〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「ザックス……!」

「クラウド、大丈夫か? どこか怪我でも……」

 黙ったまま、頭を振った。

「……なんともない……おれは……」

「そうか」

「でも……」

 焼けこげて死んでしまった同僚のことを言おうとしたとき、またもやグッと喉元に嫌な塊がこみ上げてきた。

「ザ、ザックス……おれ……」

「いい。言わなくていい。……おまえが無事でよかった」

「……ザックス……ねぇ、これどうしたの? なんで、こんなことになっちゃったの? ここ、後方支援部隊の駐留地だよね? なんで……」

 情けなくも震える声を、何度も息継ぎして、一番聞きたかったことを訊ねた。

「反神羅の過激派だ。……モンスターに気を取られ過ぎた」

「ゲリラ……」

「ああ。だから、戦力の低い後方支援部隊を襲ったんだろう。おかげで兵糧の半分を奪われた」

 溜め息がこぼれるのを、舌打ちで誤魔化し、ザックスが苦々しくつぶやいた。

 当然食料が不足すれば、調査の進行の妨げになるだろう。

「もしかしたら、先行部隊も調査に入る段階で、不意を付かれたのかもしれないな」

「…………」

「……ゲリラに殺されたってこと?」

「……わからない」

 気まずい沈黙が落ちた。

 おれは気を取り直して顔を上げた。ザックスはわざわざ心配して駆けつけてくれたのだから。

 

「ザックス、おれは大丈夫。ねぇ、なにかできることない? みんなバラバラになっちゃって、指示を仰げる人、いないんだよ」

「あ、ああ。そうだな。いや……必要なものを持って、そのまま前軍と合流しろ。今、手分けをして鎮火活動に当たっているが……燃え広がらないよう、食い止めるくらいのことしかできない」

「だったら、おれも手伝う」

 彼の言葉に覆い被せるようにそう言った。こんなときまでみそっかす扱いで、心配されるだけなのが、情けなかったのだ。

「意地を張るな、クラウド。真っ青だぞ」

「……だいじょうぶ。もう落ち着いたから」

「ならいいが。……とにかくもうこの場所でやれることはない。体力があるなら、前軍で負傷兵の手当を手伝ってくれ」

「……怪我した人……多いんだね。そりゃ、そうだよね。この火勢じゃ……」

「え? あ、ああ」

「ザックス?」

 おれは、彼がおかしな風に口ごもったのが気になった。だいたいザックスはウソが下手なのだ。いや、隠し事だって、なかなかできる人物ではない。

「ザックス? ……ねぇ、どうしたの?」

「何がだ?」

「……おれに何か隠してる」

「…………」

「ザックスたちの部隊にも何かあったんじゃないの? どうしてそんなに困った顔してるの?」

「…………」

「言ってってば! さっき話たろ? 何かあったのかって、心配して待っているほうが辛いんだよ! ねぇ! どうしたの?」

「……俺たちの部隊を襲ったのは、ゲリラだけじゃなかったんだよ。夜行性のモンスターが、人間の匂いをかぎつけたところに、ちょうどゲリラの攻撃が重なったんだ」

「…………」

「最悪のタイミングだったワケだ」

「……それで?」

 それだけではないだろう。だったら、何も、そんなに苦しそうな顔をする必要はないはずだ。

「それで?ザックス」

 彼は追求するおれに、ひとつため息を吐くと、あきらめたように口を開いた。

「……夜だってことも、土地勘のない俺たちには不利だったし、そのモンスターっていうのも……その……」

「何なのッ!?」

 叱りつけるように、おれは先を促した。

「……襲ってきたモンスターはデータになかったんだ。未確認だから、対処に手間取った」

「…………」

「たぶん、モンスターの戦闘能力や大きさから言っても、この区域の主のようなヤツなんだろう。……その上、土地勘のあるゲリラが相手じゃ、先に調査に派遣された部隊は、望み薄かもしれないな」

