〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<7>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「ま、待って!」

 俺は身の丈よりも大きな石蓋に飛びついた。無理やり蓋と棺の間に身体を挟んでやる。こうすれば、蓋が閉まることはない。

 普段なら考え無しにこんな真似はしない。だが、今は思考する前に、身体が動いていたのだ。

「おい、ちょっ……クラウド!」

「危ないよ、クラウド!」

 周りの連中が俺の突飛な行動を咎める。

 だが、このまま石棺の蓋が閉まってしまったら、もう二度と彼と会話する機会に恵まれることはないという……やや、強迫観念じみた考えからのことだった。

「ねぇ、待って! 俺、アンタに会うために、金庫の鍵も見つけたし、ロストナンバーも倒したんだよ!? 協力するしないは、今すぐに決めてくれなくてもいい。でも、頼むから一緒に来てくれよ。アンタともっと話がしたい!」

「クラウド……?」

 ティファの困ったような声が聞こえる。だが、彼女に何か言おうとは思わなかった。

 とにかく目の前の人のことで必死だったから。

 その人の双眸がふたたび光を得、

「……なぜ……?」

 と、小さくつぶやいた。

 平坦な物言いの中にも戸惑いが感じられる。たぶん、俺が必死の形相で蓋を押しのけ、一方の手で彼の二の腕を掴み締めていたからだろう。 

「だ、だって……このまま名前さえ聞かずに別れちゃったら、きっともう二度と会えないって……」

『もう二度と会えない』からといってなんだと言うのだろう。

 そもそも、見ず知らずの他人相手であり、こんな気味の悪い墓場に居た人物だ。 

 セフィロスのことを知ってはいても、協力してくれるでもない……そんな相手に、どうして俺はここまで必死に食い下がっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……手を放してくれたまえ」

 穏やかに言われて、俺は慌てて手を引っ込めた。

 知らず知らずのうち、ずいぶんと強い力で握りしめていたらしい。なんだかこの人と一緒にいると、自分がひどくがさつで乱暴な原始人のように思えてくる。

 おまけに、無意識に掴み締めた彼の二の腕は、驚くほど華奢な造りをしていたのだ。

「あ、ご、ごめん。乱暴なコトして……痛かったか?」

「……そうではない。人に触れられるのは慣れない」

 いかにもこの人らしい返答だ。

「あの……だから、頼むよ。一緒に来て欲しい」

「…………」

「さっきも言ったけど、俺たちに協力するか否かは、行動を共にしている間に考えてくれていいから。こんなところに、ひとりで居るのって……よくないよ」

「……? おまえには関係のないことだろう」

「そうかもしれないけど! ……だって仕方がないだろ、気になるんだから!」

 少し怒ったように言った俺を、彼は今度こそ不思議そうに見つめた。

 

「あのさ、アタシ、ユフィ。ユフィ・キサラギ。ねぇ、アンタ、一緒に行こうよ。この無愛想でトーヘンボクなクラウドにここまで言わせるってスゴイよ。いろいろあるけど、旅は道連れ世は情けっていうじゃん。しばらく付き合いなよ」

「俺はシドだ。シド・ハイウィンド。大した事情があるわけじゃないが、ちっと神羅に因縁ありでな。宝条を知ってるとなりゃ、おまえさんも、何か関係あんだろ? 一緒に行こうぜ」

 パーティで一二を争う不躾ふたり組が、妙に偉そうな誘い文句を口にした。

「おい、ちょっと、おまえら。言い方ってモンがあんだろ! だいたい、普段から……」

「……ヴィンセント……ヴィンセント・ヴァレンタインだ」

 その人は言った。

 そういえば、名すら聞いていなかったのに、いまさら気付く俺であった。

「……私が同行しても、たいした役には立てぬと思うが……」

「え、い、いいの!? 本当に一緒に……」

「……役に立てぬのが心苦しいな」

「そんなことどうでもいいんだよッ! よかった、本当に一緒に来てくれるんだな。え、ええと……ヴィンセント?」

 彼はゆっくりと頷き返すと、

「……クラウド……でいいのか?」

 と、ささやいた。

 彼の声は、小さくて低いため、ひどく聞き取りにくい。だが、今、自分の名を呼んでくれたことだけはハッキリとわかった。

「クラウド・ストライフだ。ごめん、こんなにしゃべってたのに、まだ名乗ってなかった」

 そういうと、彼がうっすらと笑みを浮かべた。きっと間近にいなければわからないほど、淡い微笑だったと思う。

 だが、彼の笑顔は、まるで白黒の絵画に、色味が足されたような…… 

 気障な物言いをするのなら、深紅の薔薇が光を得て花開くような……そんな印象であった。