〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<5>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「……うわ、ここもすごくヒンヤリしてんね」

 ユフィがいかにも寒そうに腕を組み合わせた。

 そりゃそうだろう。ティファもユフィも軽装過ぎる。身軽が身上のバトルスタイルとはいえ、問題はありそうだ。

「クラウド、さっきの鍵って、部屋の鍵だったんだよね?」

「ああ、そこの扉はこれで開けたんだが…… ここは墓場……なのか?」

 俺は困惑しつつ、静まりかえった室内を見回した。

 石造りの冷たい部屋の中に、いくつかの棺桶が置かれている。死臭がしないというのは、もう大分古い遺体なのか、それとも中身は空なのか……?

 

「オイオイ、ゾッとしねぇな。宝条の暗号とやらは、本当にこの部屋を指し示しているのかよ?」

 一歩足を踏み入れると、コウモリがキィィと高い声を上げ、バタバタと部屋の外に飛び出していった。

 堂々とした体躯をもつバレットだが、実は案外臆病なのである。

 ユーレイだの化け物だのといった類は大の苦手ということだ。もっとも俺だとて、得意なわけではないが。

「それは間違いない。だが、それ以上のヒントはなかった」

「そんじゃあさ、片っ端から棺桶開けていこうよ。中に何か入っているかもしれないよ?」

 あっさりと恐ろしいことを言ってくれるのは、常に最年少のユフィである。

 俺が『それ』に気づいたのは、ちょうどそんなやりとりをしているときであった。

 薄暗い地下室だったし、よく目をこらしてみなければわからなかった。

「ちょっと待ってくれ。……あの棺桶、奧の……それ」

 部屋の一番奥……段差のあるわずかに高い場所に、ひとつの棺桶が安置されていた。

 他のものよりもひときわ大きく、黒曜石でできている。

 薄暗い部屋の中で、鈍い輝きを放つそれに、俺は引き寄せられるように足を進めた。

「これだけ、他の物と違う」

「……うん。綺麗な石棺……オニキスみたいだね」

 ティファが覗き込むようにして、小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 俺は迷うことなく、鍵をとりだした。

 掛け金の部分に、それを宛がう。

「お、おいおい、マジかよ。本当に開けんのかよ!?」

「しっ、バレット!」

「だってよ、ティファ。ミイラが飛び出してくるんじゃねぇのか?」

 背後での会話には加わらず、俺は棺桶を開けることに意識を集中させた。

 カシッと小さな音が響くと、触れた手に石棺の振動が伝わった。

 

 見た目の重厚さそのままに重い蓋だ。

「クラウド、大丈夫? 手伝おうか?」

「大丈夫だ。……返って危ない」

 手短にティファに言葉を返す。

 乱暴に扱って落としたりなどせぬよう、俺は丁寧に石棺の蓋をずらした。

 

 だが、今から思い返すと、このとき重い蓋を落とさなかったのは、たまたま運が良かったのだ。

 俺の目は、『棺桶の中身』に釘付けだったからだ。

「……これ…… こ、この人……」

 言葉にならないつぶやきが、口からこぼれ落ちた。

 

 棺桶の中に横たわるのは、紅のマントを身につけた人物だった。

 雪のような肌、色味の薄い唇……漆黒の長い髪がゆるやかに頬を縁取り、長い睫毛が双眸に影を落としていた。

 

「男……の人だよね?」

 ユフィがほとんど独り言のようにささやいた。

 一見、場違いな問いかけのようだが、だれしも一目見た瞬間には、判別がつかなかったのではないかと思う。

 それほどまでに、棺桶の中の人物は、人間離れした美貌を持っていた。

 ただ、単純に目鼻立ちが整っているということではない。

 肌の色、流れる黒髪……ほっそりと白い顔……そしてなにより、畏怖の念さえ抱くのは、彼を取り巻く空気…… ノーブルなオーラであった。

 

「どう見たって、野郎だろう。こんなにデカイんだし」

 なぜか困ったようにバレットが言う。

「ね、ねぇ、それより……宝条の『役立つ物』って、まさか本当にこの人のことなの?」

「っつーか、生きてるのかよ……」

 ティファの質問に、シドが根本的な問いかけを返した。

「そ、そうだよね。棺桶の中……だもんね。ク、クラウド、その人、生きてるの?」

「…………」

「ねぇ、クラウドったら!」

「……え、あ……ああ」

 繰り返し、声を掛けられて、ようやく正気づいた。俺は腑抜けのように、ただひたすらその人を見つめていた。

「あ、ああ、い、生きてるかって、それは…… ええと……」

「どいてよ、クラウド!」

 ユフィがずんずんと割り込んできて、紅マントの人物の頬に手を触れる。だが、すぐに珍妙な面持ちで、俺にタッチ交代とばかりに後ろに引いた。

「……冷たいカンジ。でも生きてるような……気がする。なんか、気持ち悪ィ」

「ちょっと、ユフィ、あんまりな言い方じゃない!? もし、本当に……」

「じゃ、じゃあ、ティファも触ってごらんよ!」

「クラウド、こ、声かけてみようよ」

 ティファが俺を急かした。さすがの彼女も腰が引けているのだ。

 曇り空の神羅屋敷、人体実験の行われた地下室…… そして地下の霊廟ともなれば、さもあろうといったところである。

「ふたりとも退いていてくれ。俺が……起こしてみる」

 俺は紅いマントの人の肩に触れた。

「お、おい……あ、あの……アンタ、起きて……くれ」

 おっかなびっくりの声掛けは、彼には届かない。

「ア、アンタ……その……生きてるんだろう? 起きてくれ」

 俺は彼の胸に触れた。本当に生きているのなら、そこが息づいているはずなのだから。

 

 微かな鼓動を手の平に感じた次の瞬間、彼の切れ長の双眸が光を得た。

  

 これが、紅い瞳の麗人との、最初の出逢いであったのだ。