「……そう」

「実際、俺たちの部隊だって、負傷者は多く出ているし、ソルジャーの何人かが、未確認モンスターを追跡したんだが……」

 それを聞いた瞬間、ゾワッと背筋がそそけ立つのを感じた。

 

 

 

 

 

 

「で……そ、そのソルジャーの人たちは……?」

「あ、ああ、心配ない。ソルジャーでも、ファーストとセカンドの数名が行っているからな」

「セフィ…ロス…も?」

 極力動揺を見取られないよう、静かに訊ねたつもりだった。

 ザックスは、敢えて無表情を装って、軽く、

「ああ」

 とだけ答えた。

 背筋を走る、ゾワゾワがひどくなった。

 チクッチクッと心臓のあたりに痛みが走る。針で刺されるような、大怪我にはならないけど、ひどく痛い……あの嫌な感じ……

 

「クラウド、ここに居てもやれることはない。行くぞ」

 ミネラルウォーターのボトルをおれに手渡し、ザックスは話はおわりとばかりに踵を返した。

 と、ちょうどそのときであった。

 ザックスと同じソルジャー階級の人が、こっちに向かって走ってきたのは。

 

「ザックス! ……ザックス!! 連絡が……」

「おう!」

 緊張した面もちで、そちらを振り返るザックス。おれにはあまり聞かせたくないと、瞬時に判断したのだろう。ザックスは同僚の肩を押すと、少し距離を取った。

 だが、おれだって後方支援とはいえ、派遣部隊の一員だ。

 ザックスに止められないのをいいことに、おれは不躾にもソルジャー同士の会話に首を突っ込んだ。

 

 ……兄貴分のザックスの気遣いは有り難いと思うけど、聞かないでいるほうが不安になってしまう。

 ザックスはそんな態度を読みとったのだろう。その上さらにおれを遠ざけることはしなかった。

 

 

「モンスターの追跡をしていた連中が帰還した。……残念だが、死者が出たらしい」

 やってきたソルジャーの人が、苦々しげにつぶやいた。

 ……ズクン!と心臓が波打った。

「……そうか。データがないからな。未知のモンスターだと、戦闘手段の選択も難しい」

「ああ、かなり凶暴な奴のようだ。指揮はセフィロスが執ったのだが……」

 そこまで言いかけて、ザックスの同僚の人は、ハッとおれを見た。セフィロスは有名人だから……きっとおれの存在も、ある程度は知られてしまっているのだろう。

「あ、いや……」

「何なんですか……? セフィロスが……なにか……」

「いや、僕も直接見たわけじゃないし、他の隊員から話を聞いただけだから……」

「言って下さい! お願いです……ッ セフィロスに何かあったんですか?」

 ザックスよりも淡いブルーアイをした彼が、困惑したふうに視線を泳がせた。

「おい、クラウド、落ち着け!」

「いいから!! ザックスは黙っててよ! 教えて下さい……!! セフィロスは……セフィは……!!」

「……それが……その……」

「教えて下さい。おれも……隊員なんですから……!」

「セフィロスも……まだ消息が知れないんだ」

 申し訳なさそうに、ソルジャーの人は目を反らせた。彼が悪いわけでもないのに。

 

 ……セフィロスの消息が知れない……

 

 すぅっと頭から血の気が引いていった。

 貧血……? こんなときに……!?

 

「おい、君……!?」

「クラウドッ!」

 

 ああ、なんて情けないんだろ、おれは…… こんなとこで倒れて、お荷物になってる場合じゃないだろ……?

 今、一番大事な時じゃないか……ちゃんとセフィの安否を尋ねて、おれにできることがあるなら、どんなことでも……しなきゃいけない……のに……

 

 強くて大きくて綺麗なセフィロスの姿が、さっきの同僚の焦げた骸と重なった。

 

 おれが最後に見た光景は、足元の黒い土と腹に回されたザックスの腕であった……