〜 子猫物語 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 結局、この日は昼過ぎまで、ヴィンセント入りの子猫と時を過ごした。

 なんのことはない。

 そのまま、裏の木陰でくつろいでいただけだ。

 思った通り風通しがよくて、心地よかったし、とりたててやることもなかったからだ。

 ヤズーが遅めの昼食を誘いにきたところで切り上げたのだが、なんとなく名残惜しげに草原を眺めていたのが印象に残っている。

 

 一方、子猫入りのヴィンセント・ボディは、到底普段は見られないような行動ばかりである。そのため、常に誰かがついて見ていないと危なっかしくて仕方がない。銀髪三兄弟がつきっきりで面倒を見ているといった状況だ。

 夜もひとりで寝かせておくのは危険なので、日替わりで誰かが添い寝をしているのである。

 最初の夜はクラウド、その次も確かクラウドが着いていたが、案の定睡眠不足に陥り、翌日からはヤズー、カダージュ……と順番をめぐらせていたはずだ。

 オレにそいつが回ってこないのは、クラウドのクソガキが断固として反対したためである。

 ……ったくアホらしい。

 いくら外見はヴィンセントとはいえ、中はチビ猫になっているというのに。そんなときに、手出しをしてもつまらないではないか。

 余談だが、遊びであろうと本気であろうと、恋愛沙汰は相手を陥落させるまでが、もっとも興奮するのだ。

 その気が無いヤツを口説き、気持ちを引き寄せ、惚れさせる……その過程が楽しいのである。

 実際行為に及ぶとなれば、ハードルは高ければ高い方ほど面白い。

 陳腐な口説き文句、小手先の誘いに乗ってこられては興醒めというものである。

 ヴィンセント相手ならば、尚のこと、隙をついてどうこうなどとは考えていない。ましてや、中身が当の本人以外というのでは話にならないのだ。

 まったく、クラウドのガキは、そんなことも読みとれないのかと情けなくなってくる。

 もっとも、猫入りのヴィンセントの面倒を見ることなど、気の短いオレには到底無理なので、期待されない方が有り難いわけだが。

 

「きゅぅ……?」

 ふところの『ヴィンセント』がオレを見上げ、首を傾げて鳴いた。

「……なんでもない。クラウドのガキのことを考えていた」

「みゅう……」

「側に置いておいた時間は、そう短くもないのに。……洞察力のないガキだと思ってな」

「みゅ〜……」

 これでは意味がわからないだろう。子猫はもう一度消え入るように無くと、ふところでおとなしくなった。

 

 

 

 

 

 

「はいッ! 今夜は俺ッ! 俺が『ヴィンセント』と寝るッ!」

「あ、そぉ、はい、じゃ、猫ちゃん」

「違うってば! ヴィンセント入りの猫は、ちゃんとしてるだろ! 俺が言ってんのはヴィンセントの身体のほう!!」

「ヤダな〜、兄さん、身体目当てなのォ?」

「目当てなのぉ〜?」

「ヤダなァ」

 ヤズーがからかうのに、後を続いて、カダージュ、ロッズと声を揃える。

 さすがにわがままクソガキも、三兄弟相手では分が悪いようだ。

「うっさい!バカいうな! そんなんじゃないだろッ!」

「ゅ〜……うゅ〜」

「あ、ちょっと兄さん、大きな声出さないで。ヴィンちゃんが怖がっちゃうでしょ」

 低くうなるヴィンセントの肩を抱くようにして、イロケムシがクラウドを叱る。

 ヤズーとヴィンセント。

 同じ銃使いで、対照的な美貌を持つふたり。

 ツラの出来は、両者とも最上級のレベルなのだが。

 ヤズーのほうは、本当に性別を見まごうような、いわゆる『女顔』で、華やかな牡丹のイメージだ。対してヴィンセントの造形は、繊細でノーブルである。線は細いが、女に間違われるタイプではない。

 どこもかしこも、細くて骨ばっていて、やわらかな曲線のイメージをもつ、女性とは確実に一線を画していると感じる。

 

「ねぇったら、セフィも何とか言ってよ!」

 クラウドの怒鳴り声で、意識を目の前のやり取りに戻す。

「もぉ! ヴィンセントは俺の恋人なのにッ! セフィの思念体、態度悪いッ!」

「ったくお前ら、毎日毎日、本当によくモメられるなァ。ほとほと呆れる。なぁ、チビ?」

 一緒にソファでくつろいでいた子猫に声を掛ける。

 中身がヴィンセントである黒猫は、少し困ったように「みゅぅ」と鳴いた。

「あ、ヴィンセントにベタベタしないでよっ! いくらニャンコ状態とはいっても、中身はヴィンセントなんだからね!」

「猫相手にベタベタもクソもあるか、アホチョコボ。それよりもな、言っておくがそいつの中身は子猫のヴィンだぞ? 外見がヴィンセントなだけなんだからな? 無茶な真似するんじゃないぞ」

「ちょっ……なんですか、アンタは!それ、どーゆー意味ですか!? 恋人の俺が、こんな状態のヴィンセントに何かするとでも?」

 もともと桜色の頬を、さらに濃い色合いに上気させ、クラウドのガキが怒鳴りつけてきた。

「直情型の青臭いガキは何をするかわからんからな」

「俺は鬼畜かッ! 畜生以下か! コノヤロー!」

「みゅ〜……」

 人型ではない、中身がヴィンセントの子猫が、低く鳴いた。クラウドを戒めているのだろうか。

「あー、ほっとけほっとけ。いいじゃねーか、イロケムシ。どうせ、明日は休みだろ。面倒はクソガキに任せてやりゃァ」

「まぁね、俺はかまわないんだけどさ。じゃ、兄さん、もうそろそろ、『ヴィンセント』寝かせつけて。疲れちゃうとゴハン食べなくなっちゃうから」

 空いたティーカップを、トレイにひとまとめにすると、ヤズーがクラウドを促した。

 小動物はよく睡眠を取る。ゆえに、子猫の入った『ヴィンセント』本体もよく眠るらしいのだが、それでも睡眠時間が足りないみたいだ。

 すでに、寝ぼけて、「みゅうみゅう」と掠れた声をこぼしているヴィンセントを、クラウドが丁寧に連れ出した。

 ふたりでヴィンセントの部屋で眠るらしい。

 ……おそらくクラウドのところは散らかっているからだろう。

 

「やれやれ、おい、おまえ、今夜はおまえの部屋には、招かざる客が寝泊まりする様子だぞ」

 そんなふうに茶化すと、子猫の姿をしたヴィンセントは、「みゅ……」とつぶやいた。

 こいつの寝床のバスケットは、自室に置いてあるのだ。

「まぁ、本体はあいつにまかせて、おまえはオレの部屋に泊まっていけ。ベッドもデカイし、こぼれるこたァないだろ」

「きゅ……」

「チビ猫とはよく一緒に寝てたからな。アレの定位置がちゃんとある」

 オレは小さな身体を抱き上げると、そのまま居間を出た。

 子猫の姿をしたヴィンセントは逆らうこともなく、おとなしくふところに収まった。