In the middle of summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 俺は最低だと思う。

 ああ、俺は最低野郎だ。

 

 ヴィンセントのことが心配だ。心から彼のことを想っている。

 だが、俺の『彼のための心配』は、結局『俺』のためでもあるのだとわかっている。

 

 一日でも早く……できることなら、もう今すぐにでも、あの紅い瞳で俺を見つめて欲しい。

「愛してる、クラウド」って、耳元で言って欲しい。

 髪を撫でて額にキスして欲しい。

 

 そして、ヴィンセントの黒髪を指で梳いて、薄い耳朶を噛み、細い首に口づけてみたい。

肉の薄い肌に痕をつけて、自分のものなのだと……確認したい。

 

 ほんの半月ばかり触れ合っていないだけなのに。

 俺の心と身体はこんなにも飢えている。

 

 喉が渇いているわけではないのに、身体がカラカラに干上がっているような気がする。

 ああ、そうなんだ、と思う。

 このときの俺は、少しどこかおかしかったのだろう。

 

 普通なら、そんなこと絶対にしようと思わなかっただろう。いや考えつきさえもしなかったはずだ。

 でも、どうしても、今……今すぐ、そう今夜にでも、ヴィンセントの細い指で頬を撫でて欲しかった。背中を抱きしめて俺の名を呼んで欲しかったのだ。

 

 

 

  

 ヤズーたちとヴィンセントが部屋に引き取った後、俺もすごすごと自室に戻った。長湯する気にもなれず、頭からシャワーを浴びて身体を洗う。

 機械的に入浴をすませた俺は、真っ暗な自室のベッドに潜り込んだ。

 もう、なにも考えたくなかった。何か考えても、どうせ最期はヴィンセントに行き着くのだから。

  

 先ほどの悪ふざけ……セフィロスの入った『ヴィンセント』は、驚くほど色っぽかった。

 もちろん、人の悪いセフィロスが、わざと俺の歓心を買うようにしむけたのだろう。だが、わずかに上目遣いで、眉を寄せて……開いたシャツから薄い胸が見えて……

 

『……キスして……クラウド……』

 

 その言葉を口の中で繰り返してみた。そっと……舌先で味わうように。

 するとドッドッドッと胸が鳴り、腹の奥が熱くなってくる。

「キた……!」という感じがする。……もちろん下半身に。

 

 ああ、ここから先のことは、死んでもヴィンセントには言えない。

 セフィロスのいうとおり、しょせん俺は、性欲に惑うガキということなのかもしれない。

 

 俺はほとんど夢遊病者のように、ゆらゆらと起きあがると部屋を出た。

 一応、ベッドに入って1,2時間経った頃だと思う。

 もちろん、廊下は真っ暗で、人の気配はない。

 

 俺はずるずると壁にもたれかかりつつ、セフィロスの部屋へ向かった。

 そこには、『ヴィンセント』が眠っているはずだ。

 

 もちろん、彼はドアに鍵などかけていない。軽く扉を押すと、それはキィィと音を立てて薄く開いた。

 

 ……きっと、ここまで読んだ人は、俺がなにをしようとしたか気付いてしまうだろう。

 

 そうだ、俺はバカなんだ、大バカなんだと思う。

 

 俺はセフィロスの部屋……この家の中で一番豪奢なつくりの洋間を開くと、そっと中に滑り込んだ。

 彼に宛われた部屋は、二間つづきの客室で、サニタリールームも付いている。

 ベッドは、窓際に設置され、出窓には花瓶が備えてあり、綺麗な花まで飾ってある。

 もちろん、セフィロス自身がこのように身の回りを整えたわけではない。ヴィンセントの気配りだ。

 

 大きめの寝台に、細い『ヴィンセント』の身体が横たわっている。淡く月明かりに映し出され、幻想的な美しさだ。

 もちろん、中身はセフィロスだとわかっていても、こうして眠っている姿は、俺のヴィンセントそのものだった。

 

「……? む……?」

 人の気配に気付いたのだろう。『ヴィンセント』の姿のセフィロスが、鬱陶しげに瞳を擦った。

 

「……だれだ……?」

「…………」

「クラウド……?」

 『ヴィンセント』の低く少し掠れた声が俺の名を呼ぶ。

「……あ」

 バカみたいに、声をあげる俺。

 

「あ、あの……」

「なんだ、どうした……」

「あ、あのッ……」

 『ヴィンセント』の双眸が俺を見つめる。背後から追い立てるように月明かりが差込み、彼の紅い瞳をときおり金色に煌めかせる。

 

「『ヴィンセント』……ッ」

 俺はセフィロスにそう呼びかけた。

「はぁ? 寝ぼけてんのか、ガキが。オレは……」

「わかってる、わかってるよ! でも、でも、俺……もうッ!」

 

 わがままでヘタレなクラウド・ストライフ。

 我慢の効かないクソガキ。

 

 どう罵られても言い返すことはできない。そんな愚行を俺はしでかしている。

 

 俺は『ヴィンセント』の両腕をぐいと握りしめ、そのままベッドに押し倒した。