LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 結局俺たちは、話し合いの場を移すことにした。

 ここから少しの間は俺ことヤズーが話をしようと思う。なぜなら兄さんはひどく感情的になってしまっていて心許ないからだ。

 ……クラウド兄さんは、ジェネシスといったか……彼と話すのを嫌がったが、ヴィンセントがそれを宥めたのだ。我が家に引っ張ってきたのも、ヴィンセントなのだ。

 己のことを知っている口ぶり……そしてジェネシスの口から、『セフィロス』という名がこぼれおちると、ますます熱心に彼はジェネシスと話をしたがった。

 不機嫌な面持ちの兄さんを、ヴィンセントと一緒に宥め、とにかく一度ウチへ戻ろうということになったのだ。

 

「ゲッ!!」

 我が家で惰眠をむさぼっていたセフィロスは、居間に入ってくるなり、あくびの大口から唾を吐きだして絶句した。

「き、貴様……」

「いやぁ、久しぶり、セフィロス」

「馴れ馴れしくオレ様の名を呼ぶな!」

「なつかしいなァ、相変わらず口が悪いんだな」

「おい、貴様らッ!」

 矛先がこっちに来た。

「おまえら、どういうつもりだ、何でこの男が……」

「訊きたいのは俺の方だよッ!」

 苛立ちを隠さず怒鳴り返す兄さん。

「この人が何したと思う、セフィ? 往来でいきなりヴィンセント抱きしめてキスしてッ! アンタの同僚でしょッ!? ホント、よくよく考えてみりゃ、ソルジャークラス1stって最悪だよね、コレッ! セフィを始め、ジコチューなヤツばっかし!」

「なんだと、クソガキ! 言葉に気をつけろッ! この変態詩人とオレ様を同列に並べるなッ!」

「ふ、ふたりとも……よさないか……客人の前で……そんな言い争いは……」

 おずおずとヴィンセントが止めに入る。

「客人ッ!? ヴィンセントが勝手に連れてきたんじゃない! 言っておくけど、アンタにあんな真似したヤツ、俺はお客さんだなんて思っていないからね! だいたいヴィンセントは人が好すぎるんだよッ! もうちょっと俺の気持ちとか考えてくれたって……」

「あ……それは……私は……」

「おいおい、チョコボ。女神を叱りつけるのはやめてくれよ。そんな言い方をするのなら、俺は帰る。改めて、女神とだけ会う約束を取り付けさせてもらうよ」

「ジェネシス!アンタさ、空気読んでくれない!? さっきから女神女神って……」

「まぁまぁ、兄さんもジェネシスも落ち着いてよ。今さらケンカしたって無意味でしょ」

 ゆっくりとした口調で、俺は割って入った。ヴィンセントがホッとした顔で俺を見る。

 だが、ピリピリとした異様な空気は変わらない。

 居間のソファに、兄さん、ヴィンセント、そしてセフィロス、ジェネシスの四人が顔つき合わせて座っているのだ。カダ、ロッズのお子様組には席を外しておいてもらって正解だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……ジェネシス……さん?」

 黙り込んでいる皆に気を遣ったのだろう。まず真っ先に口を開くことなどないヴィンセントが、おずおずと声を掛けた。

 その彼にジェネシスが顔を向ける。ひどくやさしげな、『もったいなさげ』な面持ちで。……そうおかしな例えだとは思うが、教会で善男善女がマリア像を見上げるような表情だ。

「あ、あの……」

 さすがのヴィンセントも彼の視線を受け、困惑したように言い淀んだ。それでも声を励まして問いかけを続ける。めずらしいことに、セフィロスが口出しをしなかったのだ。

「あ、あの……恐縮なのだが……私は貴方を知らない。……たぶん面識はなかったと思う。記憶違いなら申し訳ないのだが……」

「うん……そうだろうね。君は俺を知らない…… でもね、俺は君を知っていたよ、ずっっと、ずっと昔から……」

 確信を持った返事に、セフィロスが奇妙なまなざしを向ける。

 ずっと昔の話となると、俺を始め、カダージュやロッズはあずかり知らぬことだろう。

「あ、あの……勘違いではなかろうか? じ、事情があって、私はずっと人前には出ていなかったし……」

「ヴィンセント、いいよ、こんなヤツにアンタのプライベートなんて話さなくて!」

 ヴィンセントにとっては触れたくない過去のことなのか、兄さんが鋭い声で遮った。だがジェネシスはそんな彼の物言いにも嫌な顔一つ見せなかった。

「そうだね、君はずっと眠っていたものね。古めかしい神羅屋敷の地下で……そう、まるで眠り姫のようにね」

「え……あ……?」

「おい、ヴィンセント? こいつの言っていることは本当なのか?」

 動揺するヴィンセントに、セフィロスが訊ねた。それに戸惑いに満ちた目線で返事をして、改めてジェネシスに向き直る。

「ジェ、ジェネシスさん? どうして……それを……」

「ジェネシスでいいよ、女神」

 この人は初めの時から、ヴィンセントのことを『女神』と愛おしげに呼ぶ。

「もちろん、眠り姫に逢ったから知っているのさ。君は黒曜石でできた美しい石棺の中で眠っていた。血の色よりもさらに深い紅の衣を纏って」

「…………」

「セフィロスは覚えていないのかい? 一緒にニブルへイムに行ったじゃないか」

「オレはこいつには逢っていない」

 セフィロスがヴィンセントを顎で指し示してそう言った。

「ああ、あのとき、一緒に地下に降りてくれたのはザックスだったっけ。セフィロスは俺の話、ほとんど聞いてくれなかったよな」

「……そいつを今、後悔している。オレは最大のチャンスを逃したわけだ」

 セフィロスの言葉にヴィンセントが不思議そうに顔を上げた。おずおずと彼を見るが、セフィロスはジェネシスをにらみつけたままだ。

「貴様がいつもおちゃらけた態度をとっているから信用されんのだ。チッ」

 と、ジェネシスに毒づくが、言われた本人は顔色ひとつ変えやしない。

 ……どうも、このジェネシスという、元ソルジャークラス1stの男は、俺と似たタイプなのかもしれない。

「おい、どーゆー意味だよ、セフィ!」

 例によって兄さんが、耳ざとく彼の不穏なセリフを指摘するが、話は先に進んでいった。