら、ああだこうだと議論に入った。

「罠かもしれないが、行くしかないだろ。他に手がかりもないんだしよ。だがばくぜんとしてるな」

 とバレット。

「なにはともあれ、その『セフィロス』とやらと相対さないと何も始まらん」

 シドも賛同を示す。

 もちろん、俺だとて否応はない。

「……手がかりと思われるのはそれだけか? 他に何か見つかったものは?」

「あ……うん。その……セフィロスの……」

「セフィロスの?」

 言いにくそうにしたユフィが気になって、俺は重ねて問いかけた。

「あ、あの、博士の研究日誌みたいなのがあって…… そこに、セフィロスのことが書いてあった」

「貸してくれ。読んでみたい」

 すかさず研究室に足を踏み入れようとしたが、ティファが俺を止めた。

「待って、クラウド。まずはさっきの鍵を試してみようよ。何が入っているのかはわからないけど、早く済ませてここから出よう? 博士の日誌はいざとなれば持ち出してもいいだろうし」

「え、あ、ああ、そうか……鍵……」

 あんなに執着した鍵だったのに、まだ見ぬ宝条からのみやげものより、セフィロスについて書かれた日誌のほうに気をとられていた。

「確かにな。なかなかこの場所はぞっとしねェ。おい、ユフィ、とりあえず、日誌だけ持って行こうぜ」

 シドが二の腕をさすりながらそう言った。確かにこの場所は、外より冷え込むし、湿気が多い。

「そうだね〜、なんか寒いし。じゃ、取ってくる」

「乱暴にしちゃダメよ、ユフィ。大事な手がかりなんだからね」

 

 彼らが研究室から日誌を持ち出すのを確認した後、俺たちは隣り合った地下室の鍵を開けた。