LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

「屋外で食べるのもけっこう気分がいいものだろう?」

「ああ……本当に」

 ヴィンセントが上品にナイフとフォークを使って、すずきのパイ包みを切り分ける。

 ジェネシスとヴィンセントは、思った通り美しい噴水のある中庭に席を取っていた。

 上手い具合に日陰ができるように、テーブルが配置されるオープンカフェ。目に付くところにはわからないけど、屋外用の空調も設置されているこの店は、実は俺もお気に入りだ。ひとりでノースエリアに買い物に来たときなどは、ちょっと気取ったランチをここで楽しむ。

 いわゆる格式張った、クラシックテイストの『レストラン』ではないが、気軽なランチカフェと一括りにしてしまうのは申し訳ない店だ。

 昼からコース料理がきちんと出せるし、メニューも毎日変わる。当然のように、ナイフとフォークの添えられたランチは、若い子向けのお値段ではないのだ。それにも関わらず、店の雰囲気がやわらかく、肩肘張らずに楽しめるので、ヴィンセントのようなタイプには持ってこいだろう。

「……美味しい」

「そうかい? ここは気に入っていて、よく寄る店なんだ。君の口にあったならよかった」

「ああ……ジェネシスは……なんというか、本当にセンスのいい人なんだな、と思う。服装とか……目に見える部分もそうなのだが、ささやかな気遣いにそれを感じる」

 ヴィンセントはひとつひとつ単語を拾い出すようにして、そうつぶやいた。嬉しそうに目を細めるジェネシス…… くやしそうに歯噛みする兄さん……

 むすっと頬を膨らませて、やや前屈みで座っているセフィロスに耳打ちしている。

(俺、ヴィンセントにセンスがいいって誉められたことない!)

(そりゃ仕方ねーだろ。センス悪ィんだからよ)

(なんだよ、セフィのバカ! えっらそーに!)

(ふてくされるな、クソガキ。今はそれどころじゃないんだろ)

 ヴィンセントたちとは、ついたてを境に内側よりの座席。もちろん、ふたりの様子をうかがえるのと、絶対に向こうからは気づかれない場所なのだ。

 オーダーを取りに来てもらうと、声でばれてしまう可能性があるから、俺のほうからキッチンカウンターへ足を運び、ウエイトレスをしている女友だちに適当につまめるものを頼んだ。

 彼女は興味深そうに俺たち一同を眺めていたが、そこはさすがプロ。

 よけいな詮索はせずに『お客』の注文通りの応対をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

「適当にオーダーすませてきたよ」

(シーッシーッ ヤズー!)

「大声出さなきゃ大丈夫だよ。女の子と違って男の声は低いからね」

「そ、そうかなァ。……こんくらいでどう?」

 子供のひそひそ話のようにトーンを落とす兄さん。なんというか本当に可愛い人だ。苦笑を答えつつ、こちらも押さえた声で返事をしてやる。

「平気だったら。怒鳴ったり大声上げなきゃ。それに、ヴィンセントはジェネシスしか目に入ってないよ」

 何の気なしに思ったことをそのまま口に出しただけだったが、兄さんは勢い余って

「なッ……」

 と言い掛けたまま顔を真っ赤にした。叫ばなかっただけ立派なもんだ。

「ああ、違うよ、そういう意味じゃなくて。ヴィンセントは人慣れしていないからね。目の前に座っている人に神経を集中させてるって意味」

「言い方良くないよ、ヤズー!」

「ごめんごめん」

 そんなやり取りの中、事情を話した女友達が俺たちのオーダーを運んできてくれた。

 もちろん、無駄口ひとつきかず、すばやく配ってくれる。別れ際に互いにウィンクを交わしたら、兄さんがさも呆れたと言わんばかりの眼差しで俺を見た。

 いやだなぁ、別に変な関係じゃないのに。女友達くらい居たってフツーだと思うんだけどねェ。

 

「わぁー、なんかずいぶんしっかりした『メシ』だね。コーヒーくらいにしたのかと思ってた」

 と、兄さん。

 サンドイッチのサフランソース掛け。

 ローストビーフとチーズ、そして季節の野菜のピクルスを挟んだ本格派のサンドイッチだ。もちろん、ナイフとフォークで食べる。

 コース料理だとさすがにマズイと思ったので、気に入りのメニューにした。

 なんといっても、大きいので腹持ちがよい。

「あ、もしかして兄さん、昼ご飯済ませてたの?」

「ううん。もちろん。まだ。ぶっちゃけすごい腹減ってるし、超ありがたいけど……」

「彼らなら大丈夫だよ。まだ当分終わりそうもなかったから」

「さっすがヤズー。じゃ、小声でいただきま〜す」

 さっきまでは先の見えぬ尾行でぐったりしていたくせに、目の前の食べ物で元気満タンの兄さん。本当に単純な性格がうらやましい。

 俺なんて、セフィロスの態度が気になって……もちろん、態度に現したりはしないけど。