In the middle of summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「……で? ちゃんと説明してもらえる? 兄さん」

 ヤズーを中心にカダージュ、ロッズが周りを固め、俺に対峙している。

 カダージュはものめずらしそうに、セフィロスとヴィンセントをじろじろ見比べている。ロッズは状況が飲み込めなくて怖いのか、ぎゅっと身を縮こまらせたままだ。

 

「だから……壺が落っこちたんだよ。しかたないだろ、落ちた物は!」

「兄さん、偉そうに言える立場じゃないよね?」

「……わかってるよ、ゴメンってば」

 俺はむっつりとして謝った。

 確かに俺のせいだとはいえ、こんな風に罪人扱いされるのはたまらない。俺だって、今回の一件については深く深く反省しているし、またショックでもあるのだ。

 

「で、ヴィンセントの姿をしているのが、セフィロスで……セフィロスの中身はヴィンセントなんだね?」

 ヤズーが確認するようにゆっくりと言った。

「ええ〜っ! ホント? ホントにそうなの? だって、ヴィンセントはヴィンセントじゃない? どーしてセフィロスになっちゃったの……?」

「うるさい、じろじろ見るな、クソガキッ!」

 ヴィンセントが……もとい、『ヴィンセント』の姿をしたセフィロスが怒鳴った。

 

「うわぁん、ヴィンセントが〜」

「ちがうよ、中身は。今、怒鳴ったのはセフィロスだよ。ヴィンセントがあんな口をきくわけないだろう、カダ?」

 ヤズーがフォローをする。

「なんだと、貴様……」

 『ヴィンセント』が凄む。中身がセフィロスだと、いつもは柔和に見えるヴィンセントの面差しも、表情次第で、こんなにも迫力があるのかと驚かされる。

「やめてくれ、セフィロス……この子たちだって悪気があって言っているわけじゃないんだ。事故だったんだから……」

 泣き出しそうなカダージュを『セフィロス』が庇う。いや、もちろん中身がヴィンセントの『セフィロス』だ。

 

「おい、貴様! オレの姿でそんな情けないツラをするなッ!」
 
 『ヴィンセント』の姿のまま、セフィロスが怒鳴った。

「す、すまない……つい……」

「そのツラだッ! そのツラーッ! 貴様、オレの話を聞いているのかッ!」

 セフィロスの入った『ヴィンセント』は、ダンッと立ち上がると、キィィィィーッ!とばかりに飛びかかり、セフィロス本体の銀髪を掴み締めた。

                  

 ……恐ろしい図だ……

 ……あのヴィンセントの華奢な身体が、セフィロスの巨躯に飛びついて、その髪を引っ張り上げるなど……

 

「痛ッ! やめてくれ……君の身体に傷がついてしまう……」

 うるうると涙目になった『セフィロス』の中のヴィンセント。それは『本人』を激昂させるのに十分だったらしい。

「貴様ッ! わざとか?わざとなのかッ! このオレの姿を借りて、クソ情けない……ッ! もっと堂々とせんか、堂々とッ!」

「わ、わかってはいるのだが……でも……」

「とにかく泣くなッ! 顔を拭かんか、バカ者がッ!」

 肩を怒らせて怒鳴りつける『ヴィンセント』。

「……うっ……うっ……」

「大丈夫、セフィ……じゃなくて、ヴィンセント。ほら、いいかげんにしなよ、セフィロス。怒ったって元に戻るわけじゃないでしょ? 不安なのはヴィンセントも同じなんだから……」

 ヤズーが『セフィロス』の長身を抱きしめてそう言う。
 
「ヤズー……す、すまない」
 
「あなたがあやまるコトじゃないでしょ。落ち着いて、ヴィンセント」
 
「あ、ああ……」
 
 オドオドと心許なげではあるが、ヴィンセントは指で紅くなった頬を押さえた。一見しただけでは、涙目になったセフィロスの頬を、ヤズーがハンカチでぬぐってやる図式だ。

 なんだか妙な気分になってくる。

 

 

 昨日まで、強くて乱暴で怖かった『セフィロス』が、今はヤズーの腕の中で震えている。そして、立ち居振る舞いさえも物静かで、誰にでも優しく穏やかだった『ヴィンセント』が、ソファにふんぞり返って足組みをしているのだ。

 中身は逆だ……そう頭で理解していても、ビジュアルが人の目に与える印象は、これほどまでに強いのだと知れる。

 

「ちょっと、兄さん、惚けてる場合じゃないでしょ」

 きつい口調で、そうヤズーに声をかけられ、オレは正気に戻った。

「あ、ご、ごめん」

「まぁ、兄さんがショックなのもわかるけどさ。……どうもお医者に相談するって種類の話でもなさそうだよね」

「そうだな……脚ひっかけて、壺が落ちてきた拍子にこうなったわけだから……二人同時に頭を打ったとか……」

「だからって、こうはならないよね、フツウ」

 ヤズーが吐息混じりにそうつぶやいた。

 そうなのだ。だからといってこんな事が起こるとは想定外だ。

 

「さてと、今日はもういい時間だし……休むことにしよう。明日になったらまた違った局面が見えてくるかも知れないしね。カダ、おいで」

「うん……あの……だ、だいじょうぶ? ヴィンセント……」

 幼いなりに心配なのだろう。カダージュが『セフィロス』の姿をしたヴィンセントに声をかけた。彼はとてもヴィンセントになついているのだ。

「あ、ああ……ありがとうカダージュ……」

 けなげにも微笑を浮かべてそう応える『セフィロス』……もちろん中身はヴィンセントだ。

 

 こんな場合に不届きな話だとは思うのだが、そう言って儚げに微笑む『セフィロス』は、ひどく綺麗で……いや、もともと「綺麗」なヤツではあるのだが、なんというか……憑き物が落ちたように清廉で、やわらかくて……そしてあろことか可愛らしくさえ見えるのだ。

 やはり人間は、外見よりも中身が重要ということなのだろう。

                       

「ヴィンセント、大丈夫か? ……その、もし不安だったら一緒に寝るか……?」

 俺は『セフィロス』の姿のヴィンセントに声をかけた。

「い、いや……大丈夫だ……今日はもう何も考えずに眠ることにする」

 さすがに参っているのだろう。言葉少なにそう応えると、彼は部屋に引き取っていった。

セフィロスもセフィロスで、さすがに居心地が悪いのか、さっさと引っ込んでしまう。

 取り残された俺は、深い溜め息をついた。

 

 いや、落ち込んでいる場合じゃない。

 明日は仕事だが、足を伸ばすついでにいろいろと調べてこようと思う。なにもせずにただ待っているよりは、何か出来ることがないか捜してみよう……そして、なるべく平常心を持って振る舞おう。

 

 そう自分に言い聞かせる俺であった。