〜 子猫物語 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 クラウドの別荘はイーストエリアの最東端に位置している。

 この辺りは別荘地となっているが、その中ではもっとも海に近い場所だ。浜辺から少し小高い丘陵地である。

 家の裏手は、ちょっとした草原になっており、南国独特の背の高い樹が日陰を作ってくれている。視界に緑が広がる見渡しの良い場所だ。

 周囲よりは高台になっているので、風のとおりもよい。

 いつもよりも、ゆっくりとした足取りで、小高い丘を登る。

 ここは私有地だから、我が家の人間以外は入って来れない。もっとも、他家とは離れた場所なので、海でもないこんなところに、わざわざ足を運んでくる輩はいなかろうが。

 適当な場所に腰を下ろし、子猫を草原の上に置いてやった。

 ヴィンセントは、おっかなびっくりという風体で、静かに降り立ち、座ってでもまだ遙かに背の高いオレを下から見上げる。

「みゅぅ……みぃ〜……」

 ……なんといったのだろうか?

 残念ながらオレには猫語はわからない。どこぞの世界に彷徨っている、もうひとりの『セフィロス』ならば理解できるのかもしれないが。

「悪いな。猫語はわからん」

 そういうと、いつもこの場所でしているように、ごろりと横になった。

 ……こういうといつもオレは寝転がっているように聞こえるかも知れないが……まぁ、確かにこの姿勢をとることは多い。理由は楽だからだ。

「みゅ……」

 ヴィンセントは足音も立てずに、そっと顔の近くまで歩いてきた。じっと朱金の瞳でこちらを見つめる。

「ゅ……」

 掠れた声が耳元をくすぐる。

 やわらかな黒毛を撫でると、心地よさそうに目を細めた。

 ……なんだかこうしていると、もともとこいつが『ヴィン』であったような気さえしてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、おまえは神羅の社員だったな」

 そんなふうに、昔話を切り出してみた。

 ふたたび、子猫が頷く代わりに、きゅっと目を瞑った。

「本社ビルのすぐ向かいにセントラルパークがあるだろ。あそこには野良がけっこう居着いてやがったんだ。ああ、猫も犬もな。チビも居たから代替わりして住み続けたんだろう」

「みゅ……」

「クラウドのガキは、ああいうタイプだからな。ふたりで散策に出掛けても、野良がちょこちょこくっついてくると、いちいちかまってやってたな。……まぁ、オレも人のことはいえないのだが」

 続けた言葉が意外に聞こえたのかも知れない。

 ヴィンセントの猫は、小首を傾げるようにして、寝転がったオレの顔を覗き込んできた。

「だが、いくら可愛がっているとはいえ、あの対応はダメだな。……ん? クラウドのことだ。ガキがオモチャを見つけたように、しつこくかまうからな、あいつは。犬猫にしてみりゃいい迷惑だ」

「みゅ〜」

「ふふ、おまえもそう感じているんだろう? まぁ、最近はイロケムシが注意するから無茶なことはしないがな。ふふ、おまえだとて、猫の姿のままあいつとは一緒に寝たくないだろう?」

「ゅ……」

 オレの言葉をどう聞いたのか、猫の姿のヴィンセントは、ぴょいと身を引っ込めて小声で鳴いた。

「どうした? ああ? おい、別に変な意味じゃないぞ。クラウドはお世辞にも細やかな神経の持ち主とは言えんからな。いくら心の中では、おまえのことを大切に思っていても、寝相まではなかなか変えられんだろう。蹴っ飛ばされるのがオチだ」

 冗談めかしてそういってやると、納得したように「みゅ〜……」と、声を上げた。

 

「……あまり落ち込むな」

 わずかな間隙の後、オレはつぶやいた。

 自分でも、優男が口にするような、ぬるい慰めを口にしているのが不思議な気分であった。

「どうもおまえはやたらと不思議に囚われることが多いようだがな。だが家の連中は同情こそすれ、迷惑に思ったり、困惑したりということはない。よけいな心配は無用だ」

 意に反して、オレの口は、猫の姿をした男の気持ちを引き立てるようなことばかりであった。

 こんなのどかな場所で、チビ猫とふたりきりでいるのだから、まぁ……仕方がないと思われる。

「きゅ〜……」

「フフン、まぁ、普段から面倒見なきゃならないダメ男どもに囲まれているんだ。猫になっている間くらい、羽のばしてろ。……今の『ダメ男』にはオレは入っていないからな」

「にゃぁ〜」

 ヴィン猫は、ようやく緊張が解けたのか、長く声を伸ばして鳴いてみせた。